第4話 股!「共通の知人の紹介」キター!

 恋をするって、こんなに苦しいことだったなんて!

「なあすーさんさ、なんかいい薬ない? 佐田さんの、僕に対する不安、腹痛を止める特効薬!」

「それは他力本願ではないでござるよ。目をつけた娘をヤク漬けにし、街に立たせ、客でも取らせるのでござるか? 欧米か!」

「チガウヨー! 全然チガウヨー!」

 緊張して下痢しなきゃ、まだ『話し合いの余地』ありなんだろ? だったら、ここでもう一発、他力本願砲を発射した、

「ところで、それは軟者ではなく、忍者、現代でいうなら極道のすることでござるよ。そもそもどうやって佐田氏に軟宝下痢止め薬を飲ますでござるか?」

「それはすーさんがさ、明日、モールに朝イチで出向き、佐田さんを呼び出して、昨日はすまなかったとか、土下座なり、指を詰めるなり、腹を切るなりしてさ、僕が食事も喉に通らず、今も布団を被って涙にくれてるとかいって」

「勢夏王は女子なのでござるか? それに下痢は治まっても、失禁が止まらなければ」

「理屈より他力本願行動! 今すぐなんとかしてよ、あー」

 あの惨劇の後のことはよく覚えていない。

 でもあれは、きっとボタンの掛け違いってやつで、

「だって佐田さん、僕の顔 どストライクだっていってたじゃん! 何でもいいから、佐田さんの気持ちをつかんで、ワイに向けて離さない、汚い反則軟術、あるんでしょ?」

「顔はストライクでも、高校中退でワンボール、元ニートでツーボール、現フリーター、きわどいコースに外れてスリーボール。現在0対0、9回裏ツーアウト満塁、カウントワンスリー、佐田氏はそう釘を刺していたではないですか」

「いやいやいや、昨日はペナルティエリア内での、佐田さんの反則下痢だから、次は僕のPKからの再開だろ?」

「なら、佐田氏は一発レッドでお手洗い退場、もうピッチにはいないでござるよ」

「もう! 君とはやっとられんわ!」

「どうもありがとうございました!」

 漫才やってんじゃねえぞ!

「とにかく、明日は明るい日と信じて、さっさと寝るでござるよ」


               ◐


「なんで黙ってんだい! 我が家はボケとツッコミの絶えない、爆笑家族なんだろ?!」

 眠れないまま朝を迎え、一階に降りていくと、母も妹も傷ついた長男兼家長をがん無視した。

「なんで昨日、なぜあのタイミングで、あのフードコートにいた? いるならいるで、どうしていると告知しない?」

 ハタチといえば立派な成人。

 それが就職もせず、フリーターで実家暮らし。

 てへ! 

 じゃない、なんつーのか、カッコつけたい、いきりたいお年頃なのに、いちばん見せたくない、恥ずかしい現場を。

 う○こもらしたとか、おねしょしたとか、黒歴史を全部知ってる母、日頃、兄としてえらそうにダメ出しをしている妹に、背後にいるのを気づかず全目撃されるとは、

「風が語りかけます、痛い、痛すぎる!」

 誰だよこの超イラつく美声ナレーション..

「だからいったろ、高校中退元ニートと、現役芸大生なんて始まる前からねえって」

「叔父さん! なんでいるの?!」

「姉さんから、わいおーゆー、てーゆーびーいー」

「それYOU TUBE っていいたいの?」

「で見た、お前の告白玉砕動画を見て」

「お袋! なにもそこまでしなくたっていいだろ!」

「お母さんじゃないわよ。昨日、桃山さんちの、悦子ちゃんか淑子ちゃんが来て、ネットで勢夏先輩の生き恥が、ノーカットモザイクなし、英語字幕つきで、全世界に向けて発信されていますって」

「あんガキャー..よくもうpしてくれたなー! よくも」

「勢夏王、ちょ、待てよ」

 すーさんが大あくびしながら割って入り、

「それぼっくでーす!」

「は?」

「無職がアフィで稼ぐ。サトシがポケ(以下略)ゲットするのと同じくらい普通のことでしょ?」

 もう一歩も外に出れない、リターンニートするしかない!

 僕が床にくず折れた瞬間、魔の四人は肩を組んで声を揃え、

「うっそでーす!」


                ◐


「恥もとことん広げれば、薄まって笑い話になるものさ」

 あの時の恥動画が存在し、それがネットで拡散されている。

 それがうっそでーす! だった時の、

「マンモスうれぴーは、失恋の痛みを忘れさせてくれるだろ?」

 親父が遠方に長期単身赴任中の今、『父親代わり』として甥の苦境に、ママチャリに乗り、正一叔父は朝の四時に家を出て、二時間かけて我が家に駆けつけて来たのだそうだ。

「叔父さん、失恋じゃないよ。叔父さんの好きな相撲でいうなら『水入り』だよ」

「叔父さんは相撲になんか興味ないぞ」

「そんなことより、OB、先輩として、ちゃんと佐田さんとの間に立って、うまいこと仲を取り持ってくれるんだろうね?」

「他力本願しやがって、実家住まいのフリーターだって」

「だって?」

「とにかく姉さんから、君が身分不相応な恋に、無駄な労力を費やしてばかみたいだから、しっかり白黒つけてくれ。頼まれた以上、叔父さんも可愛い甥っ子たる、勢夏くんのために、喜んで首を折るよ」

 骨!

 叔父さんは夢で飯は食えていても、それほど金銭的余裕はないのか、ホームセンターで一万円の、僕と同じ銀色のママチャリで、モールまで同行してくれることになり。

 あとで徒歩のすーさんと合流し、佐田さんとの仲を、二人で他力本願してくれるという。

「ここか。よし、勢夏の休憩時間まで、叔父さんが美魔中年の魅力で、こっそりエロパンツ屋を偵察しといてやろう」

「でも、Make Lは11時にならないと開かないよ」

「そっか。おい勢夏、ここ朝から酒飲めるとこあるか?」


               ◐


 バイトというのは退屈なもので、家で好きなことをしている時と違い、一分たつのがなんと長いことか。

 あー、早く佐田さんと、今日ここで一瞬で、心と心が結ばれてだね、浴衣花火デートできる仲に..

「ねえ勢夏くん、一昨日、仮病で休むっていいに来た、若いんだかおっさんなんだか分かんない、ホストみたいな可愛い子、あれ、何してる人なの?」

 こりゃまた面倒くさい。

 そう聞かれても、一般ピーポーに、軟者とはなんじゃとか。

 いって、説明しても、理解出来ないし、アホの子扱いされるのが関の山だ。

「無職の遊び人ですよ」

 すーさんにいわれたまま返事すると、

「ならうちの娘たちの家庭教師をしてもらえないかしら、その、無料のボランティアで」

「何を教えるんですか?」

「女子力とか、可愛げとか。せっかく若くて可愛いのに、あの二人ときたら、二度とない青春を、空手と反社会的創作活動だけに打ち込んでいて。母として、将来が心配なのよ」

「反社会的創作活動って、どんなものを描いてるんですか?」

 桃山さんは顔を曇らせ、

「あたしみたいな、昭和の少女漫画世代には、まったく理解出来ないような、流血シーンまである、暗闇での、えげつない男同士の乱とか」

 流血シーンまである、暗闇での、えげつない男同士の乱

 やはりあの二人、自分たちのキャラそのまんまの、デン犬源太御用達の、えげつない暴力満載の、ヤンキー漫画描いてるのか!

 美人すぎる双子のヤンキー漫画家、『素人処女兄弟』..

 売れたらマツコのテレビに呼ばれそうだな。

「でも二人が学校行ってる隙に、秘密の方法で机の鍵開けて、こっそり見たから、二人にはナイショよ?」

 まったく母親ってのは、ドイツもジャパンも、面倒くさいというか、子供に過干渉するだけの迷惑な存在だな。


               ◐


 休憩時間になったのでフードコートに行くと、

「叔父さんなら、イオンで買った百円缶チューハイ、5缶開けて泥酔し、フードコート追い出されたでござるよ」

 だろうと思った、まんまその通り!!

「いいよ、すーさんさえいれば」

「それに、さっきエロパンツ屋いったら、佐田氏いなかったでござるよ」

「まさか、ショックで自殺未遂とか?」

「そんな、娘は惚れてもいない男のせいで、わざわざ自殺などしないでござるよ」

「ちゃんと確認してくれたの?」

「店長らしきアラフォーに、今日は看板娘お休み? 聞いたら、すごい怖い顔で、出勤してますけど。低い声でガン飛ばされたでござる」

「で?」

「軟だ、看板娘なら、目の前にいるじゃないですか! 軟法お世辞の術を使ったら、急に機嫌よくなって」

 すーさんが聞き出した話によると、佐田さんは強引なデートの誘いなど、源太のしつこいセクハラで、コンビニバイトをやめざるえなくなり、『共通の知人』を介し、芸大OBの紹介で、ほぼ女性しかこない、今のエロパンツ屋に勤めているそうだ。

「まあ、ツッパリ仕様のすーさんの誘導尋問で、今現在、佐田さんにカレシいないのは確定済みだけど。いや、ぶっちゃけ僕はサ、そんなことまったく気にしないけどサ。はは。ぶっちゃけ佐田さんの過去の、淡い片思い関係の話とか。はは。すーさんも好きだから聞き出したんでしょ? え? そこんとこぶっちゃけどうなのよ?」

「下痢娘の男関係を、今度は拙者にゲロしろと?」

「はっはっは、うまいこというね。で、そこんとこぶっちゃけどうなのよ、はよ教えーや、おう!?」

「それがでござる」

 すーさんは急に顔をくもらせた。

 え、なに、やだよ、佐田さんの過去に、実はディープな男関係があったとか。

「いやあ、ごめんごめんご。徹夜明けで軽く飲んだら、記憶失っちゃってさあ。気づいたら多目的トイレ。股! ですかとか、警備のデブ兄ちゃんに叱られちゃいました、てへ!」

 そんなにお疲れなら、もう帰ってもらって結構ですから。

 突然、正一叔父さんが割って入り、

「ちょ、待てよ。いつも好意的な視線しか浴びなれてないまーくんに、なんでそこにいるのよ! 的な、殺意ビーム浴びせ続ける、めっちゃアラフォーなビービーエーがいるんだけど、なんだあれ」

「あー、あれがMake Lの看板娘でござるよ」

 いや、そんな話より、佐田さんの過去の男関係を。

「大団円くん...ホント、マジ、積年の超おひさしぶり。まさかこんなところで再会できるとは、神様もよっぽど腹に据えかねてるのね!」

 看板娘は怒り心頭ウォークで、叔父さんにつかつかと歩みより、殺気だった顔で叔父さんを指さし、吐き捨てた。

「誰?」

 叔父さんがきょとんとした顔でいうと、

「覚えてないの?!」

 看板娘はわなわなと震えだし、

「イヤー、ザッツ頼!」

 叔父さんが、

「欧米か!」

 一人ノリツッコミでたたみかけると、看板娘もテーブルをたたいて、

「20年前!」

「過去なんて捨てて前を向き、大切な今を突き抜けよ」

 ベテラン看板娘は、一席空いていた、僕の隣に憤然と座り、

「覚えてないの? やらずぶん殴り王子、あたしよ、粒余女、近子よ!」

「つぶあまりじょくん?!」

「つ、よ、め!」

「きんし?!」

「ち、か、こ! この期に及んで、呼び捨てにされる覚えはないけど、そうよ!」

「老けたなー。どうしたんだよ、その誰だか分からないほどの劣化、ああ..『失敗』したのか、ざんねーん!」

「その今時波田陽区、千年に一人の暴言の貴公子、大団円くんは、ホント、昔と寸分たがわず変わらないわね!」

「いや、俺もあれからきびしい鍛練で成長し、より深く、鋭利に進化したよ」

 ベテラン看板娘は、バックからコンパクトをだし、パフをはたきながら、

「21世紀の手塚治虫に俺はなる! 芸大時代、なんか超豪語してたけど、夢はかなわなかったの?」

 叔父さんも負けじと、どこに隠し持っていたのか、100円缶チューハイを取り出し、プルを抜いた。

 そうして、『フードコート内飲酒喫煙禁止』の貼り紙に、缶を掲げ、喉を鳴らしてイッキ飲みし、

「夢はかなうまで挑戦し続けてこそ夢! そういう君こそ、世界的ファッションデザイナーなって、パリコレのランウェイからお前をあざ笑ってやる。まあ、結果は聞かないでおくよ」

「栄光なんて一瞬の虚飾! 拒食症や依存症の巣窟なんかより、地に足をつけた、庶民の夢に答える! そう目覚めたあたしは、リーズナブルな女性下着の世界で、デザイナー兼実業家として現在活躍中、そこそこ!」

「煽りやがって、芸大ビービーエーだって容赦しないぜ」

「ええ、あんたがオッサンなのと同様、あたしもアラフォー、ババアですよ!」

「暴言の貴公子が、そんな甘い言葉かけるもんか。ババア兼、ビーは場末のビー、ビーはぶざまのビー、エーはあきらめがわるいのエーだ!」

「場末でぶざまなパンツ屋やってるあきらめのわるいババア?」

「イヤーザッツ頼!」

「相変わらず、あとからじわじわきて、怒りが長く効く、極悪の暴言吐いてくれるじゃない。あなたこそ、平日の昼間からこんなとこで飲んだくれて、バイトの面接? それともクビ?」

 叔父さんはコスパがいいのか、缶チューハイ一本で目が座り、

「ふ、あいにく、僕は漫画で飯が食えてるよ」

「へー、どんなペンネーム? なんて漫画? あたし泥酔するたびに、スマホであなたの名前、漫画家でクロス検索するけど、な~んも出ないですけど!」

 叔父さんは急に口ごもり、

「僕はジェントルマンだよ」

「どこが! かーつ、なんの話? え、夢でメッシがハットトリック決めた? どのゴールポストに!」

 そこへ、

「お待たせしました」

 この空気で佐田さん居んダーハーウス。


               ◐


「千明、こちらのアラフォー、独身、職業負傷、いえ、不肖、いえ不詳の大団円正一さん」

「ア、アーティストネームってやつですか? ゲスの絵音さんみたいな?」

「ゲスなのはあたっているけど、名前は、千明..なんで顔をそむけるの。ああ、悪い男は匂いで分かるってやつね?」

「いえ、あたしイケメンさん見ると、すぐトイレに行きたくなって」

「お嬢さん、君のゴール」

「浴びなくていいですからね! 千明大丈夫? すぐこの場を離れる?」

「先輩! 奇跡です! 大団円さんが超絶イケメン過ぎて、あたしの中で、勢夏さんが10ランク格下げになり、もはやそこらのフツメン、見てもお腹痛くなりません!」

 すーさんがガッツポーズで立ち上がり、

「ストライクツー! 勢夏王、よかったぜござるな!」

 叔父さんはどや顔でハイタッチポーズをし、

「はっはっは、鋼の叔父力に参ったするか? 勢夏、日立歌手だぞ!」

 一つ貸し!

 ヒーロー漫画と違い、めっちゃドタバタしたけど、これでいいんだ、さて。

「『共通の知人』の紹介で、こうして僕ら二人、改めて出会えました。さあ、佐田さん、あちらのカップル席に移動し、あとは若い二人だけで、積もる話でもしようじゃないですか!」

「ごめんなさい」

「エ?」

「あたしこの後、授業あるんで。先輩これ鍵」

 渡すと、佐田さんは行きかけた。

「ちょっと待ったー!」

 近子さんは後輩を呼び止めると、

「この、今いることに気づいたジミーチュウ男子が、あなたが一瞬いいなと思った」

 佐田さんは戻ってきて、近子さんにうなずいた!

「ほう、この子がセーナくんか」

「いえ、短く勢夏さんです」

 一瞬でもいい、いいネと思ってくれたら。

 そこから広げる、盛り上げる!

「叔父さん!『共通の知人』として、ここは大いに甥っ子をって、叔父さんどうしたの? 急に真っ青になって、飲み過ぎ?」

「セーナ! セーナ! セーナ!」

 近子さんは、急に酔いが冷めた顔の叔父さんに、指さし謎コールを浴びせて下を向かせると、マウント態勢に入った。

 謎のどや顔で、

「申し訳ないけどセーナくん!」

「先輩、短く勢夏さん!」

「後輩、黙ってな」

 近子さんはホラー映画の、呪われた側の顔になり、

「こいつらに関わるとろくなことない。いえ、こいつらは女の一生を台無しにする、魔の一族なの。ソースはこのあたし」

 近子さんはホラー感を維持した、怖い顔で僕たちを指さし、

「千明、どちらか選びな。被害者の忠告にしたがって、セーナとの縁を切るか。ババアの若さへのひがみだと、忠告を無視し、あとは若いお二人でコースを選択するか。どっちを選択してもあなたの自由。ただし、あとは若いお二人でを選んだ場合、あなたはバイト即刻クビ、今日から偽りの愛にさ迷い、も一つおまけに突然の収入ゼロで、路頭に迷いなさい!」

 叔父さんは冷や汗をぬぐい、他人事のようにいった。

「勢夏、これが軟者の呪いだ」

 お前のせえやろ!!

 『共通の知人』に、もれなく『苦痛の親戚』がついてくるなんて!

「きいてないよー!」

 叫ぶと、一同が僕を見た。

 僕はすーさんがすかさず差し出した、見えない帽子を受け取り、流れるような無駄な動作ボケで床に叩きつけ、佐田さんと近子さんの度肝を抜いた。

 今だ、俺が軟者の呪いを解く時は!

 僕は立ち上がって、佐田さんに告白した。

「佐田さん、あんまり話せませんでした、というよりほとんど話してませんけど、一目あったその時から、僕はあなただって決めていました!!」

 よし、佐田さんも、もうお腹ではなく、口を押さえて僕を見ているし、近子さんも僕の出方次第、『応相談』みたいな顔をしている!

「だから、もう包み隠さず、本当の気持ちを伝えます!」

 僕は背を折り、右手を差し出し、目をつぶった天命待ちポーズで、声を限りに叫んだ!

「佐田さん! 僕と..」

 えーい、いっちまえ!

「僕と一緒に、百均でバイトしてください!」

 目を開けると、全員が床にこけていた...


 



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