必殺拳、唸る


 74-①


 フリードは地面を踏みしめ、腰を深く落とすと、左手を前に、右肘を大きく引いて構えた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っ」


 右の拳を “ギリリッ……!!” と強く強く握り締める。


「目覚めろ……我が右手に宿りし漆黒の竜……黒王よ!!」


 フリードが、固く握り締めた拳を天に向かって勢い良く突き上げると、拳が徐々に黒く染まり、拳をバスケットボール大の竜の頭部へと変化させた。


“グォアアアアアアアアアッ!!”


 右手の黒王が雄叫びを上げる。フリードは京三を見据えた。


「覚悟しろ、月之前京三……叩き込んでやるぜ!! この……この……この……し、しまったあああああああああ!!」


 突如として叫びを上げたフリードに京三の肉体を拘束中の武光が声をかけた。


「な、何やフリード!? どないした!?」


「どうしよう……この技の名前、まだ考えてない!!」


「アホか!! そんなもん黒王拳こくおうけんとかでええやろが、黒王拳とかで!!」

「まんまじゃん!! もっとカッコイイ奴がいいの!! 異国語とかさぁ!!」

「お、お前……こ、こんな時に……ああもう!! 黒はブラック!! 王はキング!! 拳はナックルや!!」

「よし、それ頂き!!」


 フリードは再び京三を見据えた。


「あー……ゴホン!! 覚悟しろ、聖道化師……叩き込んでやるぜ!! この……《ブラックキングナックル》をなぁぁぁっ!!」


 フリードは地を蹴り、京三に向かって突進した。


「喰らえぇぇぇぇぇっ!!」

「……フン」


 京三は、先程と同じく左右の剣腕を交差させてフリードのブラックキングナックルを受け止めたが……


「うおおおおおお……!!」

「な……何だこの力は!?」

「……どりゃあああああっ!!」

「ば、馬鹿な……ぐあああっ!?」


 フリードのブラックキングナックルの鋭い牙は、京三の剣腕を噛み砕き、脇腹をえぐり取った。

 ブラックキングナックルの威力を目の当たりしたクレナ達三人娘は唖然とした。


「あれがフー君のとっておき……!!」

「何て威力だ……!!」

「す、凄いです!!」


 フリードが、雄叫びをあげて京三に殴り掛かる。


「おらおらおらおらおらおらおらぁっ!!」


 狂王の肉体の再生速度を上回るスピードで、フリードの連続拳が肉体をえぐり取ってゆく。


「ぐ……この、モブがぁぁぁぁぁっ!!」

「はっ!?」


 京三は右肩の付け根から新たな槍腕を生やし、足元のフリード目掛けて突き出した。予想外の攻撃に、フリードは反応が遅れた


「し、しまっ──」

「させるかぁぁぁっ!!」


“すん!!”


 間一髪で、武光がフリードを刺し貫こうとしていた槍腕をイットー・リョーダンで逆袈裟に斬り飛ばした。


「あ、アニキ!!」

「あ……あっぶなぁぁぁ!!」

〔間一髪だったね、フリード〕


 武光とイットーは、安堵の溜息を吐いた。


「た、助かったよ、アニキ。でも、あいつの元の肉体は取り押さえておかなくて良いの!?」

「ん? 交代してもらった」


 武光は左の親指で背後を指差した。


「みんな、頑張って!! 離しちゃダメよ!!」

「はい、副隊長!!」

「喰らえっ、副隊長殿直伝の……」

「よ、四十八の退魔技!!」


 武光が指差した先では、武光に替わって三人娘と刺し傷の治療を終えたナジミが、四人掛かりで京三の肉体を押さえ込んでいる。


 ミナハとキクチナが左右から京三の腕に腕ひしぎ十字固め(に酷似した技)を、ナジミとクレナが京三の首と両足にそれぞれ、首四の字(に酷似した技)と四の字固め(に酷似した技)を掛けてツープラトンどころかフォープラトン……全部合わせて二十八の字固めで拘束していた。正直、そこまでする必要があるのか!?


「さてと……行くぞ、フリード!!」

「うん、行こう!! アニキ!!」


 フリードと武光は京三を見据えた。京三は大きく後方に跳躍して二人と距離を取り、肉体を再生させた。二人は、京三に向かって突撃した。


「ゴミ共が……くたばれぇぇぇぇぇっ!!」


 京三が背中から無数の触手を生やして、突進してくる二人に襲いかかる。


「フリード、俺の後ろに!! 行くぞイットー!!」

〔応ッッッ!!〕


 武光が迫り来る触手を片っ端から斬り落として、突破口を開き、突き進む。


「フリード、馬跳び!!」

「分かった!!」

「……行くぞ!!」


 前を走っていた武光が、上体を深く曲げて、馬跳びの『馬』の姿勢になる。


「飛べ!!」

「おおおおおっ!!」


 フリードが、武光の背中を足場に跳躍した。


「ブチ込め、フリード!!」

「応ッ!! ブラック……キング……ナックルゥゥゥッッッ!!」


“バゴォォォッ!!”


 会心の一撃!!


 京三の顔面にフリードの拳がめり込んだ。


「うおおおおおっ!!」

「ぐはぁぁぁぁぁっ!?」


 フリードは渾身の力で拳を振り抜き、京三を殴り倒した。


「あ……ぐ……ぅ…………ぐはっ」


 渾身のブラックキングナックルを顔面にモロに受けた京三は、立ち上がろうとしたが、ガクリと倒れ伏し、そのまま動かなくなってしまった。着地したフリードが、天に向かって高々と拳を突き上げる。


「ハァ……ハァ……見たか、俺の必殺拳!!」


 右手の黒王が雄叫びを上げた。




 聖道化師を 倒した!



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る