斬られ役、却下する


 208-①


 再び教皇と対峙した武光は、しっかりと相手を見据えて語りかけた。


「おい、ジイさん……俺はもう既に10の力でアンタに峰打ちを叩き込んでしもた。これでもまだ降伏せぇへんって言うんやったら、後はもう刀のみねを返すしかあらへん……」

「案ずるな、心配せずとも……貴様の如きウジ虫に、この私を斬る事など出来はせぬぬ!!」

「何やと!?」

「フハハハハ!! さぁ、我を崇めよ……!! 我を讃えよ……!!」


 凶笑と共に教皇の肉体が変貌してゆく。


 全身の皮膚が激しく波打ったかと思うと、漆黒の法衣を引き裂きながら、全身の筋肉が逞しく膨れ上がってゆく。


「そんな……大叔父上様が……」


 背中には三対六枚の翼竜にも似た巨大な翼が形成されてゆき、頭部にはトリケラトプスを思わせる二本の巨大な角と襟飾りが生じ、そして尻からは太く、先端に鋭いトゲを備えた尻尾が伸びてゆく。


 怪物へと変貌してゆく大叔父を目の当たりにして、剣影兵の群れと交戦中だったミトは愕然がくぜんとした。

 ミトは歯を食いしばり、つかの間俯いたが、すぐさま顔を上げ、階段の踊り場で教皇ヴアン=アナザワルドと対峙している武光に叫んだ。


「武光……アナザワルド王国第三王女ミト=アナザワルドの名において命じます……!! 大叔父上様を……いえ、暗黒教団教皇ヴアン=アナザワルドを……斬りなさい!!」


 それを聞いた武光は即座に応えた。


「却下ッッッ!!」

「……えっ?」

「そんなもん却下や却下!! しょーもない!!」


 却下!! まさかの1秒却下だった!!


「アナザワルド王国第三王女である私の命令が聞けないって言うの……!!」


 “ぷぅ〜”


「オナラで返事をしないでくれる!? 一体どうして……」


 ミトの問いに対する武光の答えは至ってシンプルだった。


「だって……お前、めちゃくちゃつらそうやんけ……」


 武光の言葉にミトは思わず息を呑んだ。


「それでも私は……アナザワルド王国の第三王女として──」

「俺はその第三王女様の兄貴分や!! 妹分が苦しんでるのを放っとけるか!! 大体、何を大人ぶって格好つけとんねん、お前は!?」

「……」

「猪突猛進、直情径行、思い込んだら一直線……呆れるほど自分に正直で、『嫌なもんは嫌や』ってハッキリ言うのがお前やろ!?」

「で、でも……策はあるの!?」


 武光は自信満々に答えた。


「へのつっぱりは……いらんですよ!!」

「言葉の意味はよく分からないけど…………無いのね、策」

「そんなもん無くても何とかしたるわい!!」

「…………武光、大叔父上様を死なせたくありません。大叔父上様を頼みます!!」

「よっしゃ、任せとけ!!」


 二刀流は手数こそ多いが、本来両手で握る刀を片手で扱う分、どうしても一撃の威力は半減してしまう。全力の一撃を叩き込むべく、武光は魔穿鉄剣を鞘に納めると、イットー・リョーダンの刃を峰打ちから正位置に戻し、つかを両手で握り締めた。鋭い視線の先には、まもなく変身を終えようとしている教皇がいる。


「さてと……やるで相棒!!」

〔応ッッッ!!〕


 武光は変身中の教皇に斬りかかった。


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