兵士達、奮起する


 81-①


 リュウカクは駆けた、影魔獣の群れがグングンと迫る。リュウカクは、先頭を走る剣影兵目掛けて青龍刀を振り上げた。


「ウオオオオオッ!!」


 裂帛れっぱくの気合いと共に、リュウカクが振り下ろした一撃は、剣影兵を一撃で消し去った。


「むっ……!?」


 リュウカクは違和感を覚えた。何だ……この手応えの無さは!?


「ガアアアアアッ!!」

「……ふんっ!!」


 右から飛びかかってきた槍影兵を青龍刀で薙ぎ払う、またしても影魔獣は消滅したものの、やはり、極端なまでに手応えが薄い。

 その後もリュウカクは、疑念を抱きつつも、怒涛のように押し寄せる影魔獣を、青龍刀で斬り伏せ、細剣で斬り裂き、両刃槍で貫き、戦斧でかち割りながら突き進んだ。

 次々と影魔獣を蹴散らすリュウカクの戦いぶりを見て、双竜塞の兵達が歓声を上げるが、歓声を背に受けたリュウカクは、小さく舌打ちした。


(歓声が遠い……双竜塞から少し離れ過ぎたか)


 リュウカクは飛びかかってきた剣影兵を両刃槍で刺し貫き消滅させた。


「やはりおかしい……まさか、こいつらはげんえ──」

「グルァァァァァッ!!」

「むっ!?」


 魔狼族に似た姿をした影魔獣の貫手を、リュウカクは両刃槍ので受け止めた。体重の乗った鋭く重い一撃である。リュウカクは二、三歩後ずさった。


「……幻影ではない!?」

「グォアーーーッ!!」


 今度はゴーレム族に似た影魔獣が巨大な両腕を振り上げて突進してきた。


「チッ!!」


 振り下ろされた両腕をリュウカクは後方に飛び退いて回避した。振り下ろされた両拳が土煙を巻き上げ、地面に窪みを作る。


「コイツらは……今までの敵とは違う!!」


 リュウカクは両刃槍を構え直した。


 81-②


 双竜塞の城壁の上で、リュウカクの戦いぶりを見ていた竜人族の兵士達は歓声を上げた。


「リュウカク将軍……す、凄ぇ……!!」

「ああ、不死身の影魔獣を次々と薙ぎ倒して……!!」

「やれる……やれるぞ!!」

「よーし……アタシも!!」


 沸き立つ兵士をかき分けて、一人の少女が城壁から飛び降り、しなやかに地面に降り立った。


 双竜塞を守る兵士は大半が竜人族だが、異なる種族の兵士もいる。


 少女は体表が滑らかな毛に覆われ、その体毛は黄色と黒の縞模様……所謂いわゆる虎柄とらがらだった。彼女は、虎と人の姿を併せ持つ魔族、《猛虎もうこ族》のフォルトゥナである。


 フォルトゥナは頭の上の耳をピンと立て、全身の毛を逆立てながら城壁の上の兵達に向かって叫んだ。


「ねぇ!! リュウカク様は『我が武勇を特等席から見ているが良い!!』って言ってたよねーーー!?」


 フォルトゥナの問いに城壁の上兵士達がざわめく。


「だったらさーーー!! こんな遠くから見てちゃダメでしょーが!!」


 フォルトゥナは鋭い爪の生えた人差し指をリュウカクのいる方へ向けた。


「皆で……特等席まで行こーーーーーう!!」


 フォルトゥナの呼びかけに、城壁の上で観戦していた兵士達は頷きあった。


「そうだな……行こう!!」

「俺達にはリュウカク将軍がついている!!」

「ああ、俺達にもきっとやれる!!」


 奮起した兵士達は次々と城壁から飛び降りた。


「よーし……行くぞーーーーーっ!!」


 リュウカクに加勢して敵を打ち払うべく、フォルトゥナを筆頭に兵士達は雄叫びを上げて駆け出した。

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