とある昼下がり (番外編)

「リカルド様、こっちです!」


久し振りに学院で会う事が出来たリカルド様を裏山の茂みに引っ張り込む。

現在、なかなか会えない恋人とのデート中である。


『不審者か!!』と、突っ込みたくなる程に、キョロキョロと挙動不審な行動をする私を気にする事なく、リカルド様はずっとニコニコしている。

左右に振れるリカルド様の尻尾の様子から、私と同じ気持ちでいてくれる事が分かり、嬉しい気持ちになる。


えへへっ。

二人でこうして寄り添いながら、他愛もない会話をしているだけなのに幸せを感じる。


「リカルド様、大好きです!」

「うん。僕も大好きだよ。」


顔を赤らめながらハニかむリカルド様。


…くわぁぁぁぁ!!


激写したい!!

今の照れ顔を激写して家宝にするのだ!!

両手で顔面を押さえ、ゴロゴロとのたうち回っている。内心で。


流石にリカルド様の前でそんな醜態は見せられない。


それに、そんな事していたらに見つかってしまう。

何の為にこんな所に隠れてデートをしているか。

兄様魔王に見つかりたくないからだ。


って…あれ?ルビが逆だった?


まあ、どちらでも同じ事だ!!うん。


毎回、毎回、毎回、毎回、毎回…。

発信器が付けられているんじゃないかと疑うレベルで、必ずどこにでも現れるのだ。


神出鬼没なお兄様のせいで、何度、リカルド様との貴重なデートの時間を邪魔されて来た事か…。


今日こそは邪魔させない!(キリッ)


「あ、そうだ。そろそろお昼ご飯食べましょうか!」


異空間収納バッグの中から食べ物を出しては、次々に並べて行く。

今日は朝から張り切って色々と用意したのだ。


リカルド様が好きな焼いた、甘辛く焼いたお肉と野菜が沢山挟んであるサンドイッチや、卵がたっぷりのサンドイッチ、フルーツサンド。その他にもチョコケーキ、ドライフルーツ。シーラのジュースに、紅茶も用意してある。



「いただきます。」

目を瞑り、軽く手を合わせる。


「リカルド様。どれを食べたいですか?」


「んー。シャルロッテが作る物は何でも美味しいから迷うな。」


リカルド様は瞳を細め、ニコニコしながら並べられた食べ物を眺めている。


「オススメはサンドイッチですよ。」


「じゃあ、それを貰おうかな。」

「かしこまりました!」


リカルド様用のお皿の上にお肉の挟んだサンドイッチを乗せる。

サンドイッチを受け取ったリカルド様は、直ぐにそれを頬張って…


「うん。やっぱりシャルロッテが作った物は美味しい。」

蕩ける様な笑顔を浮かべた。


ふふふふふっ。

早起きなんて全然苦にならない!!

全てはこの笑顔の瞬間の為に頑張ったのだ!


「良かったです。」

にまにましながら、卵入りのサンドイッチを頬張る。


「本当に美味しいよ。」

「ありがとうござます。」


見つめ合いながら微笑む私達。

幸せだ……。


「あ、そうだ。このフルーツサンドなんですが、生クリームにシーラのジュースを混ぜてあるんですよ!」


ふわっと林檎の様な風味がして、なかなかに美味しいのだ。


「へえ…。じゃあ、食べさせて?」


一瞬だけ瞳を丸くしたリカルド様は、直ぐに蕩ける様な笑みを浮かべ、コテンと首を傾げた。


くうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!

はい!おねだり頂戴しましたっ!!


速攻で陥落した私は、ドキドキしながらフルーツサンドをリカルド様の口元に運ぶ。


サンドイッチの半分を一気に咀嚼したリカルド様は、自らの口の端に付いていたクリームをペロッと舐めた。


「うん。シーラの風味が効いてて美味しい。」


最近のリカルド様は何かと色っぽいのだ…。

目の毒?!いえ、眼福ですっ!!


照れたり、恥ずかしかったりはするけど、大好きな人のこんな姿…。

悶えるに決まってるじゃないかっ!!!



「ほら、シャルロッテも食べないと。」


リカルド様は、私が持ったままだったリカルド様の食べかけのフルーツサンドをさり気無く奪うと、そのまま私の口元に運んで来た。


『あーん』ですか?!

間接サンドイッチですか!!


しかも…そんなに見つめられると恥ずかしい。


リカルド様からのダブル攻撃に怯みそうになるものの、いつまでも待たせる訳にはいかない。

覚悟を決めた私は、ギュッと目を瞑り、真っ赤な顔でおずおずと口を開いた。



しかし…。


いつまで経っても口の中に、甘いフルーツサンドが入って来ない。


あれ??


そっと目を開けると…。


「お兄様?!」


私とリカルド様の間には、大魔王お兄様がいた。

モグモグと動くお兄様の口を見るからに、リカルド様が食べさせてくれようとしていたサンドイッチは、お兄様の口の中にinした様だ。


そんなお兄様をリカルド様は苦笑いしながら見ている。


間接サンドイッチ!!…って違う。


「ここで何をしてるんですか!?」

「ん?僕が来たら駄目だった?」


首を傾げたながら瞳を細めるお兄様。


駄目に決まってるでしょうが!!


「どうして、毎回、毎回、毎回!!私とリカルド様のデートを邪魔するんですか!」


「え…邪魔だなんて…。悲しいな…シャルロッテにそんな風に思われていたなんて…。」


眉を寄せ、シュンと肩を落とすお兄様。


うっ…。

演技だと分かっている筈なのに、罪悪感から胸がギュッと締め付けられる。


騙されないんだから!!


「そんな顔したって駄目です!」


「『そんな顔』ってどんな顔かな?」

スーッと細められる瞳。


あ、まずい。

何か変なスイッチを押したらしい…。


何がスイッチになるか分からないから、お兄様は面倒くさ…。


「シャルロッテ?『面倒くさい』って顔に…」

「いえ!お兄様も一緒に食べましょうか!」

このまま話に付き合ってたら、とんでもない事になる。長年の私の経験だ。

逃げるが勝ちだ!!


「主よ。我らも一緒に昼を食べても良いのか?」


黒猫のサイが足元にすり寄って来る。


「え?どうしてサイ達が…って皆、いつからいたの…?」


「始めからよ。私達ずっと見てたもの。」

金糸雀が私の肩にとまる。


…なんだって?!


「…リカルド様は気付いてましたか?」

「うん。匂いでね。」


「…何で言ってくれなかったのですか?」

「言ってもこうなるからかな。」

苦笑いを浮かべるリカルド様。


それはそうだけど!!


「僕達の目を誤魔化そうなんて百年早いよ。」

ニッコリ微笑むお兄様。



…一生勝てる気がしない。


ガックリと肩を落とす私に向かって、ちょいちょいとリカルド様が手招きをして来る。


私は先程の八つ当たりで、真ん中にいるお兄様をわざと押し退けて、リカルド様の方へ顔を寄せた。


すると…。

蜜月期ハネムーンだけは絶対に邪魔させたりしないから安心して?」

「……っ!!!」


耳元で囁かれるリカルド様の甘い誘惑に腰が砕けそうになる。


…み、蜜月期って!

あ、あのですか?!


「何、内緒話してるの?」

耳を押さえ真っ赤になる私の前に、お兄様が無理矢理入って来る。


「内緒。ルーカスには絶対教えない。」

滅多にない意地悪そうなリカルド様の顔。


「ふーん?」

含みのある笑みを浮かべるお兄様。


「ていうかさ、僕達が見てるの分かってて、アレってどうなの?」

「うん?駄目かな?」


バチバチと見えない筈の火花が見えそうな気がする。


「シャルロッテと僕は婚約してるんだから問題ないだろう??」


「……ふふ。面白い。絶対に邪魔してやるからね。」


「出来るものならどうぞ?」


「ククククッ。」

「あはははっ。」


うん。

何だかよく分からないけど、二人は仲良しだ!!(無理矢理)


現実逃避した私は、サイと金糸雀の三人で仲良くお昼を食べましたとさ。

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