揺れる想い①

最後にリカルド様に会ってから、間もなく一ヶ月が経とうとしている。


リカルド様は別れ際に、


「また直ぐに君に会いに来るから。」

そう言って私を抱き締めてくれ…。


「余所見しちゃ駄目だから…ね?約束。」

と、頬にキスをくれた。


きゃー!!

何度、思い出しても軽く気絶出来る。


これって、両思い…なんだよね?

きちんと想いを告げられた訳では無いし、私もハッキリとは告げていないけど…。

『違う』って言われたら気絶するね。確実に。

もしも、リカルド様に『好きだ』って言われたら凄く嬉しい。天にだって昇っちゃうかもしれない。いや、本当に。


だけど…応えて良いのか?…と、拭えない不安がまだ残っている。


【スタンピード】

これを確実に回避出来なければ…例え、リカルド様が側に居てくれても、私の幸せはやって来ないと思う。


明後日からはまた、ダンジョン探索に行く予定だ。

ダンジョンの探索も後、地下二階分で終わる予定だ。

これで本当にダンジョンを全階攻略出来るのか、それとももっと下があるのか…今はまだ分からない。

ダンジョンを攻略すれば、スタンピードが起こらなくなると言う確証も、得られてないのが現状なのだから…。


一人きりの時は、この先の見えない不安に潰されそうにもなる。だけど、ここを乗り切れば『未来』が見える。そう自分を奮い立たせる。


はあ…。

色々な事を考えていたら、リカルド様に無性に会いたくなってきた。

またお耳と尻尾をモフモフしたい…。


それに、リカルド様の匂いはシーラみたいな良い匂いがして、とても癒された。

あの匂いは、アーカー領で作られているシーラの石鹸なのだろう。

リカルド様と同じ匂いになれる石鹸なら私も欲しい。


ふむ…。

シーラの石鹸…。シーラ…、シーラ。


そうだ!良い事を思い付いた。

石鹸は今直ぐに手に入らないから、シーラを使ってアレを作ろう!



私は早速、自室のソファーセットのテーブルの上に道具を広げた。


用意するのはシーラの原液と、和泉の世界で言う所の【白色ワセリン】と言われる物だ。


この世界にも、白色ワセリンに似た物があり、日頃の保湿等のスキンケアには欠かせない大事な物なのだ。

私の様な子供は、刺激の少ない自然な物を使用し、お母様達の様な大人の女性達は、香りや美肌効果がプラスされた様な物を使用するのが一般的だ。その他のスキンケアとして、化粧水の様な物もきちんとある。


今回、用意したのは子供が良く使う方のタイプの刺激のすくない【ナーナ】と言う物だ。


先ず、シーラの原液を小さな容器に注ぎ入れる。

それを私のチートさんによって、更に濃縮させるのだ。

別の丸い蓋付きの容器に、ナーナを適量取り入れ、濃縮されたシーラを小さなヘラで、ナーナに少しずつ混ぜながら練り込んで行く。


これで、あっという間に【練り香水】の完成である。


早速、完成した練り香水を少量、指先に取り耳の後ろと手首に塗り付けた。

香水とは違い、ふんわりと優しいシーラの香りが辺りを漂う。



私は、ソファーに深く腰を掛けて目を瞑った。


うん。リカルド様に包まれている様な感じがする。


…変態じゃないよ?

恋する乙女です!!ドヤァ。




トントン。

部屋の扉がノックされた。


「はい。どうぞ。」

返事をすると、

「シャルロッテ様。失礼します。」

入って来たのはマリアンナだった。


「あら。良い匂いですね。」


マリアンナは部屋の中をキョロキョロと見回す。


「うん。【練り香水】を作ったの。」


「練り香水ですか?普通の物より優しい匂いで、シャルロッテ様に合ってますね。」

微笑むマリアンナ。


「ありがとう。それでどうしたの?」


私が首を傾げると、用事を思い出したマリアンナは慌てながら言う。


「あ、そうでした!リカルド・アーカー様がお見えになってます。」


リカルド様だと?!


「…本当?」

会いたいと思ってるタイミングで、本人が訪ねて来てくれるなんて…どんな奇跡だろう。


「はい。リカルド様のご希望で、玄関ホールにてお待ちです。シャルロッテ様も早くご用意下さい。」


マリアンナはパチッと片目を瞑り、ウインクする。


「うん!手伝って!!」

急いでドレッサーの前に移動をする。


今日は淡いピンク色のワンピースを着ている。服装はこれで大丈夫かな?

鏡に写して、シワ等が無いか確認をする。

大丈夫であれば、後はマリアンナに髪型を整えて貰うだけだ。


ドレッサーの前に座れば、マリアンナが手慣れた手つきで、ササッと髪を結ってくれる。

今日は、淡いピンク色のワンピースに合わせた清楚系の髪型をイメージしたのか、緩い三つ編みのおさげになっている。


「どうですか?」

マリアンナに渡された手鏡で確認をする。


おお、ゆるふわな三つ編みだと、何となくつり目が柔らかく見える気がする。

アクセントとして、ピンクの花や蝶を型どった飾りが付いているのが可愛い。


「うん、可愛くしてくれてありがとう!」

マリアンナにお礼を言い、返事も聞かずにパタパタと忙しくも部屋を駆け出した。


淑女たる者、どんな時でも走ってはいけない。

そんな事は百も承知だ。


だけどそんな事、構っていられない!

だって、大好きなリカルド様が待っているんだもん!

一秒だって惜しい。こんな時は、無駄に広いアヴィ家が恨めしい…。



玄関ホールへと伸びる螺旋階段に辿り着くと、私の足音に気付いていたのか、シルバーグレーの髪に、透き通る様なブルーグレーの瞳が、こちらを見上げていた。


「こんにちは。シャルロッテ。」

にこやかに微笑むリカルド様。


「リカルド様!お待たせしました。」

急いで階段を降り始めると、リカルド様は途中まで階段に上り、そこから腕を伸ばしリードしてくれた。


この然り気無い紳士さ…。

格好良すぎだ!!


「突然訪ねて…ごめんね?」


悪戯っ子の様な笑みを浮かべるリカルド様の顔。私の胸は早くもキュンと鳴る。


「いえ。リカルド様ならいつでも大歓迎です。」


「そう?それなら良かった。」


爽やかな笑顔の尊い……。

リカルド様か大好きだ。



「一ヶ月振りですね?」


はにかみながら尋ねると、リカルド様は困った様に笑った。


「……どうかしましたか?」


何でそんなに微妙な顔をしてるんだろう…。

私は小さく首を傾げた。


「うん。一ヶ月会わなかっただけで、こんなに可愛くなったら、これからどんなに綺麗になるんだろうって思ったんだ。」


リカルド様はそう言う。


ちょ…ちょっ…と!!

リカルド様に『可愛い』とか『綺麗』とか言われたら…!


「……っ!!」

ボンッと音を立てたんじゃないかと言う位の勢いで、私の顔は真っ赤に染まった。


もう…。何でサラッとそう言う事を…。

私は真っ赤な顔を両手で押さえた。

ここで悶絶しながら、のたうち回らないだけ褒めて欲しい。


はぁ…。冷静になれ…冷静になるんだ。私。


「…ありがとうございます。リカルド様もまた背が伸びたのではないですか?前よりもっと格好良くなられてます。」


まだ熱を持ったままの頬を押さえながら、上目遣いにリカルド様を見る。


「ありがとう。うん。少しだけ伸びたんだ。」

リカルド様は嬉しそうにはにかんだ。


「そろそろ。移動しようか。」

リカルド様が手を差し出して来る。


て、手を繋いで行くんですか!?


「嫌?」


嫌な訳が無い。

私はブンブンと首を左右に振り、リカルド様の大きな手に自分の手を重ねた。

嬉しそうに微笑んだリカルド様に、ギュッと握られる私の手…。


私は今日、キュン死するかもしれない…。

そう思う位にキュンキュンしっ放しだ。


そうして、リカルド様に手を引かれ、庭園へと向かった。












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