ルーカスの独り言。
現在、『彼方を太らせよう』作戦の最中である。
円卓には、異世界から召喚された聖女の【常磐 彼方】と、この国の王太子【クリストファー・ヘヴン】。そして、未来の宰相候補の僕【ルーカス・アヴィ】が同席している。
この作戦の発案者はクリスである。
痩せ過ぎの聖女様を心配したクリスが、『彼女を標準体型に戻してあげよう』と、始めた事なのだが…正直言って僕には全く興味が無い。
しかも今は、僕の愛しい妹の『シャルロッテ・アヴィ』が、突然現れた女神に連れ去られた後であるから尚更だ。
我が妹ながら、次から次によく巻き込まれる事だ……。
聖女様もシャルロッテの事が心配らしく、クリスの前だというのにも関わらず、珍しく溜め息を漏らしている。
それもその筈だろう。
聖女は、シャルロッテの前世である和泉の関係者であり、シャルロッテを姉の様に慕っているのだから…。
クリスなりに色々と気を使ってるのかもしれないが、今回の作戦は単純にタイミングが悪かった。
僕は、聖女様がクリスに対して好意を寄せている事に、初めから気付いていた。
こんな時でもなければ、彼女のクリスへの好感度は更に上昇しただろうにも。
「彼方。これも美味しいぞ?」
クリスが、彼方に肉の塊を進める。
んー…。
クリスは見た目の繊細さとは違い、意外と肉食系である。
食の細い女子に勧める物ではないだろう。先ずは、栄養価の高い果物から始めれば良いのに……。
しかし、聖女様はクリスの好意に応えるべく、勧められた物は必ず食べている。
いじらしいというか…なんというか…。
クリスはクリスで、聖女様に対してそれなりに好意は持っている筈だ。
それが妹扱いなのか、異性扱いなのかは…微妙な所だ。クリスはずっと前から【妹】に憧れていたからね。
まあ、そこは聖女様に頑張って欲しいと思う。僕は手伝わないけど、シャルロッテは放って置かないだろうから何とかなるでしょ。きっと。
シャルロッテ…か。
こうしている間に…シャルロッテがとんでもない事に首を突っ込んでいる気がする。
それは予感ではなく確信だ。
相変わらず、退屈しない僕の妹だ。
さて、どんな厄介事を抱えて戻ってくるのか…。
思わずクスッと笑うと、クリスと聖女様がこちらを不思議そうに見ていた。
「…どうした?ルーカス。」
「何でもないよ?」
ニコッと笑い返す。
「……そうか?」
すると、二人は首を傾げながらもまた会食を始めた。
「彼方、これはどうだ?」
クリスは串に刺さった肉団子を勧めはじめる。
…いや、だからさ。
それも美味しいとは思うけど、そろそろケーキとかアイスクリームとか勧めて…
うん。アイスクリームは良いね。
聖女様をアイスクリームの世界に取り込んでしまおうか。
聖女様からしたら珍しくない物かもしれないけど、シャルロッテが作り出して、僕が極めた物だから、きっと聖女様も好きになってくれる筈だ。
それに、まだシャルロッテが帰ってくるまでには、時間があるだろうから…ね。
僕はニヤリと笑って席を立った。
その手に至高のアイスクリームを持って戻って来る為に……。
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