お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

違うだろ！！

どうも。シャルロッテ・アヴィです。

アヴィの『ヴィ』の発音は、舌を少し噛んでから言うのが正式です。

さあ、みなさんで…

ア『ヴィ』

言えましたか？

ではもう一度…！

「シャルロッテ？」

今度はゆっくり言ってみましょう！

ア…『…ヴ…ィ』

「…何してるの？シャルロッテ。」

何って…現実逃避ですが何か？お兄様。

「少し考え事をしてました。」

昨日のリカルド様との幸せな時間から一転。

「これからダンジョンに潜るのに大丈夫ですか？」

『隣に立つお前のせいだよ！！』

と…大声で叫びたい。

何故にお前がいる。ハワード。

「今日はクリス殿下が公務なので、私が代わりに参加させて頂きます。」

いやいやいや！クリス様と一緒に公務に行けよー！！

表には出せない暴言を心の中で叫び続ける。

心の中に留めるのは…これでも公爵令嬢だから…ね。

時々…というか、普通に忘れる方が多いけど。

前までは外でも中でも上手く出来ていた筈なのに、【和泉】の記憶を取り戻してからは、制御が不能になって来た。

一緒に居る事が増えた、お兄様の『ストップ』が出ない限り、止めない私が悪いのか…。

放置するお兄様が悪いのか…。

「シャルロッテ嬢、今日は宜しくお願いしますね？」

ギラギラと闘争心を燃やすハワードに、心の底からウンザリした。

ハワードさえ居なければ平穏なのに…。

「こちらこそ宜しくお願い致します。ハワード様、お兄様にお話しする様に普通に話して貰えませんか？」

ウンザリする気持ちを心の底に押し込め、ニコリと笑う。

…丁寧な言葉は気持ちが悪い。

「そう？その方が助かる。」

ニコッと笑い返してくるハワード。

キリッとした騎士の仮面が外れた様だ。

…。

そうやって、素直に笑っているだけなら良いんだよね。

ゲームの中の『筋肉ワンコ』事。ハワードは単純なお馬鹿さんキャラだった。元気で愛想が良く、いざという時には身体を張って助けてくれる。

《THE・体育会系》と言う、上下の関係に厳しい騎士の中で、騎士団長の息子という先輩方の厳しい目にも負けず、自分を磨く為に頑張り続ける。

ハワードの人気はそこだ。

いつもお馬鹿なキャラのハワードが真面目な顔して奮闘するという、ギャップ萌えも大きいだろうけど。爽やかイケメン(仮)。

和泉の時は嫌いじゃなかった。

でも…

ハワードは、シャルロッテの断罪の時に、処刑台の上に連れて行く役割を持っていたのだ。

それを考えれば、自然と近付くのは遠慮したい訳で…。

今はまだ何もしてないけどね。

…これからもしないよ？

警察官を見ると、何もしてないのに逃げたくなる様な…あれに似ている気がする。

「シャルロッテ嬢。何体魔物を倒せるか、競争しようぜ！」

おい！そこの『筋肉ワンコ』ちょっと待て！！

「…ハワード様。ここには調査で来てるのですよ？」

「うん。調査しながら出来るだろ？」

「それに、私は前衛では無く、後方援助ですからね？」

「後方支援だって、戦えるだろ！」

「私は戦闘には基本的に不参加ですよ？」

「大丈夫。俺が守るよ！」

…もう嫌だ。この馬鹿。

何でこんなにしつこいの！！

騎士の仮面外させなければ良かった！

「お兄様ー！！」

私はお兄様に泣きついて、その背中に隠れた。

この馬鹿どうにかして。

「ハワード落ち着いて。」

苦笑いのお兄様。

「ルーカスも競争しようぜ！」

ギラギラと興奮したままのハワード。

話し聞けよ！！

「ハワード。いい加減にしないとカイル団長に言うよ？」

ニコリと笑うお兄様。

ゾクリと悪寒が走る。

お、…お兄様がキレた？

「シャルロッテが後方支援なのは、僕と父様の意向だ。それを無視して、シャルロッテを危険な目に合わせようって言うなら…」

冷たい笑顔の魔王（ルーカス）様降臨！！

魔王（ルーカス）様 素敵！！格好良い！

「分かった…俺が悪かったって！そんなに怒んなよ！」

ハワードが白旗を挙げた。

魔王（ルーカス）様 最強！

「僕じゃなくて、シャルロッテに謝って。」

「分かったから、その顔止めろ！」

チラッと背中越しにお兄様を見上げると、お兄様の優しい瞳とぶつかった。

「もう大丈夫だよ。」

そう言って、頭を撫でられる。

ふふふーっ。

「お兄様大好き。」

ギュッとしがみ付く。

お兄様は一瞬、驚いた顔をした後、蕩ける様な甘い笑みを浮かべた。

…！！イケメン砲発射！？

免疫の無い私は真っ赤になった。

「…おい。そこの馬鹿兄妹。」

馬鹿兄妹とは何だ！！

筋肉ワンコのくせに！！

呆れた顔を浮かべるハワードを、睨む様に見る。

「兄妹でイチャイチャすんなよ。てか…悪かった。周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だ。」

ハワードは頭を下げて謝って来た。

「もう…良いです。謝罪は受け入れました。」

素直(？)に謝られたら何も言い返せないじゃないか。

「お父様達の準備も整った様なので、調査に入りましょう？今日は地下六階からなので、油断していると危ないと思います。お互いに気を付けましょうね。」

私は溜息を吐いた後、ハワードに手を差し出した。

私最大の譲歩だ。

仲直りの握手をするのだ。

「シャルロッテ嬢…。」

私の手を見つめ、感激した様に瞳を潤めるハワード。

…ん？

何か変なスイッチ押した…？

ガシッと、両手で私の差し出した手を握り締めたハワードは…

「…お、俺の…妹になってくれ！！」

涙を流しながらそう叫んだ。

何でだよ！！