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《【整理番号:10】をお持ちのプレイヤーは、筺体の前までお越しください。5分以内にログインが確認出来ない場合はキャンセルとします》
村正(むらまさ)マサムネがレンタルしたタブレットには、順番が回ってきたと分かるメッセージが届いた。
5分以内と言っても、すぐ目の前にいるので1分以内にはログインできる。ムラマサは慌てることなく、指定された筺体の前に立つ。
こちらのゲームでは立ってプレイするらしいのだが――リズムゲームの場合は座ってプレイする方が珍しいだろう。
筺体には若干の段差があるようだが、下のステージにも似たようなメタリックカラーの台に関しては普通に振動防止のステージと言うイメージが大きい。
「まずは、これを――」
ムラマサは見よう見まねでタブレット端末を中央に表示されたセット場所に固定する。
方法に関してはタブレット端末の画面にも表示されており、間違える事はないだろう。
固定と言っても、向こうで固定されるようだが――どのような仕組みなのかは突っ込むべきではないのかもしれない。
見た目はスマホを斜めに固定するスタンドのタブレット版――に見えなくもないが、角度をある程度変えることは可能だ。
ムラマサは先ほどのプレイヤーがプレイした角度のままでプレイする事になるが、その角度は45度である。
《ようこそ、リズムゲームVSの世界へ――》
セットされたタブレット端末に表示されたのは、ゲーム画面――目の前の画像と同じなので、ある程度は連動しているのかもしれない。
しかし、タブレットはレンタルなのでいくつかの段階はキャンセルされていた。ネームはゲストのままだが、ここは仕方がないだろう。
次に画面上に表示されたのはモードセレクト画面だったのだが、3つのモードが四角形のパネルに表示されているようにも見えた。
【ノーマルモード】
【トライアルモード】
【ライセンスモード】
次はモードを選ぶらしいが、ゲストプレイではライセンスモードはグレー表示で選択できない。
どうやら、このモードはレンタルではないタブレットでプレイする必要性があるようだ。
ノーマルモードは最大3曲保障のプレイが可能と書かれていた。言いかえると、最低でも3曲はプレイ可能と言う事なのだろう。
一方で、トライアルには――。
《スキルシステムを導入した、更なるスコアトライアルが体験できます》
説明だけを見てもさっぱりなので、ムラマサはノーマルモードの項目を指でタッチして決定し――先へ進める事にする。
そして、彼女は致命的なミスをしてしまった――。ある意味で初心者あるあるかもしれないが、このジャンルでは別の意味合いもあるのだが。
《チュートリアルを始めますか?》
その行動とはチュートリアルを飛ばすと言う、ゲームで説明書を読まずにプレイするような展開になってしまったのである。
これにはムラマサ自身も気づいておらず、異変に気付いたのは周囲のリアクションを見てからだった。
「あのプレイヤー、初心者じゃないのか」
「レンタルタブレットでのゲストプレイは、普通で言うと初心者では?」
「稀に復帰を考えているプレイヤーが、リハビリでゲストプレイをするとは聞いたことあるが――」
「アレは単純に飛ばしてしまったと言うべきだな」
周囲はチュートリアルを飛ばした事でムラマサが、そこそこ実力のあるプレイヤーと勘違いし始めている。
実際、モニターで様子を見ているプレイヤーにも同じように見えているのだろう。
この店舗ではチュートリアルをプレイせず、すぐにモードを選択してゲームを進めるプレイヤーが多いのだが――。
(この空気――FPSでもやった事あるけど、まずいヤツだ。これ)
ムラマサは周囲の空気を瞬時に把握し、言葉にはしたくないような緊張を感じていた。
初めてプレイするジャンルでは、どれでも同じような空気を感じる事があるのだが――今回は自分のミスもあって、かなり致命的である。
これで1曲目に演奏失敗してゲームオーバーになったら、それこそSNSで晒し首や炎上案件になる事は明らかだろう。
下手すれば、自分を題材とした漫画や夢小説等の二次創作ネタとして書かれることだって――さすがにナマモノジャンルなので、自重するファンはいるかもしれないが。
(どうするべきなのか――)
色々と複雑な心境の中、ムラマサはゲームをプレイしなくてはならなくなってしまった。
ある意味でもプレッシャーとの戦いだが、彼女の場合は違うプレッシャーなのかもしれない。
15分が経過し――ムラマサは魂が抜けたような状態になっていた。プレイ結果はレベル1の譜面を中心にプレイしたので――演奏失敗で終わった訳ではない。
しかし、自分としては不完全燃焼に加えて――ギャラリーの反応も良くなかったのは見て分かる。
自分がバーチャルゲーマーとしてデビューした当時のデジャブ――それを再現したかのようなプレイだった。
純粋にゲームを楽しめずにプレイを終えるのは、これが初めてではないのだが――。
プレイを終了したムラマサはすぐに順番待ちのプレイヤーと交代し、タブレット端末も受け付けに返却し――施設を後にしようとも考えていた。
失意のムラマサにスタッフは声をかけようともしたのだが、下手に傷に塩を塗りつけるような事は――避けているのかもしれない。
「なんか忘れてる――」
あまりにもふがいないプレイを周囲に見せてしまった事に対し、恥ずかしいのか――その時の光景で上書きされ、肝心な事を思い出せなかった。
(なんだっけ――大事な事だったはずなのに)
リズムゲームをプレイするという目的は達成しているが、それだけではなかったはず。
さすがにアミューズメント施設で叫びたい気持ちがあったとしても、そこはマナーの問題もあって叫ばない。心の中でも――自重はする。
これが自宅だったら、叫んだりもするが――防音対策がばっちりな環境だから出来る事でもあった。普通の家でやると、近所迷惑だろう。
(駄目だ――思いだすのも困難な程に――)
ムラマサがFPSゲームの筺体へ移動する際、そこであの時の女性に遭遇するが――顔は見ていなかった。
厳密には振り返らなかった――と言うべきか。ムラマサとしては、それどころではない程に考え事をしていたのかもしれない。
(彼女は、確か――)
向こうの方が彼女を気にかけていた事には――ムラマサも気づいていない。
一応、動きは素人同然、ノーツの捌き方も反応が悪くてミスを連発――そんなムラマサが気になっていたのである。
彼女がゲームをプレイしていた時には――チュートリアルをスルーしたのは痛かったが、捨てゲー等を行っていない。
リズムゲームの場合、途中でコンボが途切れたり、スコアが出なかったりした際にプレイを中止する行為――いわゆる捨てゲーを行う事があった。
これを対戦格闘などでやれば、それこそリアルファイトは避けられないだろう。
しかし、これはリズムゲームであり、対人戦もなければ一部ゲームであるようなマッチングもリズムゲームVSには実装されていない。
(誰だって、リズムゲームでも失敗をすることだってある。どのジャンルのゲームでも――同じ事は言えるし)
彼女は、声をかけようとも考えたが――傷に塩を塗りこむ様な事をしても、逆にまとめサイトが炎上案件として取り上げるだろう。
近年はおとなしくなっているが、一時期は大手芸能事務所が自分達のコンテンツ以外を潰そうとまとめサイトを複数立ち上げた事は、週刊誌でも取り上げられた。
そう言ったネタはWEB小説の見過ぎと言われるような――妄想と切り捨てられそうだが、一部の勢力はそう思っていない。
その証拠として、このゲームの開発者は本気で特定芸能事務所が世界征服する為にコンテンツ市場を掌握――と言ったホビー系アニメの見過ぎと切り捨てられそうな妄言を本気で信じたのだ。
(これが全ての始まりになるのか、それとも――)
南雲(なぐも)ヒカリ、彼女は様々な理由はあれど――リズムゲームVSが何かのきっかけで名前が広く知れ渡る事を予測していた。
ムラマサ以外にも数人のバーチャルゲーマーがリズムゲームVSをプレイしており、そこを経由して拡散する事は――明らかである。
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