斬られ役(影)、『1』の力を放つ


 191-①


「んぎゃーーーーー!? 何か出たぞオイーーーーー!?」


 影光は驚愕の叫びを上げていた。


 バルコニーにたどり着いた影光は、魔王剣ネキリ・ナ・デギリに〔敵に向かって我を振るえ!!〕と言われたのだった。

 接近する敵の姿は見えてはいたものの、その影はまだ遠く、握り拳程度の大きさでしかなかった。


「我を振るえって……敵はまだあんなに遠いんだぞ!?」

〔つべこべ言うな、やれ〕

「全然意味が分からねぇけど……やるからには全力でやるからな?」

〔当然だ、魔王剣である我を雑に振るう事は許さん〕


 影光は精神を集中すると、腰を深く落とし、ネキリ・ナ・デギリを左の脇に構えた。ゆっくりと息を吐き、ヘソのすぐ下……丹田たんでんに力を込める。


「…………行くぞおおおおおッッッ!!」

〔応ッッッ!!〕

「だあああああっ!!」


 影光は左足を踏み込み、迫り来る敵に向けて、左から右へとネキリ・ナ・デギリを渾身の力で振り抜いた。


 そして、その結果が冒頭の叫びである。


 剣を振り抜くと同時に、その剣筋に添うように紅い光刃が飛んで行き、敵を真っ二つに斬り裂いたのだ。


「な、何じゃありゃ……」

〔油断するな、まだ敵は生きている〕

「お、おう!!」


 影光は振り抜いた剣を今度は上段に構えると、先程斬り裂いた敵目掛けて、唐竹割からたけわりに振り下ろした。


 再び放たれた真紅の光刃が、先程両断した巨人の上半身を今度は縦に両断し消滅させた。

 魔王剣の放つ光刃の威力を目の当たりにして、あんぐりと口を開ける影光をよそに、ネキリ・ナ・デギリは不満げだった。


〔フン……こんなものか〕

「こ、こんなものってお前……!?」

〔言ったであろう? 今のお前には1の力しか宿っておらぬと〕


 影光は戦慄した。確かにネキリ・ナ・デギリは言っていた、『自分をさやから抜く時に、大人数で寄ってたかって抜いてしまったが為に、1人に1000の力ではなく、宿』と。


「嘘だろ……たったの『1』でこれかよ……!!」

〔当然だ、我は魔剣の中の魔剣、魔剣の王……魔王剣ネキリ・ナ・デギリなのだぞ? さぁ、敵はまだいる。我を振るい、敵を滅殺せよ!!〕

「へへ……任せろ、俺の《ちょこっと魔王パワーひとつまみ》で敵を蹴散らしてやるぜ!!」


 す、凄まじい……ネキリ・ナ・デギリは戦慄した。


 新たなあるじは…………凄まじいまでに名付けの感性がウ○コだ。


〔……ちなみに今の技は《魔煌飛刃波まこうひじんは》だからな?〕


 魔剣の王たる自分の技に、ダサい名前を付けられてはかなわぬと、ネキリ・ナ・デギリは先手を打って技の名前を告げておいた。


「……超ハイパーウルトラスペシャルギロチンスラッシュじゃダメか?」

〔却下!! 滅されたいのか貴様!?〕

「ちぇっ」

〔下らぬ事を言ってないで敵を討て!!〕

「応ッッッ!!」


 影光は再び丹田に力を込めると、空中の敵に向けてネキリ・ナ・デギリを振り抜いた。


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