仔犬、カミングアウトする


 121-①


 シスターズ02とリクシンオウを撃退し、危機を脱した武光達は武器を納めた。


「ふぅ……何とか乗り切ったなイットー」

〔ああ、手強い相手だった〕


 イットー・リョーダンをさやに納めた武光の所にナジミがやってきた。


「お疲れ様です、武光様。お怪我はありませんか?」

「おう、俺は大丈夫や!! 皆、怪我してへんか!?」

「怪我した人は治療するので私の所まで来て下さいねー?」

「大丈夫です隊長殿!!」

「だ、大丈夫です」

「何か出たけど……多分大丈夫だよ、アニキ!!」


 武光とナジミの呼びかけに答える隊員達だったが、クレナの返事がない。


「クレナ……?」

「クレナちゃん?」


 武光達が慌ててクレナの方を向くと、クレナはインサンが地面に突き立てた獅子王鋼牙ししおうこうがを拾い上げ、獅子王鋼牙のつかを一心不乱に服のすそでゴシゴシといていた。


「おい、クレナ……?」

「ひゃうっ!?」


 ミナハに声をかけられたクレナは、獅子王鋼牙を慌てて背後に隠した。


「クレナ……その剣をどうするつもりだ?」

「え……いや、これは……その……あはは……」

「笑って誤魔化そうとするんじゃない」

「だ……だって、この剣は勇者様の剣なんだよ!? 家宝にするんだもん!!」

「コラっ、『するんだもん!!』じゃない!! 窃盗だぞ、それは」


 ミナハはクレナから獅子王鋼牙を没収した。


「やーーーん!! 返してぇぇぇぇぇーーー!?」


 二人の小競り合いを見ていたアルジェがポツリと呟いた。


「獅子王鋼牙……確か昔、ロイ将軍が勇者様にお譲りになった愛用の斧薙刀を加工して完成した剣だと聞いているが──」

「よし!! 家宝にしよう!!」


 クレナは ズッコケた!!


「ちょっとミーナ!?」

「だ、だって……ロイ将軍が昔愛用していたんだぞ!?」

「お二人共、ダメですよ? それは窃盗です」

「「ハイッ!! すみませんでしたっっっ!!」」


 ボウガンを構えたキクチナを見て、クレナとミナハは即座に謝った。渋々ながら武光に獅子王鋼牙を預けるクレナ達を尻目に、ナジミはアルジェに近付いた。


「アルジェちゃんは大丈夫? 怪我してない?」

「べ……別に……」


 そう言ってそっぽを向いたアルジェを三人娘が見咎みとがめた。


「ちょっと!! 良くないと思うな、そういうの!!」


 そっぽを向いたアルジェの前にクレナが立ったが、アルジェはまたしてもそっぽを向いた。


「おい、失礼だろう」


 今度はミナハがアルジェの前に立ってアルジェの態度を注意したが、三度みたびそっぽを向いた。


「あ、アルジェさん……私達、何かお気にさわる事をしてしまったんでしょうか……?」

「う………………うぅ〜〜〜!!」


 ナジミと三人娘に四方を囲まれ、そっぽの向きようが無くなってしまったアルジェは突然しゃがみ込んでしまった。


「どうしたのアルジェちゃん!?」

「大丈夫!? どこか痛いの!?」


 ナジミとクレナの問いかけに対し、アルジェは震える声でつぶやいた。


「────から」

「え……?」


「……四人共、可愛過ぎるから……おら直視できねぇ!!」


 アルジェはヤケクソ気味に叫んだ。


「へ……?」

「アルジェちゃん……?」


「三人共、貴族様のご令嬢でめちゃくちゃ可愛くてキラキラして……おらみてぇな、田舎者の猟師の娘には、おそれ多くてまぶし過ぎて……何か良い匂いもするし……とにかく、おら直視できね!!」


 まさかのカミングアウトに一同は唖然とした。


「そ、それに……あの魔王との最終決戦の場にいた、アスタトの巫女様もいるって言うでねぇか、巫女様もキレイで凄く優しくて……神々しいだ!!」

「えへへへ……いやー、そんな!! ねぇねぇ武光様、聞きました!? 私……キレイで神々しいんですって……くふふ」

「クネクネすんなや気色きしょくの悪い……おい、よく見ろアルジェ、こんなんが神々しいて……うげっ!?」


 武光は ナジミに 顔面を鷲掴わしづかみにされた。


「どうやら先程の戦いで目を負傷したみたいですね……?」

「神々しいっス!! マジ美人っス!!」

「ふふふ……分かればよろしい♪」

「いや、それにしたってお前、最初はそんなじゃなかったじゃねーか!?」


 フリードのツッコミにアルジェが気恥ずかしそうに答える。


「だって……栄光の王国軍第13騎馬軍団に……王国軍最強の『冥府の群狼』におらみてぇな田舎者が混じってたら、その……隊の一員として恥ずかしくねぇ振舞いをせねばなんねぇと──」

「なぁ、アルジェ」


 任務を終えて、緊張の糸が切れてしまった事も重なり、ボロボロと涙を流すアルジェの前に武光は屈み込んだ。


「そういうのは良くないな」

「隊長さん……だども……」

「アルジェの故郷は酷い所か? そこに住む人らはヤバい奴だらけか?」

「そ、そんな事ねぇです!! おらの故郷は自然が豊かで、里の人は、皆良い人達です!!」


 それを聞いた武光はニコリと笑った。


「そっか……ほんならあんまり自分や故郷の事を卑下するもんやない、それは自分だけやなくて故郷の人達もおとしめる事になる」

〔いや、でも武光、君も自分の故郷の事をボロカスに言う事があるじゃないか?〕

「フフン、甘いなイットー・リョーダン君、オオサカの民はそれを自虐ではなく笑いに変える特殊能力を持っているのだよ!!」

〔いや、それは特殊能力って言わないだろ……〕

「まぁ、アレや。そんな下らん事でごちゃごちゃ言うてくる奴がおったらエルボーかましたったらええねん、エルボー!!」


 そう言って、武光は “シュッ!!” とひじ打ちの真似をした。


「そ、そんな事出来るわけねぇです!!」

「いいや、出来るね!! 俺はあのシュワルツェネッ太に一発ブチかましてやった事があるんやぞ?」


 そう言って武光は悪役っぽくニヤリと笑った。


「フフン……何なら俺が演技指導したろか? そしたら例え相手がシュワルツェネッ太であろうと “ガツン!!” やで “ガツン!!” 」



「ほう……? それは興味深い、私にも是非ぜひ教えてもらいたいものだ」



「おうよ、任せとけ……って」


 背後から声をかけられ、振り向いた武光は硬直した。


 ……そこには、鈍く輝く銀の鎧を装着し、紫の外套マントを羽織った白銀の死神の姿があった。


 ロイ=デストが 現れた!


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