9-2
南雲(なぐも)ヒカリ、彼女が歴戦リズムゲーマーと呼ばれるまでの実力を持つようになったのは――ここ最近の事だと言う。
しかし、その過去には超有名アイドル商法を巡るSNSの騒動が――大きく関係していた。
彼女が最低限のSNSアカウント以外を持たない理由は余計なノイズを拾いたくない事情があるのかもしれない。
そして、彼女が南雲ではなくデンドロビウムを名乗るようになったのは、あるWEB小説が理由という説が浮上している。
「これが――あの事件の真相なの?」
当然のことだが、
WEB小説なのでその内容はフィクションなのは間違いない。
しかし、当時の南雲には――ある意味でもフィクションとノンフィクションの区別がつかない状態になっていた。
それでも――この小説を完全にフィクションと切り捨てる事は不可能とも言える記述があったのも事実である。
【我々は、一連の事件がこの世界だけで起こっている物とは考えづらいと考えている】
【だからこそ――今回の行動を起こしたと言ってもいいだろう】
その発言をしていた人物こそが、デンドロビウムと言う名前の人物だった。
つまり、彼女が一連のSNSテロ等に対して別の陰謀説を考えるようになったのは――デンドロビウムの影響があるのかもしれない。
しばらくして、彼女は一連のSNSテロとは無縁なジャンルに興味を示すようになった。
その中には、草加市で展開されていた拡張ゲーム計画等もあったのだが――最終的にはあるジャンルのゲームに興味を示す。
(これが、ゲーム?)
日曜日の『オケアノス・ワン』草加店で彼女が目撃した筺体は、タブレット端末の画面とゲーム筺体を組み合わせたような物だった。
それがリズムゲームだと知ったのは、ネット上で筺体の情報を調べている時だったと言う。
「女性プレイヤーか?」
「珍しい事もある物だな」
「そういう希少種みたいな事を言わない方がいい。格ゲーでも有名な女性プロゲーマーがいる位だ」
プレイしている最中、そんな発言があったようだが――彼女の耳には全く入っていなかった。
デンドロビウムは、ゲームに集中しているあまりに周囲の声が聞こえなくなっていたのである。
ある意味でもバトルマニア――あるいはゲームマニアと言うべきだろうか? ゲームに対する知識よりも、この場面では戦闘狂のゲーム版と言えるが――。
【ゲームで戦闘狂だと? あり得る話なのか――】
【格ゲーやFPSのようなジャンルだとゼロではないし、プロゲーマーにも戦闘狂なプレイヤーは少数いるだろう】
【それがリズムゲームで出現したなんてあり得ない】
【あの場合は第六感とか――そう言うノリでは?】
ネット上でもデンドロビウムのプレイ動画が拡散しており、そこから見ていたプレイヤーがコメントを打ち込み、動画内で流れている。
一種の荒らしのようなコメントは存在しな一方で、彼女のポテンシャルを恐れている上位ランカーも存在していた。
後に、恐れていた懸念は事実となり――歴戦リズムゲーマーと呼ばれるようになるのは、西暦2020年になってからの事である。
ゲーム終了後、彼女の目つきは別の意味でも充実感に満ちていたと言う。
周囲のギャラリーは不用意に声をかける事を止めており、そこからも下手なトラブルに発展する事を恐れているのかもしれない。
(これが――自分の求めていた物――)
1回のプレイだけでは満足できないと考えていたが、あまりお金を持ってきていない関係で――今度は別のリズムゲームに手を出す事になる。
他の機種をプレイして、どれが一番なじむのか――と言うのを確かめたいのかもしれない。
お金はかかるかもしれないが、ネットを炎上させて自己満足したり――他人を傷つけるような行為に走るよりは、よっぽどマシだと確信する。
その当時の南雲を遠目で見ていた人物もいた。それは、当時はバイトスタッフだったタチバナである。
後にタチバナは草加店を任される事になるが、その前に出会ったゲーマーの中では印象的なプレイをしたのが彼女だったと言う。
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