神を起こす方法⑧

グラスにの中にお酒を注ぐと……なんとも言い難い香りがした。

芳醇なフルーツの様な……炊きたてのご飯の様な……不思議な香りだ。


その香がフワッと漂った瞬間。


眠っているはずの神アーロンの指が、ピクリと動いた。


「アーロン!?」

セイレーヌが慌ててアーロンの元に駆け寄った。


これは……いけるかもしれない。

香りだけで反応をしてくれるとは……。


私は小さくガッツポーズを作った。


後は……っと。

私はお酒が注がれたグラスに向かって右手を翳した。


その昔。

私はキレイなお水を使って、超高性能な聖水やハイポーションを作り出した。

……そう。ただのキレイな水を使用しただけで、信じられない物が出来たのだ。

チートさん素敵!! 愛してる!


……コホン。

えーと、そこから浮かんだのは、その進化的発想だ。

から凄い物が出来たのだから、完成された逸品に薬品系のチート力を付与したら……?

そしたら、力を使い果たしかけている神をも起こせる代物が出来るのではないだろうか?……と、私は考えた。


この考えが浮かんだ時点での成功確率は三割程度と想定していた。

そこに……酒精の加護が付いた事で、事態は私達に有利に働いている。

今が絶好の好機だ。


この時を絶対に逃すわけにはいかない。次が……あるのかも正直分からないしね。


私は、翳した右手にグッと力を込めた。


『聖水』、『万能薬』に『毛生え薬』……って、これは余計だったかもしれない(汗)

でも、ま、まあ……効果も髪も多いに越した事は無いよね!?


自己完結しながら、思い付く全ての魔術をお酒に向かって込めていく。


そうした後……。最後に込めるのは……『』だ。


私は、セイレーヌの愛し子の『赤い星の贈り人』であり、アーロンによってこの世界で命を与えられた者だ。

そんな私が一番、二人の力に近いのだそうだ。


私だからこそ、自らの中に溢れるチートの一部をアーロンに戻す事が出来る。


本当はこの力をアーロンに全て渡そうとも思った。

チートが無くなるのは不便だが、この世界の神の存続に比べたら取るに足らないものだから。

しかし、それはセイレーヌによって断られてしまった。


『親は子の幸せをいつでも一番に願っている。我が子の力を奪ったり、負担になる道は選びたくない。……きっとアーロンはそう言うはずよ』って。


……その子供の立場から言わせてもらえば、目覚めた親がまた直ぐに倒れて消えてしまう姿なんて見たくない。のんびりと幸せに過ごして欲しいと願うじゃないか。


私の考えを伝えると、セイレーヌは瞳を見開いた。

『そんな事は考えた事もない』表情が全てを物語っていた。


本来の神は、与え、慈しむ者であり……見返りを求めない存在なのだろう。

まあ、違う奴もいたけど。


親が子を思う気持ちと同じく、子も親を思っているのだ。


……というやり取りがありーので、私のチートさんの三割程度をアーロンに渡す事に決まったのだ。


私の力の三割……三割………………。

頭の中で自分の力を切り取るイメージを練る。


三割って……三十パーセントだから……。

三十パーセントの商品の計算方法は、商品の値段×0.7で計算をすると、三十パーセント引きの値段が分かるんだよ!って…………脱線した。


私のチートさんの値段はプライスレスだ! 計算など出来ぬ!!



ふと、私の背中の方から刺すような視線を感じた。


こ、この視線は……!ま、魔王様おにいさまがこちらを見ている……!

……す、すみません!お兄様!!今すぐに集中します……!!


気を引き締めた私は、スーッと深く息を吸い込んでから瞳を閉じた。


すると、フッと……誰かの手が私の手に重なった。


「和泉さん。私の力も使って」

彼方の声がすぐ側から聞こえて来た。


「……彼方?」


瞳を開けると、にこやかに微笑む彼方の顔が見えた。


「私の力は和泉さんみたいに多くはないけど……」

「んーん!ありがとう!彼方がこうして手伝ってくれるだけで嬉しい」

私は、ギュッと彼方の手を握った。

その状態でまた力を込めると、私の赤色の力に彼方の白色の力が加わり…………キレイなピンク色に混じり合った。


「アーロンが無事に目覚めますように……」

そう呟くと……グラスの中に入っていたお酒が光り出した。


「……っ!?」

眩しさに瞳を細めながらも、微かに見えたのは次々に虹色の配色に変化していくグラスの中のお酒だった。

そこから一際の眩しさを放った後…………


「……完成……したの?」

「うん……多分」

光が一瞬で立ち消えた。


残されたのは…………金粉入りの……純米酒?


お正月時期に良く見た事のあるお酒へと変化をしていた。

キラキラと輝く金粉がキレイだ。


最後はこのお酒を飲ませるだけなのだが…………




『眠っている人にどうやってお酒を飲ませるか』

こんな単純な問題をすっかりサッパリ忘れていた……。


「ノーーーーーー!!!」

私は頭を抱えながら叫んだ。

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