さあ、最期の時間です④
瓶の中でピクピクと痙攣を繰り返すシモーネや神①~④の姿に、第一回目の追体験が終了をした事を悟った。
因みに、最後に出てくる白いワンピースの女性は《呪い》《恐怖》と言えばで、お馴染みの貞○さんを意識した。
ここでは敢えて和泉子さんとでも呼ぼう。
和泉子さんは白いワンピースに、長く伸びた長い黒い髪、青白い手足。何よりの特徴は顔が無い所だ。
和泉子さんと目(?)が合うと、真っ暗なブラックホールの様な底無しの顔に吸い込まれてしまうのだ。その先は…ふふふっ…。
なーんて。水洗トイレよろしくグルグル水に巻き込まれて、振り出しに戻るだけだ。
ここまでホラー仕様にしたのは、生前の私が恨みを持つ暇もなく、気付かない内にあっさり死んでしまったからだ。生まれ変わった後の感情は別として。その為に追体験として味会わせるには自分で言うのも難だが…軽い。なので、敢えてトラウマ仕様になる様に、最後だけリアルな恐怖を与える仕様にしてみたのだ。
彼方の追体験とトラウマ和泉子さんを交互に何度も繰り返す内に、彼方の追体験時に背後に常に和泉子さんの存在を感じる様になるオプション付き!
因みに、彼方の過去の記憶を使う事は、きちんと彼方には許可を取ってあるから心配は無い。
このままシモーネ達の長時間追体験ループを待っているのは勿体ないので、セイレーヌに百年分程、二つの瓶の時間を早送りして貰う。その間、五分。
その後、瓶を逆さまにし、乱暴に揺らしながら中からシモーネ達を取り出す。
黒い髪に、黒い髭だったシモーネは、ギラギラとして気持ち悪い程だった野心が見る影もない。髪も髭も真っ白になり、生気の抜けた様な顔で放心している。
それは他の神も同じだ。皆一様に髪が白く変わり、げっそりとやつれ、中には涙を流しながらブツブツと呟き続ける者もいる。
すると暫くの間、ボーッと上を見ながら呆けていたシモーネだが、ゆっくりと視線を巡らせ始め、そして私を見つけた。
瞬時に見開かれる瞳。
「……っ!!シャル…ロッテ!!!!!」
大きく見開かれた血走った瞳からは、憎悪をひしひしと感じた。ギリギリと歯ぎしりをしながらこちらを睨み付け、今にも掴み掛かって来そうだが、弱った身体では思う様に上手く立ち上がる事が出来ないらしい。
私はそんなシモーネに向かって、瞳を細めながら口元を歪ませる。
「あら、シモーネ様。ごきげんよう?私からの余興は楽しんで頂けましたでしょうか?」
皮肉と嘲りを込めた悪役令嬢たるシャルロッテが得意だった本来の笑みを向ける。
「なっ…!!!ふざけるな!!」
怒りでカッと顔を赤く染めたシモーネは、その場に座り込んだ状態のままで罵声を上げた。
そんなシモーネから庇おうとする様に、リカルド様とお兄様が私の前に立つが、私はそんな二人の肩をやんわりと左右に押して、間から前に歩み出る。
「ふざけてませんけど?」
「ふざけているだろうが!!お前にどんな権利があって、この俺にこんな事を!!」
「『権利』?それなら充分にありますけど何か?」
「は……?」
顔を引きつらせるシモーネに、笑顔を返しながら、一歩、一歩と近付いて行く。
「まだ分かりませんか?……白いワンピースの女。あれ私なんですけど?」
意味が分からないと、ポカンと口を開けたままのシモーネ。
その顔が間抜け過ぎて…おかしくて堪らない。
そうして動けないシモーネの前に立ち、横から顔を覗き込む様に身体を曲げ、耳元で囁く。
「『どうして私を殺したの?』」
「ひぃい!!!」
ドンッ!
シモーネが私の身体を両手で思い切り押した。しかし、私の身体はビクリともしない。
予め《完全防御》をかけていた私には、シモーネの細やかな抵抗なんて、吹き抜ける風よりも弱い。
その時、それまで影に控えていた彼方がスッと私の横に並んだ。
「…お前が…」
ボソッと呟く彼方は、私が想像していた通りに…とても思い詰めた顔をしていた。
「お前は……!!!?」
彼方に気付いたシモーネの顔色が、真っ白を通り越した土気色の様な色になる。
まあ、これで彼方に気付かない位なら更に千年分の追体験の追加だった。良かったね。気付いて。トラウマ効果に感謝しなさい。
「お前のせいで…お前が作った傀儡のせいで!私の人生は……!私の家族は!!!」
彼方はシモーネを睨み付け、心の底から絞り出す様な声で言った。
「はぁ?意味が分からんな。」
顔色は青いが悪びれもせずにシモーネは言う。
…殴りたい。でも我慢だ。
今は彼方が感情を吐き出すべき所だから…。
私を含めた全員が彼方を見守る。
止めに入るのはもう少し後だ。
「…あんなに簡単に人の人生を弄んでおいて…。意味が分からない?ふざけるな!」
「いや、ちょっと待て。……傀儡?」
シモーネは考える素振りをする。
「存在しないはずの私の兄を捏造し、事件を起こさせた。お前は自慢気に何度も何度も…何度も!!和泉さんの前でも私の前でも語ってみせたじゃない!!」
シモーネの神殿に連れて来られた私と一緒に、実は彼方も何度か変装をした状態で来た事があるのだ。
彼方も今日の日の為にひたすら我慢をし続けて来た。
「ま……まさか!お前は…あの時の家族の娘なのか!?」
感情の堰が切れた彼方は、ボロボロと涙を溢れさせながらシモーネを睨み付ける。
「強者は弱者を苦しめても良いの?神はそんなに偉いの?神なら何をしても許されるの?私達は人形なんかじゃない!!感情がある人間だ!!神だから…許されるなんて…私は絶対に認めない!」
「悪かった!!俺はお前だなんて知らなかったんだ! 」
己の劣勢を悟ったシモーネは、即座に頭を下げ謝罪をしようとする。
「いらない!私は謝罪なんて求めてない!絶対に許さない!!許さない!許さない…!私がお前を殺してやる!!」
ギュッと両手を握り締めながら彼方は叫んだ。今まで我慢していた思いを吐き出す様に…。
殺意を込めた瞳で、ユラリと歩き出す彼方を私は抱き締めた。
「彼方…。もう良いから。」
「…和泉さん。どうして止めるの?」
彼方は私の腕を振りほどこうと抵抗する。
「そうだ!もう許してくれ!」
「お前は黙れ。」
私はシモーネを睨み付けた。
『ヒッ』と小さな叫びを上げシモーネは口をつぐんだ。
「彼方にそんな事はさせない。こいつに殺す価値なんてないんだよ。」
抱き締める腕にギュッと力を込める。
「大丈夫。私に任せて。…ね?」
私は彼方をギュッと抱き締めた。
「…っ!うわぁーーーん!!」
声を枯らして泣き続ける彼方の頭を何度も撫でる。
「逃がさないよ?」
視界の隅でシモーネが四つん這いになりながら逃げようとしているのが見える。
…こんなに状況で逃げようとするとは…
馬鹿なの?
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