魔獣物語
ひよく
序章
第1話 焼け落ちる村
空が赤く燃えていた。
妙に美しく、神秘的な光景である。
しかし、それは夕焼けではない。
朝焼けでもない。
今の時刻は深夜なのだから。
村を焼く炎が空を赤く照らしているのである。
この場にいるのは女子供と年寄りばかり。
着の身着のまま、村から逃げ出してきた。
村の男達…つまり彼女らの夫や父や息子は、妻や子や年老いた親を村から脱出させるため、武器を取り、突如、村に襲い掛かった醜悪な敵と戦っている。
突然の襲撃ではあったが、それでも男達が負けるとは、彼女らは考えていなかった。
村の男達は長年の自治の間、ずっとこの村を自警してきた。
武器の扱いにも戦闘にも慣れている。
しかも、彼らを率いる2人の男は、このような小さな村に埋もれているのが不思議なくらい有能な人物だった。
同じ人間では右に出る者はいないと囁かれる最強の戦士。
そして、‘パスツレラの大賢者’と呼ばれる魔術師。
どの国の騎士団長でも、どの国の宰相でも、勤められる男達である。
伝説にさえなっているこの2人の名を知らぬ者は珍しいが、この2人がこの村で暮らしている事を知る者は、村の外にはほとんどいない。
この2人の力によって、村は幾度もの危機を乗り越えてきた。
この2人の男の敗北など、想像する事さえ出来なかった。
しかし、それは先刻までの話である。
女子供と年寄り達は、小高い丘の上から、赤い空を、焼け落ちる村を、絶望の思いで見つめていた。
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