人質
開始3時間時点。
ジルは新たな餌となるべく、森林を徘徊していた。
「まったく……なんで私がこんなことを……」
ブツブツ文句を言いながらも、キッチリと自身の役割を全うしてしまう優等生美少女。
ガッ!
「むぐっ……」
そんな中、突然、背後から口を抑えられる。
「ジル、悪いな。お前には人質になってもらう」
リーダが、得意げな表情をして笑いかける。密かに可愛いと思っている勤勉美少女に近づけて、若干嬉しいデブブサイク魔法使いは、この汚れ役をもって、ジルから『気持ち悪い男ナンバー1』に認定された。
「ムーッ! ムーッ!」っと抵抗していると、茂みの中から、クリストとバズが出てきた。「ごめんな……ジル。本当はこんなことしたくはないんだけど」と、この計画を立案した張本人クリストは、さり気ないフォローも忘れない。ガサツな男とは一味違うモテ魔法使いである。
「リアナ、アシュ! 出てこい! ジルは捕まえたぞ」
バズが大声で叫ぶ。すでに、大まかな位置は把握しているが、別の方向から魔法が飛んでこないように警戒を張り巡らせる。
そんな中、前方から声が聞こえる。
「早く来なさいって!」「や、やだよ。なんで僕がノコノコと……」「ジルが危ないんだからっ! 友達でしょう!?」「と、友達じゃないよ。僕はそんなくだらないものは作らない」「いいから来なさい」
そんな一連のやり取りを経て、前方から2人が登場。
「……」
バキッ……バキバキバキバキッツ……
リアナが手を引きながら、アシュを連れてくる光景を眺めながら、クリストは、本日2本目の鉛筆を、バッキバキにした。
「ちょっと! 君たち、いくらなんでも卑怯すぎるんじゃないかしら?」
怒りの表情を浮かべながら、亜麻色ロングの美少女は3人を睨む。
「ごめんね、リアナ。僕も本当はこんなことしたくなかったんだ。でも、仮に闘うとすると、さすがに君には本気を出さざるを得ない。万が一でも、君に一生消えない傷を残しちゃマズイと思ったんだ」
クリストは爽やかに微笑む。
「クク……リアナに勝てる気でいるのか?」
反面、アシュは嘲ったように、陰湿な笑いを浮かべる。
「……彼女を人質にした理由はもう1つある。アシュ=ダール。君と、1対1で対決するためだよ。
クリストは、挑発するような物言いで、尋ねる。
「クク……これは、戦争だよ? 敵が真正面から堂々と決闘を申し込んでくるとでも考えているとは、君の脳内は、お花畑が咲き乱れているね」
「……」
バキッ……バキバキバキバキッツ……
本日3本目の鉛筆が無残にもへし折られる。彼のポケットに入れられている鉛筆の残りはあと、3本。
「アシュ……ジルが人質になってるんだから。受けなさいよ」
お姉さん美少女が、コツンと性悪魔法使いの頭を、小突く。
「嫌だよ。そもそも、みんな敵なんだ。人質として、ジルにはなんの価値もないよ」
「もう! なんで君はそういうこと言うかな!?」
「だ、だって本当のことじゃないか!」
「また強がって。ジル、嘘よ。こんなこと言っておいて、本当はあなたのことを凄く心配してるんだから」
「き、君はなんでそういう訳の分からないことを」
「いいから受けるの! いい? わかった?」
「あーもう、わかったよ。クリスト、君の言う正々堂々の青臭い勝負とやらを受けようじゃないか」
「……ありがとう」
バキッ……バキバキバキバキッツ……
笑顔でお礼を言いながらも、クリストの鉛筆は、残り2本。
「で、ここでやるのかい?」
「いや、ここは障害物などがあるだろう? 西の草原でやろう」
「はぁ……なんだい? 君の言う正々堂々と言うのは、場所すらも細かく指定するのかい? 大したものだな」
「……」
バキッ……バキバキバキバキッツ……
残り1本。
「わかったよ。君の好きにすればいい。ところで、さっきから鉛筆をバキバキ折ってるけど、キモいからやめた方がいいよ」
「……」
バキッ……バキバキバキバキッツ……
最後の鉛筆が折れた瞬間とともに、確実にアシュを殺そうと誓う、クリストだった。
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