ご褒美の後には…

やって来ましたお魔王様。

…うん。抜かりが無いね(涙)


リカルド様は予想していなかったのか、ピンとお耳も尻尾も立てて、瞳を丸くしている。

どうやら、相当ビックリした様子だ。


「…お兄様。そっと後ろに立つのは止めて下さい。」


それでも、流石にビックリしたからね!?

声を放つまで、足音も気配も無いって何者だよ!


「いきなり来られて困る様な事してるからじゃないの?」


ニコニコ笑顔のまま、首を傾げるお兄様。


「そ、そんな事してません!」


尻尾をモフモフしながら、リカルド様に頭を撫でで貰っただけじゃないか!

け、健全だよ!?


「ふーん?」


ジーっとリカルド様を見つめるお兄様。

その瞳は笑っていない。

リカルド様は、その視線から逃れる様に瞳を逸らした。


…あれ?

もしかして、リカルド様的には疚しかったり…?


キョトンと二人を見ている私を見て、お兄様は何かを理解したらしい。


「…成る程ね。」


何が成る程なのだろう…?


「シャルロッテは、獣人の社会の事をどこまで理解しているの?」


獣人の社会??

ゲームの中では獣人キャラの攻略対象者が居なかったから、この世界の常識は分からない。攻略対象者じゃなければ、詳しく説明もされないしね。

シャルロッテとしても、獣人に会うのはリカルド様が初なのだから。


「んー。良く分かって無いみたいだね。」


苦笑いを浮かべるお兄様。

リカルド様もお兄様と同じ顔をしている。


…?

何が言いたいのか分からない。


今後の事もあるし…後で調べようっと!


「まあ、頑張れ?応援はしないけど。」

「ああ…うん。」


お兄様に肩をトンッと叩かれたリカルド様は複雑そうに笑った。





「それで?今日は何してたの?リカルドは魔術を使えた?」


庭園の隅にあるテーブルセットに座り直した私達。

私の隣にはお兄様が当然の如く座っています。

チラッと見ると、『何か文句ある?』そう眼差しで返された。


…何でもありません。


向かい側の席にリカルド様。


リカルド様が遠いよー。

もっと一緒に座りたかったなぁ…。

お兄様のKY…。


いえ!何でもありませんって。


「私が先にここで、シーラとスーリーのジュースの原液を作っていて、出来上がった時にリカルド様が丁度いらっしゃったので…試飲をして貰いました。」


「これ?」

お兄様が瓶に入っている液体を指差す。


「はい。透明な方がシーラで、薄いピンク色の方がスーリーです。私が作りました。」


説明しながら瓶を動かす。


「そして、この二つはリカルド様に作って頂いたシーラのジュースの原液です。」


「へー。ちゃんと作れたんだ。」


「うん。シャルロッテのお陰だけどね。」


お兄様がチラッと意味深な視線を寄越す。


…はいはい。

『シャルロッテ』と呼んで貰える様になりました!!


「シャルの?」


「うん。最初は諦めたんだけど…シャルロッテが僕の中に魔力を流してくれて…そしたら不思議な事に魔術が使える様になったんだ!」


頬を高揚させながら興奮気味に説明をするリカルド様。


可愛いけど…。


「説明して?シャルロッテ。」


お兄様の圧力が重い…。



「…魔術が発動しない理由を調べる為に、リカルド様の中に私の魔力を循環させました。そして、その時にリカルド様の身体の奥底の方に、魔術が閉じ込められている箱の様な物を見つけて…その箱の鍵を開けたら、リカルド様の身体の中に魔力が循環し始めたのです。」


「…シャルは…自分の魔力を相手に流すとか、突拍子も無い事をよく思いつくね。」

呆れた顔のお兄様。


和泉として生きていた時のゲームやら小説やらの情報を元に試してみた方法だったが、この世界には存在しない魔術の使い方だそうだ。


《獣人が何故魔術を使えないのか。》

私は今回の事である仮説を導き出した。


《魔術を使う》≒《退化する》と獣人達の祖先は考えたのではないか、と。


だから、獣人は魔術を使

魔術に頼る生活は、獣人としての優れた本能や天性の才能を鈍らせる。それ故に、魔術を使えなくする箱を持つ様にと、獣人達の遺伝子に組み込んだのでは?と。


これは私の思いつきだから、真実とは違うかもしれない。

他の多くの獣人達や、魔術の使用出来無い一般の人を見てみない事には結論は出せないだろう。


リカルド様は大丈夫なのか?…と言えば、彼は人と獣人のハーフなのだ。

二つの種の良い所を補いながら、尚且つ魔術も使用出来る筈なのだ。


何より、リカルド様が魔術を使いたがっていたのだ!

出来る力があるなら、それを叶えてあげるのが、愛なのだ!!


【鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、ホトトギス。】

私のチートさん偉い!良くやった!!


勿論、何かあった時は全力でフォローします!


「それで、これか…。美味しいの?」


試飲を望むお兄様の為に、手早く用意する。


リカルド様が作った方はお持ち帰りして貰うので、使うのは私が作った方の原液だ。


商売に使うなら、アーカー公にも試飲して貰わないと話にならないからね。


氷を出し、原液を入れる。そこへ炭酸水を入れたら…あっという間にシーラとスーリーのジュースの完成だ。


お兄様も炭酸の方を選んだよ!


「先ずは…。」


お兄様が先に選んだのはスーリーのジュースだ。


「美味しい。」


ふむふむ。お兄様の反応は良いね。


「次はシーラです。」


お兄様と一緒にリカルド様にも、シーラのジュースを渡す。


「ありがとう。」

ニコリと笑い掛けてくれるリカルド様。釣られて私も笑う。


「どう致しまして。」


ふふふ。

リカルド様、素敵!!



「シーラも美味しいね。」


またしてもお兄様の反応が良かった。

それに気を良くした私は、次なる商品のプレゼンを始めた。


「これでシャーベットも作れると思います。」



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