斬られ役、真意を語る


 117-①


「さてと……片付いたか?」

〔どうやらそのようだね〕

〔バッチリで斬りです、ご主人様!!〕


 襲撃してきた影魔獣の足止めを買って出た武光とアルジェは、敵の殲滅に成功した。


「……ふぅ」


 慎重に周囲を見回して敵の気配が無いのを確認した武光は、イットー・リョーダンと魔穿鉄剣を鞘におさめながらアルジェに声をかけた。


「アルジェ、怪我してへんか?」

「フン……当然だ」

「そっか、良かった。ほんならフリード達と合流しよか?」

「待て」


 フリード達が逃げて行った方角に歩き出した武光の背に、アルジェが声をかけた。


「ん? 何や?」

「貴方は影魔獣の襲撃を予見していたように見えた……何故だ?」

「うーん……言いにくいんやけど……その……目立ち過ぎやねんな、君が」

「私が……!?」

「そんなフル装備でガチガチに武装した奴が緊張感と警戒感全開で護衛に付いてたら、敵に『奴らは重要人物を護衛してるに違いない!!』って目ぇつけられてまうやん?」

「まさか……さっき私に『もっと気楽に』とか『もっと楽しそうに』と言っていたのは……!!」


 武光は苦笑しながら言った。


「うん、まぁ……悪目立ちして敵に目ぇつけられへんようにな? ……俺も戦うの怖いし」

「た……戦うのが怖いだと!? あ、貴方はそれでも武人なのかっ!!」

「フフン、違うな。俺は……斬られ役や!!」


 ドヤ顔で何を言ってるんだこの人は……と言うか、そもそも斬られ役って何なんだ、と困惑するアルジェだったが……


「でもまぁ、それなりに戦いの経験がある俺ですら怖いんや、戦いに巻き込まれたら、一般人であるエネムさんは、俺の何十倍も怖い思いをすんのとちゃうかな?」

「そ……それは……」

「……だから敵をやり過ごして、戦闘に巻き込まずにこっそり家に送り届けてあげられたら一番良かったんやけどなー」

「それで彼女達は、鎧も着けず、武器も隠して楽しげに……」


 アルジェの脳裏に、敵が出てきた瞬間にすぐさま戦闘態勢を取っていたクレナ達が思い浮かんだ。彼女達は……危機感がまるで無いように見えて、そのじつ、微塵も警戒を怠っていなかったのだ。

 唖然とするアルジェを見て武光が不敵に笑う。


「フフン……演技派揃いやろ、ウチの子らは? まぁ、副隊長だけはアレやけど……」


 武光の言葉にイットーと魔穿鉄剣も同意する。


〔ああ、ナジミだけは自然に振る舞おうとすればするほど挙動不審になってたからなぁ〕

〔ナっちゃん……どうしてああなんでしょうねー?〕

「せやなー。でもまぁ、得意不得意は誰にでもあるしな? さてと、そろそろ行こか、アルジェ?」

「……ああ」



 ……しばらくして、武光とアルジェはフリード達を発見した。



「あー、おったおった!! おおーい!! フリー……ドぉっ!?」

「貴様ぁぁぁっ……一体何をしているッッッ!!」

「アニキ!? いや、違うんだ!! こ、これは……!!」


 武光とアルジェは目を疑った。そこには……エネムの胸を “ガシィッッッ!!” と鷲掴わしづかみにしているフリードの姿があった。

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