魔法解析探偵録 緋色の探求者

水島一輝

プロローグ―前書き


 ――魔法は、人を幸せにするためにある。


 この世界を作った初代三大賢者の一人、スティーロン・ジョーンズは言った。

 そう言えば、とても聞こえはいい。

 しかし、人の幸せとは、人によって千差万別である。


 たとえ、それが人を殺すことだとしても、幸せになってしまう。




 ――魔法は、痕跡を残さない。


 大魔法使い犯罪者ベイガン・グレイグの言葉。


 発動された魔法は、何かしら影響を与えるが、魔力がなくなってしまえば、魔法自体の存在は残らない。


 ここは、魔法で作り上げられた世界。

 魔法に囲まれた場所で、人々は生きている。


 魔法で人を殺してはいけないことになっているが、決してなくなることはない。


 それゆえ、犯人が見つからないことが多く、人々は困っていた。




 私は、こう書いていて不思議に感じている。

 なぜ、わざわざ「魔法」と書いているのか。

 魔法ではないことを指す言葉が、私には見当たらない。

 あえて、魔法で存在していることを魔法と記している。


 生まれた時から魔法は、常に身近に存在し、生きる上で、なくてはならない。


 しかし、今これを書いている部屋の窓から見える月は、魔法ではないという。

 太陽も魔法ではないと知ったのは、彼と出会ってしばらくしてから。


 偉大な魔法使いが、月という魔法を発動させているから存在しているようにしか思えない。


 いまだに私はそれを信じることができていない。


 ――魔法には、人の気持ちが内包されている。


 彼には、魔法のなんたるかが見えていた。


 彼と出会わなければ、このことも一生知らないままであっただろう。



 これからここに書くことは、

 彼とともに緋色を探求して、世界の真実にたどり着くまでの記録。


 彼が私のそばにいた時の物語。


 きっとこの本が読まれているということは、まだこの本の魔力が残っているのだと思う。

 もし、魔力が少なくなっていたら、また魔力を吹き込んで欲しい。


 できれば、彼と一緒にした証を私は消したくない。



 私の記憶が、まだしっかり残っているうちに書いておく。

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