天驚魔刃団、進撃する


 44-①


「私の剣を探して」


 そう言い出したのは、ヨミだった。


「お前の剣……?」


 影光は小首を傾げた。

 言われてみれば……ヨミがレムのすけと戦った時に使っていた短剣は、何の変哲も無い鋼の短剣だったが、以前は違う剣を使っていたような気もする。

 影光は武光が以前この世界にやって来て、ヨミと戦った時の記憶を辿った。


「ああ!! 思いだした……《チャーシューメン・豚骨》だな!?」

「《吸命剣きゅうめいけん妖月ようげつ》よっ!!」



 ……余談だが、本ッッッッッ当に余談だが……作者はこの時、めちゃくちゃおなかが空いていて、この話を書き終わった直後にラーメン屋に突撃している。



 《吸命剣・妖月》……この国に数本しか存在しない、文字通り、命を吸う魔剣である。ヨミが持っていた吸命剣・妖月は斬った相手の生命エネルギーとも言える力を吸い取り、その力を使い手に注ぎ込み、力を与える。

 但し、その際に、注ぎ込む力に応じた痛み・苦しみを使い手に与え、過去にはその苦しみに耐え切れずに命を落とした者も多数存在するという、まさに魔剣である。


「……で、その吸命剣とやらを何者かにまんまと奪われた……と?」

「う、ウルサイわね!! ワンコオヤジ!!」

「……で、情報を集める為に魔族である事を隠して人間達に紛れていた……と?」

「な、何か文句ある!? ガリガリ鬼!!」

「……ゲ、ゴォアググ……ド?」

「何言ってるかさっぱり分かんないってば!!」

「しょーぐん、ねむい」

「ねむい」

「うっさいチビ共!! とにかく、あの剣はお母様から頂いた大切な物なの!! アンタ達も探すのを手伝わせてあげるから感謝しなさいよね!?」

「フン、小娘が偉そうに……そんなもの後回しだ、後回し!!」

「ま、確かに優先度は低いでしょうね……」


 ガロウとキサイの言葉にレムのすけも頷く。


「何でよ!? か弱い乙女が!! 二年近くも!! たった一人で!! 大切な物を探し続けてんのよ!? 健気だとか、可哀想だとか、助けてやりたいとか、下僕にして下さいとか思わないわけ!?」

「全く思わん!! それが他人に物を頼む態度か!!」

「同感ですね……」


 ガロウとキサイの言葉にレムのすけも再び頷いた。


「うーん、どうすっかなー……ん?」


 悩む影光の左右のそでをつばめとすずめが、くいくいと引っ張った。


「どうした? つばめ、すずめ」

「しょーぐん……かわいそう」

「うん……」


 どうやら、子供に優しい所は完全にコピーされているらしい。影光は片膝立ちになって二人と目線を合わせると、頭にぽんと手を置いた。


「……そうだな、手伝ってやるか!!」

「うん!!」

「うん!!」


 影光は立ち上がると、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしているガロウ達をなだめた。


「まーまー、そう嫌そうな顔すんなって。別につばめ達に頼まれたからってだけじゃない、一応他にも理由があるんだ」

「何だ、それは……?」


 ガロウの質問に影光は答えた。


「……操影刀だ」

「操影刀……? 確か、暗黒教団の奴らが影魔獣を生み出す時に使う道具だったか……」

「おう、使用者の命を吸い、影魔獣に力を与える剣……何かに似てると思わねぇか?」

「まさか、吸命剣・妖月か……!?」

「ああ……あくまで推測だが、操影刀は妖月を元に作られてるんじゃないかと思ってな……妖月を追えば暗黒教団に辿り着く気がするんだ。魔王軍に入り込むにしても、手土産の一つも必要だろう。幹部の首の一つでも持って行ってやろうぜ!!」

「ぬう……そう言う事ならば」

「分かりました」

「ゴムッ」

「ったく……つべこべ言わず、最初っから『手伝わせて下さい!!』って言えばいいのよ!!」


 影光に同意した三人に対し、悪態をくヨミだったが……


「しょーぐん、だめ!!」

「めっ!!」

「な、何よチビ共……」


 つばめとすずめの純粋で真っ直ぐ過ぎる視線にヨミはたじろいだ。


「そうだよなぁ。つばめとすずめ、人に何かを手伝ってもらう時はどうすれば良いか。将軍に教えてやってくれ」


 思考を読む事の出来るヨミである。つばめとすずめ、そして影光の言わんとする事を察し、ヨミはぐぬぬ……と唸った。


「わ……分かったわよっ!! やれば良いんでしょう、やれば!? や、野郎共!!」


 全員の視線がヨミの方に向いた。


「あの……その………………………ありがと」


 蚊の断末魔のような小さな声で、しかもそっぽを向きながらではあったが、それを聞いたつばめとすずめは嬉しそうに笑った。


「しょーぐん、いいこ!!」

「しょーぐん、えらい!!」

「な、生意気言うんじゃないわよ、チビ共!!」


 足取り荒く、集団から離れたヨミを見て、影光達は笑った。


「わはは、照れてやんの」

「よくやったぞ、つばめとすずめ」

「二人とも偉いですよ?」

「グモモ」


 何故自分達が褒められているのか分からずにキョトンとするつばめとすずめであった。


 しばらくして、戻って来たヨミに、影光は聞いた。


「ところでヨミ、妖月の行方だが……手がかりはあるのか?」

「フフン……当然よ!! この二年間……あちこちを飛び回って情報収集して、怪しい場所をいくつか絞り込んであるわ。とりあえずここから一番近いのは……マイク・ターミスタかしらね。影魔獣の出現も多発してるし」

「そうか……よーし、野郎共!! マイク・ターミスタに向けて進撃だッッッ!!」




 かくして、影光率いる天驚魔刃団は現れた……武光率いる天照武刃団の前に!!


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