第77話 ウルトラセクシー出陣

 チーム・ヴァンパイアロードの四人は、机を囲んで祝勝会をしていた。

 落ち込んでいた智恵理も元気を取り戻し、豪華なランチに舌鼓を打っている。

 だがその一方、どこか緊張した表情なのは梓であった。

(何だか、妙に警備が厳重ね)

 辺りを見回せば、武器を持った兵士がちらほら。魔法少女達を守るためにしても、変に物々しい。

(まさか、私達の知らないところで何か事件でも起こってるのかしら)


「あれ、ケン兄もここでご飯なんだ」

 小梅と一旦別れてよさげな席を探していたショート同盟の三人は、同じレストランで昼食をとっていたハンター三人組を見つけた。

「おう、騎士団のマッチョジジイからここで食うように言われたんでな。それよりチビ助、さっきの試合いい勝ちっぷりだったじゃねーか」

「えへへ……ありがとうケン兄」

「この調子で明日も頑張れよ」

 拳凰はそう言って花梨の尻を掌でぽんと押す。

「きゃっ! もう、ケン兄のエッチ!」

「誰がエッチだ。ガキのケツ触っても面白かねーっつの」

 気を悪くして行ってしまう花梨に、拳凰は捨て台詞。

「最強寺さん、その言い訳は流石に無理があると思いますよ」

「言い訳じゃねーよ。あんなん活入れてやっただけだろーが」

(好きな女の子にちょっかいかけて怒らせたりとか、小学生じゃないんですから)

 しらばっくれる拳凰に、幸次郎は呆れ顔。夏樹と蓮華は苦笑いしながら花梨についていった。

「つーか、結局午前中は出てこなかったな。本当に今日来んのかよ?」

 拳凰が強引に話題を変えたところで、先程まで緩んでいた幸次郎の表情が固まる。

「僕としてはこのまま何も起こらないでくれた方が嬉しいんですが……」

「まあ、仕事として請け負った以上はやるだけだ」

 不安に苛まれる幸次郎とは対照的に、デスサイズは流石に落ち着いていた。拳凰は両手を頭の後ろで組んで天井を見上げる。

「あー、早く戦いてーぜ」

「まあ、気長に待つことだ」

 窓の外を見ながら、デスサイズは茶をすすった。

「あ、幸次郎」

 と、その時。急に背後から声をかけられ、幸次郎は緊張の糸が切れた。

「うわっ!」

 驚いて振り返る幸次郎。それもそのはず、声の主は今まで幾度と無く幸次郎を惑わせてきたあの少女。

「こ、恋々愛さん!? びっくりしたな……」

 思わぬ場所で幸次郎を見つけたことに喜ぶ恋々愛は、頭に花が咲いているかのような笑顔。手に持つトレイには山盛りの料理が載せられている。

「あ、相変わらずよく食べるんだね」

「うん、この後試合だから、沢山食べて元気つけないと……」

 そう話している間も、幸次郎の視線は料理に負けないくらい大盛りの胸に向けられる。

「おい幸次郎、さっきから乳ばっか見てんじゃねーよ」

 先程いじられた仕返しとばかりに、拳凰が幸次郎をからかう。

「ちょっ……最強寺さん!?」

 幸次郎は慌てふためき、拳凰と恋々愛を何度も交互に見る。

「私の試合、応援してほしいな……」

「う、うん。勿論応援するよ」

「あら恋々愛、何してますの」

 珠子が恋々愛を呼ぶ声。

「じゃあね、幸次郎」

「う、うん」

 でれーっと惚けている幸次郎を、拳凰は白けた目で見ていた。デスサイズはふっと鼻で笑い、目を閉じたまま茶をすする。

「まったく、ガキどもの色恋事はもどかしくて見ちゃいられんな」

 そう言いながらも、瞼の裏に浮かぶのは若き日の妻との甘酸っぱい思い出であった。



 ランチタイムが終わると、次はいよいよBブロックの試合である。拳凰達は再び観客席に移動していた。

「さーて、あのデカパイ黒人がどんな戦いすんのか、見せてもらおうじゃねーか」

 恋々愛は拳凰にとって、ここから逆転という状況で戦闘が中断され不完全燃焼に終わった因縁の相手。そう簡単に負けて欲しくないというのが本音である。

「皆さんお待たせ致しました。これよりBブロック一回戦第一試合を行います!」

 準備が整ったようで、会場に実況の声が響く。

「対戦カードは、こちらの二チーム!」

 モニターには「チーム・ウルトラセクシーVSチーム・烈弩哀図」と表示されている。両チームの魔法少女は、それぞれステージの両サイドに移動した。

「おや、チーム・ウルトラセクシーの皆さん、変身されていないようですが……事前に控室で変身して頂くよう連絡がありましたよね?」

 ウルトラセクシーの面々は、四人とも私服姿。昼食のため一度変身を解いた後、再度変身するのを忘れていたのではないか。この場にいる者達の多くはそう思っていた。

「何やねんあいつら。アホなやっちゃなー」

 チーム・烈弩哀図のリーダー、竜崎大名は既に勝った気になり鼻で笑った。

「あら、騎士団の許可は取っていますのよ」

 対して、チーム・ウルトラセクシーのリーダーである黄金珠子は全く動じていない。ウルトラセクシーの四人は、揃って私服のままステージに上がる。

「これは一体どういうことでしょう。彼女達は何をするつもりなのでしょうか」

 観客のざわめき声が響く中、四人は打ち合わせ通りにスマートフォンを取り出しポーズをとる。

「行きますわよ! マジカルチェーンジ!」

「マジカルチェンジ」

「マジカルチェンジっ」

「……マジカルチェンジ」

 一斉に変身の掛け声を出し、四人の着る服は粒子となって消える。大観衆の前で素っ裸となった四人は、光に包まれてコスチュームを身に纏った。

「チーム・ウルトラセクシー、参上ですわ!!」

 変身した姿で、再びポーズ。会場は一瞬静まり返った後、轟くような拍手と歓声。

「な、何ということでしょう! わざわざこの場で変身してくれるというパフォーマンスです! 何というサービス精神! まさにセクシーを体現したチーム・ウルトラセクシーです!」

 下半身はしっかりしたドレススカートだが上半身は胸に一枚ずつ紙幣を貼り付けただけの黄金珠子、それとは対照的に上半身は分厚い板金鎧だが下半身は前貼り一枚のみの羽間ミチル、肌の露出自体は多くないがバスタオル一枚という危なっかしい格好の湯乃花雫、そして上下とも殆ど裸なふんどしビキニ姿の古竜恋々愛。やたらめったらセクシー衣装の魔法少女ばかりを集めた、何とも個性的なチーム。

「たはは、やっぱ恥ずかしーなこれ」

 他の三人が堂々とする中、雫は一人照れ笑い。温泉では一糸纏わぬ裸体を男に見られても平気なのに、こういう場で裸になるのはたとえ光に隠されていても恥ずかしく感じるのが彼女である。

「何やねんあの痴女軍団。頭おかしいんちゃうか」

 大名は顔を青くして引き攣らせながら言う。

(大名さんも割と露出度高い気がする)

 チームメイトの一人はそんなことを思ったが、怖いので口には出さなかった。

 大名の衣装は白の特攻服にボンタンといった昔ながらのヤンキースタイル。中でも上半身はさらし一枚の上から特攻服を羽織っており、なかなか色っぽい。

 ちなみに彼女は大阪で最強の不良少女グループ、烈弩哀図レッドアイズの総長である。ただし今回のチーム・烈弩哀図は先日ホテル内で集めた仲間達であり、不良グループ烈弩哀図のメンバーではない。大名が勝手にチーム・烈弩哀図と名付けたのである。

「さて、それでは今回の対戦ルールを決めると致しましょう」

 ウルトラセクシーの空気に呑まれていたザルソバだったが、気を取り直してサイコロを振る。出た目は四、勝ち抜き戦である。

 両チームはそれぞれ試合に出る順番を相談し始め、やがて決まったところでステージに上がる。

「チーム・ウルトラセクシー、古竜恋々愛!」

 大歓声の中で、恋々愛はぼーっと空を見上げる。

「その圧倒的な強さと、十二歳とは思えぬプロポーションは妖精界でも話題の元。非常に人気の高い魔法少女です。ちなみにバストは九六センチGカップ! これで十二歳です!」

 一瞬で実況席に戻りやたら力の入った解説をするザルソバ。続いて、タコワサが烈弩哀図側の選手の名を読み上げる。

「チーム・烈弩哀図、大和やまとこずえ!」

「出ましたっ! 今大会最巨乳!! バストは驚愕の百センチHカップです!!」

 またしても声に気合が入るザルソバ。

 梢は黄緑のセミショートの髪で、ぴっちりとした生地のマーメイドドレスを着た魔法少女である。身長は恋々愛よりやや低いがプロポーションの良さは恋々愛にも負けず劣らず。中でも強烈なのはその胸。肌の露出は多くないものの、胸部の布がぱつんぱつんになっているのが想像力を掻き立てる。

「いやー、本当巨乳好きですねザルソバさん」

「男は皆好きでしょう」

 人差し指で眼鏡を上げて、ザルソバは決め顔。

「やったれ梢ー! あんな目立ちたいだけの変態どもに負けるんやないでー!」

「何がウルトラセクシーよ。一番セクシーなのは私よ。私をそのチームに誘わなかったこと、後悔させてあげる」

 大声で応援する大名とは裏腹に、梢は妙なところで張り合っている。

「あかん……あいつもアホやった……」

 大名は肩を落とした。


 二人のセクシー美少女がステージに上がり会場が盛り上がったところで、試合開始の合図が告げられる。

 梢は右手の赤い指輪と左手の青い指輪を恋々愛の方に向け、そこから光を放った。恋々愛は自分の手にしている斧が引っ張られるような感覚を覚える。

「出ました! 大和選手の磁力魔法! 金属製の武器を使う相手にはとりわけ効果的です!」

 恋々愛の腕力をもってしても力を籠めなければ持っていかれるほどの磁力。恋々愛の手が緩んだ拍子に、斧は梢の手の中に引き寄せられた。

「あなたの武器はこれで私のモノ。後は甚振るだけよ」

 だがその油断が命取りだった。斧は囮としてわざと手放したもの。恋々愛はその隙に駆け出し、梢に掴みかかる。

「な!?」

 驚いたのも束の間、恋々愛は梢を肩に担ぐようにして後ろに投げる。背中から床に身を打った梢だったが、すかさず斧を磁力で飛ばす。更にサッカーボール大の鉄塊を生成し、斧と共に二方向から挟み撃ちを狙った。

 しかし恋々愛は野生の勘でそれを察知し、前方に走って避ける。更に起き上がろうとする梢を再び掴んで持ち上げ、腕を振り回し空中で一回転させてからその場の床に投げ伏せた。豪快に胸を揺らしての大立ち回り。更にその勢いで跳び上がると、空中で体勢を変えて落下。大きなお尻でヒップドロップをぶちかました。

「うぐっ!」

 呻き声を共に梢の変身は解ける。

「しょ、勝者、古竜恋々愛選手!」

 ノーダメージでの速攻勝利に圧倒されながら、ザルソバは勝者の名を読み上げる。

「つ、強すぎます古竜選手! よもやこれほどとは!」

「ええ、彼女は今大会最高の魔力を記録している優勝候補の一角。大和選手も実力者ではありましたが、流石にこれは分が悪かったようです。しかも今回は勝ち抜き戦。殆ど無傷で一勝したことは大きなアドバンテージとなります」

 歓声と驚嘆の交じり合った観客の声が、会場に響く。

「えー、古竜選手、試合進行のため一度ステージから降りて頂けますか」

 取り戻した斧を手にぼーっとしている恋々愛に、ザルソバが指示を出す。恋々愛ははっとしてステージを降りた。梢のバリアが解け、そちらもステージを降りる。

「ご、ごめん……」

 謝る梢を見ながら、大名は手を下ろしたまま拳を握っていた。

「……次、次鋒出ろや!」

「次鋒、令緒れお春子はるこ行きます!」

 烈弩哀図の二人目は、戦車をイメージした衣装で背中に立派な砲を背負った魔法少女。

 試合開始と同時に、春子は駆け出す。

「グオゴゴゴ」

 だが次の瞬間、恋々愛のぶん投げた斧が首に当たって後ろの結界まで吹っ飛んだ。

「ギャアーッ!」

 そしてそのまま変身解除。砲撃を警戒した恋々愛が先制で遠距離攻撃を仕掛けたらそれがクリーンヒット、一撃必殺となったのである。

「しょ、勝者、古竜恋々愛選手!」

 先程を超える速度での瞬殺試合。これには流石に会場も静まり返る。何より言葉が出なかったのは烈弩哀図の面々であった。

 そして烈弩哀図の三人目は、虎柄のセーラー服を着た相葉あいば陽子ようこである。

「いでよ! ワータイガー!」

 陽子は魔法陣から、恋々愛の倍の体躯を持つ虎の獣人を召喚。筋骨隆々で手には斧を持ち、見るからに力強そう。その咆哮は天まで響き、その場にいる者達に恐怖の感情を与える。

 だがほぼ無傷で二連勝中の恋々愛を見ているこの場の者達にとって、それはただ大きいだけの木偶の坊に見えた。

 ぶつかり合う斧と斧。体格差は大人と子供のようなのに、そのパワーは互角。否、恋々愛の方が勝っている。下から押し上げてワータイガーがバランスを崩したところで、恋々愛は斧を捨てると足首を掴んで持ち上げジャイアントスイング。そのまま陽子本体に何度もぶつけてこれまたあっという間に倒してしまった。

「いよいよ追い詰められましたチーム・烈弩哀図。果たしてまだ勝機はあるのでしょうか!?」

「黙れや! うち一人で四人抜きすればええ話やろ!」

 大名が大声で一喝。ざわめく会場が一瞬で静まり返った。

「安心せえやお前ら、こっからうちの最強無双が始まるで」

 絶体絶命ながら自信満々でステージに上がる大名。彼女の表情に諦めは微塵も感じられない。特攻服の背中に刻まれた『烈弩哀図』の文字が、チームメイト達にはギラギラと燃えて見えた。

「うちの最強無敗伝説を、妖精界に轟かせたる!」

 関西最強の不良少女が今、魔法少女バトル本戦のステージに立つ。



<キャラクター紹介>

名前:藤田ふじたつつじ

性別:女

学年:中一

身長:149

3サイズ:78-56-78(Bカップ)

髪色:茶

髪色(変身後):黄緑

星座:水瓶座

衣装:中世風皮鎧+ミニスカート

武器:大剣

魔法:物事の確率を変更する

趣味:RPG

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