斬られ役(影)、つんのめる


 189-①


 魔王城内に敵襲を知らせる鐘が鳴り響いた。制御室にいた影光と四天王はゲンヨウに問いただした。


「敵襲だと!? ホントかジイさん!!」

「うむ」


 ゲンヨウが手元の石板を操作すると、正面の巨大な鏡に、こちらに向かって飛来する敵の姿が映し出された。


 鏡に映っていたのは、二対四枚の翼と長い尻尾を持ち、首から上がわし、胸に獅子、そして、両の爪先に鮫の頭部を備えた異形の巨人だった。

 影光達は知る由もなかったが、現在魔王城に接近しているのは、シルエッタに魔王城迎撃を命じられたシスターズ部隊が融合したサンガイハオウの軍団だった。その数……十体。


 敵を見た影光は疑問に思った。


「アレは……影魔獣……なのか?」


 影魔獣にしては色が変だ。一般的な影魔獣のような黒一色でも、百鬼塞を救援に行った時に遭遇した鳥型影魔獣のような、透き通った色でもなく、強いて言うならヘドロのような不気味な色をしている。


 とにかく、向かって来る敵を迎撃しなくてはならない。


「くっ……ヨミ、一緒に来い、敵を迎え撃つ!! 他の隊は突入に備えて待機だ!!」

「フフフ……任せなさい、景気付けの一番首は私の《麗翼れいよく軍》が挙げさせてもらうわ!!」


 麗翼軍を指揮する為にヨミが猛スピードで飛び去り、影光も走り出した。目指すは五階のバルコニーだ。あそこなら、それなりに広さがあり、視界も開けている。


 敵を迎撃する為に全力疾走で五階バルコニーに向かう影光に、腰に差したネキリ・ナ・デギリが語りかける。


〔ククク……三百年振りの戦いだ、血がたぎるなぁ、新しき我が主よ?〕

「ああ、お前を鞘から抜いた事で得た、俺の超絶魔王パワーで蹴散らしてやるぜ!!」


 不敵な笑みを浮かべる影光だったが……


〔ん? 無いぞ、そんなもの〕

「……は?」

〔お前に超絶魔王パワーなどというものは宿っていない〕

「は……はぁぁぁぁぁっ!?」


 ネキリ・ナ・デギリの言葉に、影光は思わず前につんのめってすっ転びそうになった。


「は、ははは……絶大な力を持つ魔王剣と言えど、ぎゃ……ギャグセンスは全然無いな!? お前スベってんぞ!?」

〔いいや、ギャグでも冗談でもないが?〕

「いやいやいやいや、だってお前『我を鞘から抜く事が出来れば、その者は強大な力を手に入れる事が出来る!!』って言ってたじゃねーか!?」

〔通常であれば……な。仮に、数値で表すとすれば……通常の場合、審判のまじないを乗り越え、我を鞘から抜いた者には1000の力が宿る。だが、お前の場合は1000人がかりで我を鞘から抜いたが為に、注ぎ込まれる力が分散してしまい、1人に1000の力ではなく、宿という状態なのだ〕

「ゲェーッ!? た、たったの1……!?」


 千鳥の大悟さん……もとい、まさかの大誤算だった。だがやるしかない、敵はすぐそこまで迫っているのだ。



 影光は……五階のバルコニーにたどり着いた!!



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