第120話 神・フォアグラの最期
王都オリンポス内某所地下。ホーレンソーとミソシルは、フォアグラの尋問を行っていた。
「一体どうやって脱獄した。言え!」
魔力封じの手錠を掛けられて拘束されたフォアグラに二人は詰め寄るが、フォアグラは沈黙を貫く。
と、その時、二人の背後からよく知った声が聞こえてきた。
「ホーレンソーさん、ミソシルさん、お疲れ様です」
「カクテル、一体何の用だ」
「拷問といえば私でしょう。ここは私に代わりますので、お二人はゆっくりお休み下さい」
あくまで適材適所の考えで来たとの主張で、カクテルは交代を求める。ホーレンソーは不信の目線を送った。が、カクテルの隣に現れた魔法陣から出現した人物を見て、ぎょっと目を見開く。
「ここはカクテルと我に任せよ。其方らはバトル運営の職務に専念するがよい」
ミソシルが即座に跪く。この地下牢に相応しくない高貴な装いを携えて、妖精王オーデンが降臨したのだ。
「陛下のご命令であるならば」
「……畏まりました」
絶対服従の姿勢を見せるミソシルと、不服な気持ちを押し殺すホーレンソー。二人がこの場を退出した後、オーデンとカクテルはフォアグラを見下ろした。カクテルは愉悦の笑みを浮かべており、仮面で表情の読めないオーデンもまたフォアグラを小馬鹿にしている様子は感じ取れた。
「無様だなフォアグラよ。これがかつて王になることを所望されるほど国民から慕われた騎士の姿か」
「貴方にはガッカリですよ。魔法少女の一人くらい惨殺してくれるかと期待していたというのに」
フォアグラは顔を上げることすらなく、沈黙を続けている。オーデンはその顔面に、不意打ちで爪先蹴りを入れた。
「貴様のことは前々から憎かった。我が貴様と比べられてどれほど侮辱されたことか」
先日マジパンの作ったフォアグラ像にやったのと同じように、何度もフォアグラを足蹴にする。
「気持ちよかったか? オーデンなんかよりもずっと王に相応しいと愚民どもから持て囃されるのは」
笑い声を上げながら何度も蹴っていると、ようやくフォアグラは顔を上げた。
「貴様も私も本来王位を継ぐ資格が無い身であることは同じ。ならば民から王になることを所望されている私の方がより王に相応しい」
やっと口を開いたかと思えば、その口から吐き捨てられたのは挑発の言葉。オーデンは怒るかと思えば、口角を上げて不気味に笑う。
「ククク……だが貴様は愚かにも国家への叛逆を企て、暴虐非道のテロリストとなり民からの信頼を失った。感謝するぞフォアグラ。貴様が自滅してくれてな」
オーデンはこちらからも煽り返した。フォアグラが奥歯を噛み締めたのを見て、オーデンはより心が躍った。
「貴様にも感謝せねばなカクテル。フォアグラを唆し自滅に導いてくれた立役者にな」
「ご光栄の限りです陛下」
畏まるカクテルに、フォアグラは視線を向ける。
「カクテル……貴様最初から私を陥れるつもりだったのか」
「最初は本気で協力するつもりでしたよ? 貴方が叛乱を起こしてくれれば国家が二分され私の見たいものが沢山見られそうでしたから。ただこれから起こるもっと面白いことのための準備として、教団には当て馬になって頂きました。いやぁ、国民的英雄の地位を自ら捨て逆賊に堕ちる様を見るのは実に愉快でしたよ」
息をするように煽るカクテルに、フォアグラは憎悪の眼差しを向けた。
「おやおや、恨むなら無謀な野心を抱いた自分を恨みましょう。さて陛下、これからこやつをどうされるおつもりで?」
「無論処刑だ。手下どもと同じくな。だが普通にやったところで面白くはない」
オーデンはそう言うと右腕を水平に伸ばし、その先に魔法陣を展開。その中から一本の剣が召喚された。
妖精王家の男子に代々受け継がれし宝剣アレス。巨漢であるオーデンの身の丈ほどもあるその剣は、燃え盛る炎を模った彫りが施された幅広の刃を持つ。オーデンはそれを右手だけで軽々と持ち上げ、フォアグラへと刃先を向けた。
「正統なる妖精王にして神の末裔たる我が、祖たる神より授けられし剣にて自称神を討つ――良い趣だと思わぬかね。カクテル、こやつの手錠を外せ。手負いとはいえ多少は楽しませてくれよう」
「畏まりました」
カクテルが指を鳴らすと、フォアグラを拘束していた魔力封じの手錠が瞬時に外れる。途端、フォアグラの身からどす黒い煙が湧き出た。
「私は常に正しき唯一絶対の神……処刑されるのは貴様の方だオーデン……」
妄言を呟きながら気体化し、四方八方へとエアブレードを展開。オーデンを惨殺せんと襲い掛かる。
オーデンは一歩踏み込むと同時に、右腕一本の力で大剣を振り下ろした。娘に通じなかった気体化能力が、父親に通じるはずがない。フォアグラの身は一瞬にして左右に両断され、己が死んだことに気付く間も無く絶命した。
血の海と化した地下牢で、仮面に返り血を浴びたオーデンが薄気味悪い笑い声を上げる。その後ろでカクテルは歓喜の叫び。
「おおーっ! 流石は陛下にございます!」
「フン……フォアグラといえど所詮こんなものか。まあよい、退屈な試合のストレスを打ち消す程度には楽しめた」
オーデンは剣に付着した血を掃うと、魔法陣の中に剣を収めた。
「……ときにカクテルよ、あの最強寺拳凰という男だが――」
王立競技場を発った拳凰はアンドロメダホテルに戻り、花梨達ショート同盟の部屋を訪ねた。
インターホンを鳴らすと夏樹が出て、ウヒョーと歓喜の声を上げながら花梨を呼んだ。
着替え中じゃない時はちゃんとインターホンを鳴らすんだからと思いながら、花梨が扉を開ける。
「ケン兄、来てくれたんだ」
「おう」
拳凰はぶっきらぼうに返事をする。
「さーさー彼氏さん、上がって上がって」
夏樹がニヤニヤしながら手招きすると、花梨が「もー」と言って頬を膨らませた。
「いや、わりーが上がってく気はねーんだ。逆にチビ助を連れてきてーんだが、構わねーか?」
そう言ったところで夏樹と小梅と蓮華はそれぞれ顔を見合わせ、きゃいきゃいと黄色い声を上げる。
「どうぞどうぞー」
「ここはお二人でごゆっくり」
「楽しんできてくださいね花梨さん」
「ちょ、ちょっとみんな……」
慌てふためく花梨を、三人は微笑ましく見守っていた。
「連れてくって……一体どこに?」
「お前に話さなきゃならないことがある。いいから付いて来い」
更にキャーキャー騒ぎ出す三人娘。彼女達の中で、拳凰の「お前に話さなきゃならないこと」は既に決まっているようだった。
フォアグラの処刑を終えた後オーデンと別れたカクテルは、ビフテキの執務室を訪ねていた。
ビフテキは決勝トーナメントの準備のため机に向かい職務に励んでいたところだったが、快くカクテルを迎え入れてくれた。
「やあビフテキさん。お忙しい所失礼しますよ」
「カクテルか。陛下との用事は終わったのかね」
ビフテキはカクテルが血の臭いを漂わせていることに気が付いたが、あえて詮索はしない。大方予想はついていた。
「ええ、勿論終わりましたとも」
カクテルは空いている椅子に腰掛け、図々しく脚を組む。
「それでビフテキさん、今日のDブロックの件なのですが……少々やり方が露骨すぎやしませんか?」
「何の話かね? あれはアクシデントへの対応としてああするしか無かっただけだが」
「私にはアクシデントを自分の目的のために利用したようにしか見えませんでしたがね。Dブロック全員強制的に棄権させてまで、決勝トーナメントに残したかった魔法少女でもいましたか? そういえばチーム・烈弩哀図の大和梢さんは牡牛座でしたね。残念ながら烈弩哀図は敗者復活戦で敗れてしまいましたが……ああ、それとも――白藤花梨さんですか? ムニエル様と随分仲が宜しいあの娘です。もしやムニエル様に頼まれでもされましたかな?」
「ムニエル様は大会に私情を挟むようなお方ではない。不敬であるぞカクテル」
「これは失礼。では貴方が残したかった魔法少女が白藤花梨だという仮定は据え置きとしてその理由ですが――」
一度溜めた後、カクテルはフッと鼻息を吹く。
「貴方が妙に肩入れしている最強寺拳凰君のため、だったりします?」
斜めに構えて見下ろすような態度で、ちょっとおどけた口調で言い放つ。
これは正解を確信している目だと、ビフテキは見抜いた。あえて先に二つ的外れなことを言った上で、三つ目に本命を言う。煽り好きのこの男がいかにもやりそうなことだ。
「ふむ……それよりも私は私的な理由でフォアグラを脱獄させた者の方が問題だと思うがねカクテルよ」
「おや、私がやったとでも」
「私は予想で言っているわけではない。君の企みを知っていたのだよ」
「なるほど、それでタイミングよく現れて拳凰君をけしかけることができたわけですか。まったく私の計画を潰されていい迷惑ですよ」
カクテルが開き直りを見せると、ビフテキは顎鬚に触れてフフッと笑った。カクテルはその様子を見て笑い返す。
「さあビフテキさん、貴方も開き直ってはどうです? 拳凰君を国民的英雄にして一体何をするおつもりで? 陛下も怪しんでおられますよ、拳凰君のこと」
ずいずいと問い詰めるカクテルに、ビフテキは沈黙を貫いた。
花梨を連れ出した拳凰は廊下の行き止まりまで行くと、ビフテキがフェアリーフォンに入れてくれたアプリを立ち上げた。画面が光ったところでそれを床に向けると、そこに魔法陣が出現する。
「こいつは俺が修行の場として使ってるケルベルス山にいつでも行ける魔法陣だ。そこでお前と話がしたい」
「もしかして、誰かに聞かれたらいけないような話?」
「話はそこに行ってからだ」
心配そうに見つめる花梨に、拳凰は移動を急かした。二人が魔法陣に足を踏み入れると、二人の姿は魔法陣と共に消えた。
花梨が目を開いた時、そこに映る景色は緑豊かな山中に変わっていた。
「ここでケン兄が修行を……」
花梨達魔法少女の妖精界での行動範囲はほぼ王都オリンポス内に限られており、妖精界の自然の風景は最終予選の舞台となったユニコーンの森くらいしか知らない。そのため花梨にとってはこの風景がなんとも新鮮に感じられた。
「ここでの修行ってもしかして、モンスターと戦ったりとか……」
異世界の山で修行ときたら、当然連想されるのはそれだろう。
「いや、ここには大した魔獣はいないそうだからな。修行内容はまた別だ。それでだチビ助、ここにはなかなかいいもんがあるんだ。今からそこに案内してやる」
山を少し下った先に、それはあった。
天然の秘湯ケルベルス温泉。この湯は癒しの魔力を帯びており、拳凰は修行で負った傷を幾度となくここで癒してきた。
「つーわけだ。一緒に入ろうぜチビ助」
しれっととんでもないことを言って、拳凰は平然と服を脱ぎ始める。
「ちょ、ちょっとケン兄!?」
あっという間にフルチンになった拳凰は、腰に手を当て花梨に見せ付けるように堂々と立つ。花梨は顔を真っ赤にして両手で顔を覆いつつ、指の隙間から拳凰を見ていた。
「もー……何なの突然」
「お前もさっさと脱げよチビ助。どうせ一昨年までは一緒に風呂入ってたんだからよ。気持ちいいぜ温泉」
花梨が脱ぐのも待たず、拳凰は温泉に足を入れた。
当時花梨は小学五年生、まだブラもしていなければ生理も来ていなかった頃だ。その頃の花梨は当たり前のように拳凰と一緒に入浴していた。男の人であり好きな人である以上に家族として見ていたから、それに何の疑いも持たなかった。だけど世の女児が父親や男兄弟と一緒に入浴するのをやめるのと同じように、六年生になった辺りで自然と拳凰と風呂に入らなくなったのである。
拳凰は軽い調子で花梨を温泉に誘っているように見えるが、ホテルの部屋に来た時の真剣な表情を見れば彼が何かとても大切な話をするために花梨をここに呼んだのは明白だ。無意味に混浴したがってるわけでもないのだろう。
「……今回だけ、特別だからね」
花梨は拳凰に背を向けて、服を脱ぎ始める。今日の下着は白地にスカイブルーの水玉。まだまだ子供っぽいジュニア下着である。年上で巨乳の蓮華は元より同学年の夏樹、一つ下の小梅までカップ付きのブラをしていることもあって、花梨は体の発育の遅さに少なからず劣等感を覚えていた。特に拳凰には子供っぽく見られたくないのに、これではよりお子様な印象を強めるばかりだと思ってしまった。
背中に拳凰の視線を感じながら、恐る恐るブラを脱ぐ。羞恥に震えながら一気にショーツを下ろすと、ぷりっと丸く艶やかなお尻が拳凰の前に姿を見せる。
(いつの間にかすっかり女のケツになりやがって)
拳凰が花梨の尻に注視していると、チラッと後ろを振り返った花梨が慌てて両手で尻の割れ目を隠した。
「あっ、お尻ばっかり見ないでよもー! ケン兄のエッチ!」
そういうことを言うと、大概拳凰から「ガキの裸なんか見ても面白くない」とか言われて馬鹿にされるのである。
が、そのまま少し待っても拳凰は特に何も言ってこない。花梨は少し疑問に思いながらも手をお尻からどけ、右腕で胸を、左手で股間を隠しながら胴体を拳凰の正面に向けた。
いじらしく頬を染め俯く花梨を、じっと見つめる拳凰。花梨はそそくさと早足で湯に浸かると、恥ずかしい部分からは手をどけぬまま拳凰の隣に腰を下ろした。
「……あんまり見ないでね」
自分から見やすい位置に座っておいてそう言うのもどうかとは思ったが、心情的には拳凰の隣に座りたかったのである。
「それでだチビ助、お前に話さなきゃならないことってのは、俺の親父のことなんだが」
花梨の裸体への感想はこれといって口には出さず、早速本題を切り出す。
「徹叔父さんがどうかしたの?」
「俺の親父が日本に帰化した外国人だってのは知ってるよな。実はそれが外国人じゃなくて異世界人だったんだ」
拳凰が藪から棒にわけのわからないことを言い出したので、花梨は首を傾げた。
「えっと……それって……」
「俺の親父は妖精界の出身だった。つまり俺は人間と妖精のハーフだ」
「え? えっ?」
ただただ困惑するばかりの花梨。だが拳凰は、それも気にせず更なる衝撃の真実を明かす。
「俺の親父の本当の名前は――ユドーフ。妖精王オーデンの、双子の兄だ」
<キャラクター紹介>
名前:
性別:女
学年:中二
身長:149
3サイズ:74-55-78(Aカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):赤
星座:水瓶座
衣装:黒ビキニ+黒コート
武器:ナイフ
魔法:ナイフから赤い閃光を出す
趣味:黒歴史ノート作り
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