新天地~再びあの場所へ③
「……少しの間、会っていなかっただけでシャルの悪役レベルが上がった気がするのは、私の気のせいかな?」
「ふむ?そんなに変わっていないと思うがな」
「ええ。前からこんな感じだと思うわよ?」
「いやいや、自由過ぎて真っ黒だわっ!!」
サイに金糸雀、ボロボロと涙を流したままのクラウンが順番に彼方の疑問に答えていく。
「そ、……そうなの?」
「うむ。主は相変わらず無邪気だぞ」
「シャルロッテに慣れてきた私達でも対応しきれない事も多々あるわ」
「いやいやいや!父さんも姉さんも甘いって!無邪気じゃなんて可愛い物じゃなくて、悪の根源……悪気の塊だろうがっ!」
「へ、へー……そうなんだ?」
「こらー!彼方に変な事を吹き込まないでよ!」
黙って聞いていれば……三人とも他人事だと思って言い放題だな!?特にクラウン!
純粋な彼方に余計な事を教えるんじゃないの!
「そんな怖い顔をして、どうしたのだ?主よ」
私のジト目に気付いたサイがキョトンとしながら首を傾げる。
「私達、本当の事しか話してないわよね?」
「そうだ!そうだ!」
――ぐっ!…… 本当の事だって?……ひ、否定が出来ない。
確かに自由奔放に生きてる方だけどさ……!?
「……ごめんね?私が変な事を言ったりしたから……」
「ぜ、全然、大丈夫だよ!彼方は何も悪くないし!」
彼方はすまなそうな顔で私を見ているが、彼方には全く非がない。
彼方は純粋な疑問を口に出しただけだし、サイ達はその疑問に素直に答えただけ。
そう。私の気持ちはお構いなしに、みんなは素直に答えただけなのだ。
もし、そこに
「そ、そろそろ移動しないか!?」
私とバッチリ目が合ったクラウンが、途端に真っ青な顔で慌て出した。
――余計な発言は多いものの、クラウンは勘が良い方だ。
私が殺気を滲ませた事にいち早く気付く位に。
だったらそもそも余計な事を言わなければ良いのに……と思うのだが、結局のところクラウンは『お馬鹿さん』なのだ。
うっかりポロリと余計な発言をして、私にお仕置きをされる運命なのだ!
「……なんか、自分の事を棚上げしてないか?それはお嬢と兄貴の日常じゃ……」
「ん?何か言った?」
私はにっこり微笑む。
「い、いや、何でもない……」
「そう?じゃあ、良いよ」
「…………」
クラウンはグッと口元を固く結び、私から視線を逸らさずにジワリジワリと後退して行く。
これって……熊に出会った時の逃げ方に似ていない?
――って、私は熊か!?
よーし、そっちがその気なら……!!
「…………」
「…………」
両手を上げながら、クラウンと無言の攻防を繰り広げ始めた私の耳に、彼方の少しだけ強張った様な声が聞こえてきた。
「セイレーヌ様に会うの久し振りだから、なんか緊張してきたー……」
彼方は胸元に両手を当てながら何度も深呼吸をしている。
「……え?ああ、彼方はあの時以来だから……半年振り?でも、そんなに緊張するかな?」
両手の構えを解除し、クラウンの方から彼方に向き直る。
「アーロン様とはたまにお話しはするけど……ね」
聖女として召喚された彼方は、セイレーヌではなくアーロンによって召喚されたのだから、関わりが少ないのは仕方ないのかもしれない。
夫婦とはいえ、神達にはそれぞれに役割があるのだろうし。
「普通は緊張すると思うよ?セイレーヌ様は綺麗な女神様だし。……それに」
「それに?」
「今回は違う女神様にも会うんでしょう?だから尚更かな」
「あー、うん。……ちゃんと会ってもらえるかが、一番の問題だけどね」
そうなのだ。問題はセイレーヌより、もう一人の女神カトリーナの方だ。
初めて会う上に、色々なお願いをする予定なのだから。
しかし、カトリーナに会えない事には話が進まないので、どうにかするつもりだが……。
「因みに彼方はどこまで話を聞いているの?」
「多分一通り全部だと思う。ラーゴさんの呪いの件も聞いているよ」
彼方は口元に指を一本当てながら首を少しだけ傾げた。
お兄様が彼方にちゃんと説明してくれたらしい。
――それなら話は早いし、凄く心強い。
「彼方、頼りにするからね!」
「うん!頑張るからたくさん頼ってね!」
ニコッと笑うと彼方がとても嬉しそうに笑った。
……ええと?
「どうしてそんなに嬉しそうなの?」
「私が力になれる事が嬉しいの。シャルはいつも一人で何でも背負い込んじゃうから。頼ってもらえるって事は、少しでも信頼されたのかなって」
「え!?彼方の事は信頼しているよ!?」
「ふふっ。シャルが私の事を信用してくれているのは分かってるよ。そうじゃなくて――安心して任せられる位に、私自身が成長出来たのかな、って」
「彼方……」
――
だから可愛気がないと思われて捨てられた訳だけど……これは素直に甘える事が出来なかった私が悪い。
「ごめん。これからはもっともっとみんなに頼る事にするから!」
私は彼方の両手を包み込みながらギュッと握った。
「うん」
一瞬だけキョトンとした彼方の顔が、ふにゃりと崩れた。
「……っ!!」
この柔らかく蕩けた可愛い笑顔……!これがクリス様だけのものだなんて……!
「シ、シャル!?」
私は困惑の声を上げる彼方に構わずに、真っ直ぐでサラサラな髪を撫でながら彼方を抱き締めた。
――彼方は変わった。
元の世界での辛かった日々……それを引き起こした原因のシモーネと対峙した事で、
彼方はとても強くなった。
彼方の根底にあった優しさと純粋さ、そして明るさ。そこに新たに強さが加わった彼方は、この世界の立派な聖女であると言える。
今まで私が誰かに頼る事が出来なかったのは、自分では対処しきれないと思われたくなかったから。『私は大丈夫』だと――虚勢を張る為だった。
……でも、この世界ではソレはもう必要ない。
そう思わせてくれたのは、私の大切なルーカスお兄様。
お兄様は私が必死で張り続けていた虚勢をゆっくりと優しく溶かしてくれた。
そして、大好きなリカルド様や、大切な沢山の仲間達が支えてくれている。
シャルロッテに転生した今の私には、家族以外にも沢山の頼れる仲間がいる。
『私は決して一人じゃない』。
……それなのに目の前の事でいっぱいいっぱいになると、つい忘れてしまう。
ダメだな、私。まだまだ、だ。
「忘れたとしても、何度だって思い出せば良いじゃない。そしたら『お馬鹿さん』なシャルロッテでもその内に覚えられるんじゃなーい?」
「……金糸雀?」
サイの頭の上から飛び立った金糸雀は、そのまま私の頭の上にとまった。
「そうだよ。その為に私達がいるんだもん」
彼方がギュッと抱き付いてきた。
「彼方……。金糸雀もありがとう。って……私の感情は相変わらずバレバレ!?」
何でそんなに分かり易いかな……。
真っ赤になった顔を両手で覆うと、さっきまで私が彼方にしていた様に、今度は彼方に髪を撫でられた。
「我らの主はそのままで良いのだ」
「そうね」
「そうそう!」
そのままで良いと言われるとまた複雑な気分が……。
「…………で、行くのか?行かないのか?」
私達の中に混じれないでいたクラウンが、そっぽを向きながら拗ねた様な声で聞いてきた。
「あ、ごめん。クラウンの存在をすっかり忘れてた」
「そんなの、いっつもだよ!!」
相変わらず、空気を読まないヤツ……と思うが、拗ねた顔のクラウンがほんの少しだけ可愛いとも思えた。
「……何だよ。そんな生温かい様な顔して。……気持ち悪い」
――前言撤回。クラウンは全然か・わ・い・く・な・い!!
「帰って来たら覚えておいてね?」
「……ひいっ!!」
殺気を混じらせながら満面の笑みを浮かべると、クラウンがその場で飛び上がった。
「全く……。アレはもう弟妹喧嘩よね」
「こんな弟はいらない!」
「はあ!?俺もこんな妹なんかいらねーし!」
「あはは。何だかんだで仲良しみたいだね」
「「仲良しじゃない!」」
「ふむ。仲良き事は良い事だ。主と息子よ」
「「ちがーう!!」」
私とクラウンの叫び声と、金糸雀達の笑い声が部屋の中に木霊した。
***
「さて、じゃあ今度こそ行きますか」
「うん!」
私と彼方は固く手を繋いだ。
「まずはセイレーヌの所へ!」
そして、彼方と一緒に鏡の中に勢いよく飛び込んだ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。