天驚魔刃団、去る


 63-①


 地面に倒れ伏している武光を、影光は言葉もなくただジッと見つめている。


「オイ!! 待て貴様!!」


 影光が武光に気を取られている隙に、妖月を持ったまま、忍び足でその場から離脱しようとしていたフリードをガロウが見咎みとがめた。


「何処へ行く気だ!! この戦い……影光の勝ちだ!! 約束通り、吸命剣を渡してもらおうか!!」


 それを聞いたフリードは、腕を組み、堂々と言い放った。


「そんなもの……知るかーーーーー!!」

「んなっ!?」


 呆気に取られる四天王を前に、フリードは工房を出る直前に、武光と密かに交わしていた会話を思い返していた。



 〜〜〜~~



「ええかフリード……多分、あいつらとの戦いは避けられへん……」

「う、うん……!!」

「お前もマイク・ターミスタでアイツらの戦いを見たやろ? アイツら全員、かなりの強者や……乱戦になったら今の俺らでは絶対に勝てん。だから何とか奴らのリーダー……俺をコピーして作られたっていう、あの影魔獣とのタイマンに持ち込む!!」

「えっ!? でも、相手が応じるかどうか……」

「応じない場合は、妖月の刀身をベタな悪役みたいに『ヒャハハハハ!!』って笑いながらベロッベロに舐め倒す!!」

「アニキ……それちょっと引くんだけど……」

「ま、そこまでせんでもアイツは乗ってくるやろ……俺、カッコつけたがりやし」


 そう言って笑っていた武光だったが、次の瞬間、武光は真剣な顔になってフリードの肩に手を置いた。


「それでな、ここからが大事な部分や。アイツは妖月を賭けた決闘に乗ってくるやろうけど……俺が勝とうが負けようが……お前は妖月を持ち逃げしろ!!」

「いいっ!? セ……セコ過ぎない、ソレ!?」

「た、確かにな……セコイし、卑怯やし、カッコ悪いけどな……罵られようが、笑われようが、お前の命には変えられへん!!」

「あ、アニキ……」

「フフン……それにやな──」



 ~~~~~



「貴様!? 卑怯だぞ!!」

「そうだそうだ!!」

「グオァッ!!」

「死ねこのクソ外道(弟)!!」


 フリードは四天王の抗議を一笑に付すと、武光に教わった事を言い放った。


「……掟破りは悪役の特権!! 掟破りは悪役の魅せ場!! そして、掟破りは悪役の華よッッッ!! あばよクソど──」

「帰るぞ、お前らッッッ!!」


 フリードは心の中で武光に何度も謝り、逃げ出そうとしたのだが、それよりも先に影光がフリード達にくるりと背を向けた。


 影光の突然の行動にフリード達はおろか、天驚魔刃団の面々も呆気あっけに取られた。


「お、オイ……影光!?」

「何を言ってるんですか影光さん!?」

「ドゴォァッグ!?」

「そうよ!! 私の……私の妖月はッッッ!?」


 物凄い剣幕で影光に詰め寄ったヨミに、影光はただ一言『……すまん』とだけ答えた。


「す、すまんって……ぐえっ!? ちょっ、し……まってる!! 絞まってるってば………………ハウッ!?」


 影光はヨミの襟首えりくびを掴んでズルズルと引きずりながら、他の仲間達を連れて去ってしまった。


 戸惑うフリードに『妖月はいずれまた取り返しに来る……それまで、大切に扱え!!』と言い残して。



 

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