忙殺

 直ぐに出来ることはやらなければと、最初に取り組んだのはWi-Fi利用時間の制限でした。

 家庭内Wi-Fiで、24時間快適なインターネット生活を送ってきた私たちにとって、それはとても苦しい選択でした。

「昔、ホットカーペットの電源を自動で切れるよう、装置買ったじゃん。あれ、使えないかな?」

 提案したのは私でした。

 冬場の暖房費節約のため、誰もいないときはホットカーペットの電源を切るように子どもたちには指導していたのですが、全く切る気配が無いので、時間指定して切れるようにしていたのです。ここ数年、全く使用していなかった装置が役に立ちそうでした。

「Wi-Fiが自動で切れるようになれば、管理は凄く楽になる」

 当初、学校側から提案されていたときは、時間になったら電源を手動で落とそうかという話をしていたのですが、日々忙殺されている私たちには負担が増すだけで、全く現実的ではありませんでした。

 そこで、文明の利器を使えないか色々と考えたわけです。

 何時に切るかで、更に揉めました。

「22時は?」

「早い! 絶対ダメ!」

 長女が真っ先に反対しました。ただでさえデータ容量の少ない契約をしている長女にとって、家庭内Wi-Fi環境が変化するのは大問題です。夜中のゲームも動画も、4G回線を利用することになったら、直ぐにデータ容量を超えてしまいます。

「でも、これは皆が協力しないとどうにもならないよ」

 私も夜中スマホを弄りまくっていますが、WEB閲覧くらいなので、特に困りません。

 しかし、夫も実のところ、夜中ノートパソコンでYouTube観ながら寝ているようだったので、本当は物凄く嫌だったに違いありません。

 結局22時半に毎日切れる、翌朝4時半には繋がるというタイマー設定を施しました。

 今現在(2018年8月時点)も、設定は変わらず、夜中はスマホ以外ではインターネットが出来ないようになっています。


 この処置によって、夜中、次女がコッソリ行っていたガッティーナちゃんとの通話が一切出来なくなりました。事情を説明して、ガッティーナちゃんとは日中に会話して貰うよう促しました。

 のめり込んでいるゲームも、深夜帯には出来なくなりました。


 3月13日火曜日には、長女が未だ休みだったこともあって、次女は歩いて学校に行ったようです。少しずつ天候も良くなり、足元にも雪が少なくなってきた頃でした。

 その夜、役員の仕事で中学校へ行った夫が、Wi-Fiのタイマーのことを伝えると、皆で協力する姿勢がとてもよい、この調子で頑張りましょうといったような、励ましのお言葉をいただいてきたようでした。

 発表会の練習もあり、本当にバタバタと時間だけが過ぎていきました。


 この頃の予定はまた、悲惨な状態でした。

 3月15日木曜日は夜に幼稚園の余興練習、16日は夫が休んで県立病院へ次女の通院、中学校の卒業式もありましたが、こちらは休み。夕方には次男の予防接種もお願いしました。18日日曜日は小学校の卒業式があり、19日月曜日は中学校の修了式。修了証書を貰うため、次女も歩いて必死に登校しました。


 20日火曜日は幼稚園の卒園式のため私が1日休み、祝賀会が16時からありますが、次の日発表会があるため、事前練習が17時から。時間までに夜ご飯を全部こしらえて、大急ぎで準備をします。子どもたちは他に送り迎え出来る人がいないと一時間早く会場入りさせ、事務室で時間まで待ってもらいました。次男の迎えは夫に頼み、19時半頃祝賀会が終わる予定でしたが、練習は20時頃終わるとあって、夫が会場に子どもたちを迎えに行ったり、なんやらかんやら、とにかくメチャクチャです。


 21日水曜日、祝日に行われた発表会、夫は出張だったため、私と長女で具合の悪い次女を着替えさせ、運び、次男のトイレの世話をし、打ち上げの手伝いをして、結局子どもたちの歌なんて殆ど聞かずに終わりました。

 次女はどうにか自分の見せ場だけでも頑張ろうと、後半はステージに立ちました。

 他の保護者の方々にも次女のことは説明しましたが、今だけ風邪でも引いて具合悪いのかなと思われたようで、この辺は、やはり理解が難しい病気なのだなと、話す度に思います。


 こうやって死に物狂いで通常の日程をこなしている中、前述までのいわゆるパワハラ的な行為が途切れなく続いていましたので、私はだんだん、自分で自分がよく分からなくなってきていました。


 twitterの書き込みを見ますと、その悲惨さ、悲痛さがわかるかと思います。


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3月19日

酷く鬱々としていて、気持ちが上向きにならない。

生理前後に気持ちが沈むのと、次女の病気のことで悩み過ぎるのと、あまりにも行事や地域の仕事が多過ぎて気持ちが晴れない。

そんでまた今日も、聞かされてないことを聞いてないのかと言われて、私がおかしいのかだんだんわからなくなってきた。

posted at 12:30:38



これって病気?

と思うほど、やる気が起こらない。どうしたらいいか、自分で考えて行動して!←出来ない。

優先順位で動けばいいのに効率よく動けない。

……ダメだ。

もう、私に当たったお客さんゴメンなさいレベルに近づいてきてる。どうしようか。

posted at 12:30:39


どうにか出来たら困ってないよね。でも、困ってるから助けてって言えって言われても、なんか言えない。言える雰囲気じゃないもん。

気軽に相談出来るならしてる。

言いづらいし、どんどん深みにはまってる。

4月になればメンバー変わるから、どうにかなるんだろうか。

色々重なり過ぎて疲れたのかな。

posted at 12:41:06


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 毎月、同じような周期で気分が沈むような気がしたので、もしかしたら生理と何か関係があるのかなと、一人で疑っていた頃です。生理痛はあまりないのですが、とにかく生理の直前10日間くらいは酷く気持ちが沈んでいました。一週間前からは胸が張りますし、モヤモヤが増えていきます。

 生理のせいにしたかっただけかも知れません。

 実際は、チームリーダーがいる日といない日で気持ちの持ちようが違っていたのは確かでしたし、人目を気にしすぎて、誰も味方なんていないと思い込みがちになっていました。

 そんな中、私が泣いたのを切っ掛けに、

「今日は大丈夫だった?」

「何か言われた?」

 と、総務の方中心でしたけれども、声をかけてくださって、それは本当にありがたかったです。

 が、それはそれとして、あくまで自分と同じフロアで働く方々には、なるべく自分の気持ちは悟られないよう、必死に笑顔を作り続けました。それが張りぼてだったとしても、誰も気付かなかったでしょう。だって、みんながみんな、張りぼてのような笑顔で働いていたからです。

 数字が出来ない一因は、こうした閉塞感の詰まった職場環境にあったのだと思います。

 2月の初めに、パートさんが介護を理由に突然仕事を辞め、人手が全く足りず、私も慣れない担務に何度もかり出されました。人員確保ならず。いつまで経っても求人が埋まりません。

 本当に本当に、プライベートでも仕事でも、完全に行き詰まっていて、こんなにも忙しい、こんなにも限界の状態が続くんだと苦しみました。


 私が不穏な噂を耳にしたのは、本当に偶然でした。

 以前からお世話になっている別営業店の方に、スーパーで買い物中、偶然出会いました。長男が欲しかったお菓子を探すために訪れた、普段使わないスーパーだったので、これは本当に偶然です。

「Tさん仕事辞めるって、本当?」

 耳を疑いました。

 一緒の部署で働く、尊敬する先輩の名前でした。

「あれ? ゴメン、聞いてなかった?」

 人事異動の内示が出る、少し前のことでした。

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