夢や

小椋 堯深

夢屋「夢や」


 ここは夢屋、貴方の『夢』を喰うところ。


「夢」とは言えど、人が沈む時にみる、あの「夢」でなく、人が明日をみる時にのみ見る『夢』にございます。


 貴方には忘れられぬ、されど忘れたい『夢』はありますか?もしあるならば、この私が喰ってやりましょう。それはそれは美しく『夢』を「夢」たらしめてやりましょう。



 私の仕事はただ1つ、人様の夢を喰らうこと。この世に生きる全ての人間が、なりたいものになれていた。なんて素敵な世の中でしょう。しかし、そう上手くはいかないのが世の常でございます。成れた者がいれば、成れぬ者もいるのです。私はそういう、成れぬ者を選びとって、夢を喰い、成れぬようにするのです。




 酷いだって?何故です?


 選ぶったって、顔が云々っていうんじゃあないですよ?その人の家やら環境やら性格やら全てを見た上で、公平に、喰ってるんです。どう足掻いても無理なのに、諦められぬ方が酷というもんでしょう。私が喰っちゃえば、ほら、この通りなーんにも未練なく、美しい思い出、として残るんですよ。幸せじゃないかい?




 じゃあ喰われなかった人だけが成っているのか?


 いやいや、私たちだってそんなに万能じゃないですよ。人間いつ何処で何が起きるかなんて分からないじゃない。「夭折」なんて言葉もある世ですからねえ。それにほら、私たちだって喰い続けるにも限界ってもんがあります。大体は食べちゃってもねえ、あと一口が入んなくてお残ししちゃうことだってあるんですよ。大抵その場合その人が自分で膳を片してくれるんですけどねえ。




 まあ稀に、そのお残しからまたメキメキと『夢』が膨らむ人も居てね。


 上手いこと私が『夢』の腐ったとこ食べちゃったのかな〜とかね。そうするとね、『夢』の邪魔な部分無くなってるから、今までより一層追いやすくなっちゃうじゃない?あーヤダヤダ、不味いもの喰わされ損よ。だってそういう場合、『夢』になっちゃう人ばかりで、美味しい夢は指咥えて見てるしかないもの。




 私?私はここの店主をしております。

 人間か?人間と言えば人間ですかねえ。







 私の名は、あきらめると書きまして、「まこと」と呼びます。

 呼ばれればいつでもどこでも、呼ばれずともいつもお側に、あなたの『夢』を喰らいに向かいます。


 どうぞお見知りおきを。

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