第15話 修羅
アンナの店を離れた後、儂は持っている金で色々買い食いをして、買い物を楽しんだ。
身体が若返っているおかげか、たくさん食べる事が出来た。
食べ物に関しては、あまり地球と変わりないようで、味も普通に旨かった。
しかし違う部分としては、魔物を食料としている点かの。
目に入った生物に対して全力でタックルを仕掛けてくる、とんでもなくはた迷惑な魔物である《タックルボア》。
その名の通り猪なのじゃが、タックルする際の速度が目で追うのが大変な程らしく、全身の筋肉は引き締まっていて適度に脂も乗っていて美味だった。
ちょっと肉は固いが、それでも噛んだ時に溢れてくる肉汁が絶品で、ついつい串焼きを五本も食べてしまった程じゃ。
後は見た目は林檎の果実、《リリゴ》は林檎よりさらに甘くて頬がとろけてしまいそうじゃった。
そんなこんなしていたら、青かった空はオレンジ色になっていた。
「もうこんな時間かの? そろそろグライブ達と合流せないかんの」
グライブが書いた地図を見つつ、指定の宿屋に向かう。
そんなに距離が離れていないから、時間も掛からないだろう。
儂は、このイデュリアの景色を楽しみながら歩を進める。
(しばらく山籠りだったからのぉ。気持ちも若返ったのか、こんな人ゴミの中でも心が踊っておる)
きっと今の儂の顔は笑顔なのじゃろうな。
口元が緩んでいるのがはっきりわかる。
とりあえず宿屋に着いたら食事をして、図書館で借りてきた本をじっくり読もうではないか。
ルンルン気分で歩いていたら、目的の宿屋に到着した。
買い食いしていたおかげで、メモなしで文字が読めるようになりつつある。まだ完璧ではないが。
看板を読んでみると、辛うじて読む事が出来た。
「や……宿屋、か、か、かざ……み、ど、り? ああ、《宿屋・風見鶏》か!」
その名の通り、屋根には木製の風見鶏が立っていた。
ちょっと風があるのに風見鶏は回っていない。ただの飾りで付いているのだろう。
なかなかお洒落な宿屋ではないか。儂はこういうの嫌いではないぞ。
儂は宿屋の扉を開けようと近づいた瞬間、扉の向こうから高速でこちらに何かが向かってくる気配がした。
扉を開ける動作を止めて左に飛んで扉から離れると、案の定何かが扉から飛び出してきた。
いや、飛び出してきたというより、吹っ飛んできたと表現した方が正しいじゃろう。
「ぐはっ!!」
吹っ飛んできて地面に背中から叩きつけられたものは、グライブだった。
儂はすぐさまグライブに駆け寄った。
「大丈夫か、グライブ」
「かは、げほっ! りゅ、リューゲンか……」
「ふむ、命に別状はなさそうじゃの。何があった?」
「宿屋の娘さんに乱暴を働いている奴がいて、止めようとしたら、スキルで吹き飛ばされちまった……」
スキルで吹き飛ばされた?
儂は今いる所から扉を見る。
距離にして約四十メートルといったところだろう。
革製の鎧と言えど重いものを身に付けている人間を、四十メートルも吹き飛ばせる人間はいない。
出来るとしたらスキルだと思うのじゃが、どんなスキルを使ったら人間をこのように吹き飛ばせるのか。
まぁいい。
せっかく上機嫌だったのに、一気に現実に引き戻されて非常に不愉快じゃ。
そんな相手の顔を、拝んでくるとするかの。
儂が立ち上がろうとした時、グライブは儂の手首を掴んで引き留めた。
「ま、待て! 流石のリューゲンでも、アルカナが三つある奴には勝てない!!」
「む? アルカナが三つ?」
確か三つ目と四つ目は《攻撃スキル》だと言ってたな、確か。
つまり、早速その攻撃スキルを見学する事が出来る訳じゃな。
それは善は急げじゃないか!
「ああ、糞!! リューゲンの目が無邪気な子供のように輝いている!!」
「だって、攻撃スキルが見れるのじゃぞ? それは見てみたいに決まっておる!!」
「戦闘狂だな、本当に」
失礼な!
……でも否定出来ぬな。今の儂を突き動かしているのは、地球では味わえない戦闘に触れて勝つ事。
最愛の絹代さんが用意してくれた舞台なのじゃ、自分から進んでいかんでどうする!
「とりあえず、あいつが使う攻撃スキルは――」
「ああ、言わんでええ」
「えっ!?」
「先に知ってしまっては、戦いは楽しめぬだろう?」
「……楽しむとか、何訳のわからねぇ事言ってるんだよ! 命がかかってんだぞ!!」
「すまんの、グライブ。心配してくれてありがとう。じゃがな――」
彼が心配してくれて助言しようとしてくれるのはよくわかっている。
じゃが、儂は異世界の強者と戦う為に今は生きている。
儂は、餓えているんだ。
強力な魔法とスキルに溺れず、それをあくまで手段と捉え、そして技術の研鑽を怠っていない、真の強者に。
スキルと魔法と技術がある強敵と戦えば、きっと儂は満たされるだろう。
儂の口角が釣り上がるのがわかった。
グライブが小さく「ひっ」と悲鳴を漏らす。
「儂は、もう止まらんよ」
儂は宿屋の扉を開けた。
「姉ちゃん、なかなか良い身体してんなぁ! 俺の好みだぜ?」
「いや、いやぁぁぁぁ!!」
俺はレイトン。この町で唯一アルカナを三つ持っている男だ。
それに、四つ目が開眼しようとしているのが感じ取れている。
ふふふ、この町で俺に敵う奴はいねぇんだ。
何故なら、俺には必殺の攻撃スキルがあるんだからよ!
俺は宿屋の娘を椅子に座らせて、意外と豊満な胸を揉みしだく。
素晴らしい揉み心地だぜ。
女や周囲の男達は俺がアルカナを三つ持っている事を知っているから、誰も手を出してこねぇ。
それ程までに、攻撃スキルの有り無しは大きいんだ。
さて、そろそろ揉むのも飽きたな。
全部頂いてしまおうか。
俺は娘の服を脱がそうとする。
だが、娘は必死に抵抗する。
「やめて、やだ、やだぁぁぁぁぁぁっ!!」
「おいおい、そんなに抵抗していいのか? 俺の必殺の攻撃スキルで、ここの客どころか、てめぇの両親もぶっ殺すぜぇ?」
「!?」
娘が顔面蒼白になった。
さすがに両親は殺されたくないのか、抵抗しなくなった。
いいねいいねぇ!
これがアルカナの恩恵だ!!
俺自身、容姿に優れていない筋骨隆々のブ男だが、アルカナをちらつかせりゃ望みは叶う!
この世界は、なんて素晴らしいんだ!!
俺はゆっくりと服をめくる。
娘が涙を溢す。その表情がそそって、俺の身体の中心部が固くなるのを感じる。
そしてついに、白い乳房の下部分が見えて来た。
さぁて、全貌を見せてもらおうじゃねぇか!!
「ふむ、なかなか下衆な事をしておるのぉ、お主」
「!?」
後ろから急に話し掛けられて、俺はすぐさま振り向く。
するとそこには、黒髪の優男がいた。
優しそうな眼、嫉妬する程整った顔立ち、すらっと伸びている手足。幼さがあるが間違いなくモテそうな男だった。
「か弱い女性をそのように力でねじ伏せるとは、同じ男として恥ずかしくて溜め息しか出ぬわ」
「何だてめぇは! ジジィみてねぇな喋り方しやがって」
「今はどうでもええじゃろ。それより、その子を離しなさい」
「はぁ!? てめぇ、誰に向かって口聞いていやがる! 俺はアルカナ三つ持っている男なんだぜ!?」
「そうかそうか。それはよかったのぉ」
苛つく。
この人を馬鹿にしたような態度が、癪に障る。
――ん?
こいつから、アルカナの気配が何も感じない?
ふふ、ははははっ!
まさかこいつ、アルカナがねぇのか!?
「てめぇ、まさかのアルカナゼロかよ!」
「ん? そうじゃが?」
すると、周囲から落胆の声が漏れる。
そりゃそうだ、せっかく助けてくれそうな奴がアルカナゼロなんだからなぁ!!
「てめぇは死にに来たのか!? アルカナがねぇ癖に、俺に突っ掛かってきたのかよ!!」
「その通りじゃ」
「くくくくっ!! てめぇはよっぽど馬鹿なんだなぁ!!」
「ん~。馬鹿なのはお主じゃ」
「……は?」
この俺が、馬鹿、だと?
アルカナゼロが、何を吠えていやがる。
「別に儂は、お主なんぞ脅威に思っておらん。ただ、お主の攻撃スキルを是非拝見したくて、このように喧嘩を吹っ掛けているだけじゃ」
こいつ、何を言っているんだ?
攻撃スキルを見たいだけで、喧嘩を仕掛けてきているだと?
なんだ、本当にこいつは何なんだ?
「後な、儂は女性を乱暴に扱う男が死ぬ程嫌いなんじゃ。じゃからな――」
突然、優しそうだという印象を抱いていた眼が、一気に急変する。
想像を絶する程の鋭さを帯びて、瞳はまるでナイフのような眼光を纏う。
身体に寒気が走る。
こいつはアルカナゼロなのに、何なんだよ、この息苦しさは……!
身体が小刻みに震えてくる。
そして膝が笑っている。
これは、恐怖か!?
「すこーーーーーしばかり、生き地獄を味わって貰うぞ?」
影を帯びた表情に、白く浮かび上がる三日月のような口。
まるで、悪魔を連想させる表情だ。
この時の俺は、自分の攻撃スキルに酔っていて、こいつに勝てると思ってしまっていた。
今思えば、それは驕りだったんだ。
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