ダンジョン③の1

さてさて、本日は、ダンジョン地下八階に居る【幻幽げんゆう】対策の為に色々な装備やら道具を揃えてのリベンジとなりました。


本日の参加者は、お義父様率いる【リア】のメンバーと、私とお兄様。久し振りのクリス様と、公には初参加のミラである。

コッソリ私達の後を付けてダンジョンに潜っていたミラなので、まあ大丈夫だろうという判断だ。

まあ、強い大人達もいるしね。


本日、嬉しい事にハワードは騎士団の遠征参加の為に不在だ。今、あの暑苦しい男には会いたくない。


私とお兄様に振り回され続けた事で、何かが吹っ切れたのか、最近のミラは自分を隠す事を止めた。

どうでも良くなった感を感じなくもない…。

良いのか?…まあ、良いだろう。


初対面のミラはクリス様や【リア】のメンバー達に挨拶をする。それが終わった所で、私達一行はダンジョン地下八階を目指し進み始めた。


先ずは、地下一階に降りる。そこから転移をして地下七階の出口に向かうのだ。



「クリス様、お久し振りです。お元気でしたか?」


歩きながらクリス様に話し掛ける。


久し振りに見たクリス様は、ニコニコと機嫌が良さそうだ。


「ああ。シャルも元気そうだな。噂は色々とルーカスに聞いているぞ。」


「…噂ですか?」


「ミラの髪を無理矢理切ったとか、リカルドにキ…もがっ」


不敬だと分かっているが、クリス様の口を塞いだ。


「お兄様…?」


キッとお兄様を睨むが、本人は涼しい顔をしている。


「シャルロッテ。クリス様の息が止まりそうだよ?」


ハッと押さえていた手元を見れば、クリス様の顔が青白く変色してしまっていた。

何処と無く目は虚ろである。


マズイ!


慌てて、クリス様の口元を押さえていた手を外す。


…王太子を殺す所だった。


「ク、クリス様!すみません!!」


「…い、いや…大丈夫だ。私こそすまない。あれは言っては駄目なんだな。」


クリス様は手をヒラヒラと動かし、謝罪を受け入れてくれたが、その顔はまだ青白い。


クリス様は許してくれたけど…【王太子殺人未遂】。

首斬り処刑まっしぐらではないか!!


私はコッソリと忍ばせていた、一本の瓶を取り出した。


「クリス様これを…!」


「ん?飲めば良いのか?」


クリス様は、私が渡した瓶の蓋を開けて、中身を一気に煽った。


……。

自分で渡しておいて何だけど…クリス様は全く警戒もせずに飲んだのだ。

私が悪い人だったら、簡単に殺せるだろう。


信用されてるのだと思えば、少し嬉しくなった。


「シャル!これは美味しいぞ!」


パァーっと明るい笑顔になったクリス様の顔色は、先程までの青白い顔とは異なり、本来の血色の良さを取り戻していた。


「しかも、昨日まであった筋肉痛や溜まっていた疲労感が全く無くなったぞ!!」


おお。それは何より。


「それは良かったです。」


私はクリス様ににこりと笑い掛けた。


これで不敬罪は回避だ!!


「ミラ…行くよ?」

「了解。」


私の後ろを歩くお兄様とミラの声が聞こえたなーと思った、瞬間。



「…なっ!?お、お兄様!?」


私は、いきなり背後からお兄様に羽交い締めにされた。

力強い腕に固定され、身動きが全く取れない。


「ど、どうした?ルーカス?」


私の前でアワアワと慌てるクリス様。


「ミラ。ポケットの中を探って。」


お兄様はそれを無視して、ミラに指示を出す


指示されたミラは黙々と私のスカートのポケットを探る。


「あった!」


ミラが私のスカートのポケットから見つけたのは四本の小瓶だ。瓶の形は四本がそれぞれ違うが、一本だけはクリス様に渡した瓶と同じだった。

瓶の中には液体がそれぞれ入っている。


しまった…。

サーっと血の気が引いて行くのが分かる。


「シャルロッテ…これは何かなぁ?」

耳元で聞こえる悪魔ルーカスの囁き。


私は唇をギュッと噛み締め、首を左右に大きく振って抵抗してみせる。


「口を割らせる方法は幾つかあるけど…。ミラ、宜しく。」


ゾクッとする程に甘い声がした。


あわわわわわっ。

ガタガタと震え出す私は、自分が取るべき判断を間違えた事を悟った。


そう。私はお兄様に謝らなければならなかったのだ。


「お、お兄様!!」

「話は後でゆっくり…ね?」


ま、魔王が降臨してしまった!!


クリス様にすがる様な視線を送るが、哀れみを帯びた瞳で首を振られただけだった。


クリス様の人でなしぃぃぃぃ!



「クリストファー殿下が飲んだのはコレだね。」


ミラが一本の瓶を見せてくる。


「【超スーパーハイポーション。どんな怪我や疲労も瀕死までならたちまち回復!欠損も治しちゃうぞ!!爽やかレモンサワー(ノンアルコール)風味】…。」


…ポーションを作ったつもりだったけど…。


『超』に『スーパー』まで付いたハイポーションを作ってしまっていたか…。


流石…チートさん。


味は、お墨付きのレモンサワー風味だ!

スッキリ爽やかで美味しいよ!!



ジーっと、見下ろされる視線が痛い…。


…はい。すみませんでした。


「他のは?」


「ええーと…【超高性能目薬。失明だって治しちゃう!カルピスサワー風味(ノンアル略)】…。」


他には。

【超万能胃薬。ストレス社会を生きるの貴方に!開いた穴も塞いじゃうぞ!カシスオレンジ風味(ノンアル)】


【超即効性育毛剤。無毛、薄毛でお悩みの貴方!そこの貴方ですよ!これで大丈夫!!今日でカツラとはさようなら。赤ワイン風味(ノンアル)】



「「「……………。」」」


予想以上にデタラメな効能に、何とも言えない顔でお互いを見合っている三人。


「えへへっ?」

私はヘラっと笑って誤魔化す。



さて…皆さんもそろそろお気付きだろう。

私が何故か薬系の魔術に手を出すと、和泉の世界でのノンアルコールのお酒風味になってしまう事を。


…もしかしなくても、これで私の夢の一つは叶ったんじゃ…?!


これらにアルコールを含ませれば立派なお酒になるじゃないか!!

美味しいお酒飲み放題!!

イェーイ!!



「没収。」


お兄様は私を解放した後、無情にも自分のポケットにしまい込んでしまった。


「お兄様!!」

あー!私のお酒達が!!(涙)



あれ?ミラとクリス様が少し名残惜しそうにしてる。


ミラは…育毛剤か?育毛剤が欲しいのか!?


クリス様は胃薬かな?



待望のお酒達(ノンアル)を取り上げられて、しょんぼりしている私に、お兄様が囁いた。


「いい加減にしないと、大変な目に合うのはシャルロッテだよ?『白ワイン』や『レモンサワー』とか僕らは知らないんだけど?」


呆れ顔のお兄様の言葉に、私はハッとした。


そうだ。この世界にそんな物は存在していないのだ…。

お兄様だけなら良い。


だけど他の人は??


【赤い星の贈り物】である事は、出来る限り隠しておきたい。

でないと…大騒ぎになり兼ねないのだから。



ポロっと目から鱗が取れた気分だった。


ミラの他にも《鑑定》持ちは多数存在するのだ。

私が作った物に疑問を持たれたら終わりじゃないか…!!



私はお兄様にギュッと抱き付いた。


「…ごめんなさい。」


「分ければ良いよ。もし、試したくなったら僕の前だけにしといてね?」


「…はい。」


お兄様は久し振りに私の頭を優しく撫でてくれた。


「じゃあ、そろそろ先に進もうか。」


そうだ。肝心のダンジョンの事を忘れていた…。


お父様達は少し離れた地下七階の出口で、私達が来るのを待っていた。

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