給食を止めました

「給食、どうしますか」

 仕事から帰って夕食の支度をしていると、学校から連絡がありました。

 担任の先生より、長らく食べていない給食をどうすべきかの相談でした。

 学校給食は食材の注文など準備の関係で、4日前から停止、或いは再開をお願いできます。考える余地もなく、直ぐに給食を停止させて貰いました。二ヶ月近く、給食からは縁遠い状態になっていました。


 発病当初は朝ご飯と弁当のおかずの残りをそのままにして仕事に行っていたのですが、だんだん気温も高くなり、冷蔵庫にしまっておくようになりました。起きても直ぐには食欲がなく、おかずに手を付けない日も増えていました。

 パンがあるときは、適当に塗って食べるなどしていたようです。ご飯はお茶漬けにしてみたり、簡単なおかずで食べてみたり。

 朝ご飯を食べるのが12時頃。一般的に考えればお昼の時間です。

≪昼ご飯も3時頃食べてね≫

 一日三食というリズムを崩すのが怖かったので、最初はこうアドバイスしていました。

 夜は私が帰宅してからご飯を作るので、実際食べるのは20時過ぎ。どうしても途中お腹が空くに違いありませんでした。

 しかし、食欲もなく、生温さと気怠さ、気持ちの悪さから、どんどんご飯のタイミングはズレていき、日に二回しか食べない日が出てきたのも、この頃からだったと思います。

 何を用意しても食べなくなってきたので、食べたいものを自分で用意するようにさせました。冷たかったかも知れませんが、とにかく起きて動かなければ、今度は筋力が衰えていきます。自分で出来ることを自分でさせることも重要でした。

 元々器用だった次女は、簡単な料理なら自分で作るようになりました。炒飯や炒め物、レトルトのスープ。野菜を切って焼いて食べる、冷蔵庫の中から食材を見つけて何か作れないか考える。お腹が空いて頭も痛い中大変だったと思います。それでも、どうにかやっていたようです。


「6月29日に校外学習があるから、それには出ようね」

 というのが、この頃の合い言葉でした。地元を知る勉強の一環として、次女のクラスでは街外れにある資料館と防災施設に行く予定になっていました。授業では事前学習をしているとのこと。当日はバスで行くため、遅刻は出来ないことを伝えられました。

 2年生になり、授業へ参加することも、教室へ行くこともできない日々が続いていた次女にとって、それは少し大きすぎるハードルでした。けれど、自分だけ行かない、自分だけ出来ないというのも辛いものです。苦しいながらも頑張ろうという気持ちは、どこかにはあるようでした。


 さて、6月に入ると、東北も梅雨の季節を迎えます。次第に暑くなり、かと思えば涼しくなり、体調を崩しにくいのは皆一緒。例年の如く具合の悪い子が散見されるようになっていきました。

 長女の部活の大会だったり、習い事のイベントだったりをこなし、学校行事をこなし、通院をこなします。更に、学校から各種検診の結果が配られ、具合の悪いところを早急に見てもらうようにと通知が来ます。

 次女の場合、殆どの検診を行うことが出来ず、学校担当医の各医療機関へ土曜日や半日休を使って何度も赴きました。一日に、3つの医療機関へ行ったこともありました。どうにかこうにかそうやって奮闘する中、次男が胃腸炎、三女が便秘。次男は病児保育に通うことになり、その準備でバタバタしました。

 病児保育は8時からの利用です。預けてから仕事に行くと遅刻するため、朝1時間、時間給を申請しなければなりません。職場に上司が出勤する8時10分前後に電話をかけるのが先か、子どもを預けるのが先か。そもそも時間給を貰えるのか。いや、貰わないと仕事に行けませんので、貰いますね、的な内容の電話をかけ、病児保育所に駆け込みます。

 前日に具合が悪ければ当然、前日のうちに電話するなりするのですが、子どもという生き物は、予告というものを知りません。大抵朝急に具合が悪いか、夜中医療機関がしまってから具合が悪くなるか、でなければ、保育施設から「お熱です」「嘔吐です」と呼ばれるか、決まっているのです。

 そうやって死に物狂いで駆けずり回りながら、仕事では数字という名前の成果を求められ、徐々に疲弊。それでも現実は待ってくれません。

 本来ならば校外学習に向けて生活リズムを改善してやらなければならなかったのに、全く手助けする余裕がありませんでした。


 そんな中、次女は強硬手段に出ることを決意しました。

 どうせ朝方まで眠れない、眠ったら起きられないんだ。こうなったら、徹夜しかない、というものでした。

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