斬られ役(影)、切腹する


 37-①


 ガロウを仲間に加えた影光は、自分の生い立ちなどを語りつつ歩き続けていた。


「影光、お前が影魔獣だったとは……しかし、何故なぜ影魔獣のお前が、その暗黒教団とやらに牙をく?」

「俺は確かに影魔獣だが、影魔獣である以前に……俺は俺だ!!」


 何だか分かるような分からないような……とりあえず、『やりたいようにやる』という事なのだろうと、ガロウは自分を納得させた。


「ところで影光、お前は『天下を奪る』などと言うが、具体的にどうするつもりだ?」

「うーん……とりあえず魔王軍にでも行こうかと思ってるんだが……魔王軍って今どうなってんの?」

「魔王軍か……」


 ガロウは魔王軍について語った。


 元々、アナザワルド王国の本島の周囲には本島を取り囲むように大小様々な島が存在し、各種族がそれぞれの島にんでいた。


 鳥の魔族である《妖禽族ようきんぞく》のむ《リトノスとう》や、《オーガ一族》の棲む《オニガとう》、そしてガロウ達、《魔狼族》の棲む《ヤゴヌイとう》などがそうである。


 アナザワルド王国は、本島を囲む魔族達の存在によって常におびやかされながらも、同時に本島を囲む魔族達の存在によって外敵の侵入から守られているという、特異な環境に置かれた国であった。


 各島に棲む魔族達は、常に豊かで広大な本島を狙っていた……しかしながら本島に侵攻しようとすれば、その隙を突いて他の種族が自分達の島に侵攻してくる。

 魔族達は互いに牽制しあい、隙あらば他種族の島を奪おうとしていた。


 そんな魔族達が軍として一つにまとまり、本島に侵攻出来たのはひとえに、魔王シンの絶大なる武力によるものだった。

 復活した魔王シンは《転移の術》で各島に出現し、反抗する者を片っ端からブチ殺し、その絶大なる武力で傘下に収めた各勢力を《魔王軍》として糾合きゅうごうした。

 そして、一大勢力を築き上げた魔王シンは、本島への侵攻を開始し、一時は本島の三分の二を手中に収めるに至った。


 だが……三年前のあの日、魔王シンは勇者リヴァル=シューエンによって討ち取られた。


 そして絶対的な強さで多種多様な魔族を束ねていた魔王が倒れた事で魔王軍は瓦解した。


 戦線を放棄離脱し、自分の島に帰る者が続出し、最盛期には本島のおよそ三分の二を支配下に置いた魔王軍は今や後退に後退を重ねて、今や本島の南東……毎度の如く時計の文字盤で例えるならば、4時と5時の中間の辺りにある《ジョン・ラ・ダントス》に築かれた魔王城とその周辺を、徹底抗戦派が辛うじて押さえているのみとなっていた。


「せめて、カンケイが生きていればな……」


 ガロウは魔王軍参謀の名を出したが……


「あー、まぁ……アイツ、俺がぶった斬ったからなー」

「そうか、お前がぶった斬って…………って、何ぃぃぃぃぃぃっ!?」


 ガロウは素っ頓狂な叫びを上げた。


「何だようるせーなー」

「か、カンケイを……斬っただと……!?」

「うん、俺の女を殺そうとしやがったからな」

「や、奴は魔王軍の総参謀で、魔王軍で五指に入る強者なんだぞ!?」

「えぇー……あれがー!? 嘘つけ、小説だったら一行で済ませられる程度の秒殺だったぞ? そんな事より……」

「そんな事ってお前……」

「おう、そんな事よりだ……アレを見ろ!!」

「んん!?」


 影光が指差した先では、複数の剣影兵と身体の表面を琥珀色の岩石に覆われた魔物が交戦中だった。

 魔物は身長2m以上の巨体を持ち、頭部には目も鼻も口も無く、代わりに顔の中央に赤く輝く球が埋まっている。そして丸太のように太くて大きな両腕を持っており、シルエットで言えば人型と言うより、ゴリラに近い。

 交戦中の魔物を見てガロウが呟いた。


「あれは……《ゴーレム》か……?」

「ゴーレム……?」

「ああ、身体の表面を岩石に覆われた、怪力自慢の魔物だ」

「なるほど……良いねぇ、パワータイプ」


 ニヤリと笑った影光を見て、ガロウは問うた。


「影光……お前まさか……」

「ああ、奴を四天王その2にしよう!! 行くぞガロウ……っと、その前に」

「お、おい……何をしている!?」


 影光がいそいそと服の上着を脱ぎ始めた。


「待て待て待て!!」

「ん?」

「何故脱ぐ!?」

「いいからいいから」


 上半身裸になった影光はその場で正座し、影醒刃の柄を取り出すと、長さ三寸(=約9cm)ほどの黒刃を形成した。


「……ふんぬっっっ!!」

「えぇーーーーーっ!?」


 ガロウは こんらんした!


 止める間も無かった。突如として影光が影醒刃を逆手に持ち替え、自らの左脇腹に突き立てたのだ。


「ななな、何やっとんじゃーーーーー!?」

「…………せいっ!!」

「ぎゃーーーーー!?」


 混乱しまくるガロウをよそに、影光は左脇腹に突き立てた影醒刃を右脇腹まで真一文字に引き回した。


「……よし!!」

「良くない良くない良くない!! 何をしてるんだお前はーっ!?」

「よいしょっと」

「わーっ!?」


 影光は真一文字に付いた腹の傷に指を突っ込み、傷口を上下に開いた。傷口の中央……ヘソの上辺りにピンポン玉サイズの光る玉がある。


「ガロウ!!」

「な、何だ!?」

「これこれこれ!! 影魔獣の核!! ココのこの光ってる奴!! 今すぐ匂いを覚えろ!!」

「えっ?」

「早く!! 傷口が塞がる!! やり直すのも面倒だし、早くしないと四天王候補その2(仮)がやられちまう!!」

「う……分かった」


 正直、あのゴーレムがどうなろうと知った事では無いが、あんな意味不明な自虐ショーを二回も見たくない……ガロウは、嫌々ながらも影光の傷口に鼻を近づけ、すんすんと匂いを嗅いだ。


「お……覚えたぞ、影光」

「よし、その匂いがする箇所に奴らの核がある!! 奴らを叩き潰すぞ、ガロウ!!」

「応ッッッ!!」



 影光とガロウは、戦場に乱入した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る