聖獣(赤)、羽ばたく


 137-①


 痛恨の一撃!!

 01は もんぜつした!!


 自ら振るったムチで盛大に自爆したシスターズ01はスネを押さえてうずくまった。

 これには流石の影光も攻撃を躊躇ためらわざるを得ない。


「だ、大丈夫か……?」

「う……うるせー!!」

「お前……影魔獣のくせに痛みを感じるのか?」

「うぅ……姉さんが痛覚を消すのを忘れたんだよ!! って言うか、失敗作の分際で……姉さんが技術のすいを集めて生み出したこの私に情けをかけようってか!? ふざけんじゃねーぞコノヤロー!!」


 激昂した01は、両手に持った鞭を影光に向かって何度も何度も振るったが、影光にはかすりもしない。早い話が01は武器を全く使いこなせていなかった。


「ハァ……ハァ……コノヤロウ……ちょこまかと……」

「いや、さっきから微動だにしてねーよ!? こちとら動かざる事山の如しだってんだよ!!」


 影光は眼前の両手に鞭を持った愚鈍ぐどんなツインテールの少女に対し溜め息を吐くと、追い付いてきたレムのすけに声を掛けた。


「レムのすけ、コイツの相手は俺がする!! お前は投石機を!!」

「グォアッ!! マカ……セロ……!!」

「さ、させるかこの野郎!!」


 そう言うと01は赤い水晶で出来た彫像を取り出した。

 それは、二対四枚の翼と、尾羽の代わりに、先端に鋭いとげのある長い尾を持つ、怪鳥けちょうの像だった。

 01が高々と掲げた怪鳥の水晶が夕日を透過させ、01の足下あしもとに半透明の赤い影を作り出す。

 怪鳥の影に操影刀を突き立て、01は叫んだ。


「出てこい!! 《赤影聖獣せきえいせいじゅう・クウレツオウ》!!」


 甲高かんだかい叫びと共に、水晶のように薄く透き通った赤き体を持つ、二対四翼の怪鳥が姿を現した。


 クウレツオウ が現れた!!


「何だありゃ……」

「グォア……」


 現れた怪物を見て、影光とレムのすけは唖然とした。


「どうだ、凄ぇだろう!! 行け、クウレツオウ!! 失敗作共を吹き飛ばせ!!」

「うおおっ!?」

「グムゥッ!?」


 01の命令に応えるように、赤い半透明の怪鳥は甲高い叫びを上げると、大きく羽ばたいた。

 二対四枚の翼の内、下側の双翼を小さく羽ばたかせて浮遊し、上側の双翼を大きく羽ばたかせて影光達に向けて突風を送り込む。


 影光は咄嗟に体勢を低くし、影醒刃を地面に突き立てて踏ん張ったが、凄まじい風圧に身動きがまるで取れない。影光の肉体の表面は、まるで嵐の夜の水面みなものように波打っている。


「ぐっ……このままじゃ吹き飛ばされ──」

「グォム……オレ……ノ……ウシロニ……!!」


 影光を風圧から守るべく、レムのすけが影光の前に立った。


「グ……オオ……ッ!?」


 レムのすけは両手に握った風月を地面に突き立てて踏ん張った。全身が岩石に覆われているレムのすけの巨体と、並外れた怪力を持ってしても、その場に留まるのがやっとである。


「くっ……すまん、あと少し耐えてくれレムのすけ!! その間に俺が術者を斬る!!」


 レムのすけが壁となって突風を防いでいる間に、風圧から逃れた影光は素早く周囲を警戒した。01は一体何処に──


「うひーーーーーーーーーっ!?」


 影光の視線の先には、クウレツオウの巻き起こす突風に吹き飛ばされないように、必死に木の幹にしがみつく01の姿があった。


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