人間離れ
走りながらの会話、
ジェームズは、ここへくる前から、運動はそこまで得意ではなかった。
10キロも走ればバテて倒れこむくらいの自信はある。
が、ここへきてからかれこれ10分以上走り続けているというのに、いまだに息が切れる感じが全くしない。
それに、さっきから軍人だの、この体育会系の男だのの走りについて行くことすらできている。
会話をする余裕すらある。
ここでジェームズは、ようやく哲郎が言っていた「普通の人間ではなくなっている」という言葉の意味を理解した。
「哲郎が?なら捕まってるのはカルロスだな、相変わらずだな、あいつも」
「……知り合いか?」
アドルフの知人を語る様子に、ジェームズはホッとしながら、なぜそんな余裕なんだと疑問に思う。
「ああ、ドイツ人だ。軍医と言っていた。さっき会った。俺がここへ来たのと同時期にきた奴だ。もう何度も一緒になってる。」
「何度も?どういうことだ?」
どう言う意味か、いまいち理解できないジェームズは、前を走るアドルフに質問する、
「簡単な話だ。この世界じゃ俺たちに死ぬことは許されない。死んでもこうして生き返されるし、無事に生き残っても次の死地に送り込まれる」
深刻な話だが、アドルフは楽しそうに語る。
「お前は運がいいぞ?いきなりベテラン三人とバケモノ狩りができるんだからな‼︎」
頼もしいだろう?と、すぐ後ろを走るジェームズを振り返りながら楽しそうに言うアドルフ。
「バ、バケモノ狩り?」
とんでもないことを言い出したアドルフに、驚きを隠せないジェームズ。
その質問に答えるには相当の覚悟がいったのだろう、それまでの余裕の笑みは消え、真剣な表情になるアドルフ。
「そうさ!この世界では狩るか狩られるか、その二つしか回答はない」
真剣な表情で語るアドルフに、現実を突きつけられた絶望感にとらわれはじめるジェームズ。
「この閉ざされたフィールドには俺たち人間が4人と、俺たちをエサ程度にしか思っていないあのバケモノが一体、あとは敵でも味方でもない野生の生物達が無数に歩いてる」
アドルフはこの世界の現状を語る。
「バケモノは俺や野生の生物を食って成長する。俺たちは武器を見つけてやつを倒す、負ければ全滅、勝っても負けても次の戦場……その繰り返しだ」
アドルフが言うことが本当なら恐ろしい話だ。
と、ジェームズは思う。
死んでも生き返るのもそうだし、あんなバケモノを倒すなんて、
何より勝っても負けても何度も戦わされる。
救いがないではないか。
「お前もある程度気がついてるだろ?それか哲郎といたなら聞いたろ?俺たちはもう普通の人間じゃ無くなってる」
アドルフも、やはり知っているようだ。
自分達はもう人間離れしていることに、
「死んでも気がついたらこの世界のどこかにいくつかある奴らの巣にリスボーンするんだ。さっきの地下室みたいな所だ」
流石にこたえたのか、忌々しそうに顔を歪ませて語るアドルフ。
「俺たちは武器を見つけなければならない。あいつを殺せるくらいのでかい武器をな」
ようやく調子が戻ってきたのか、力を込めた声音になるアドルフ。
「武器?銃ならさっき見つけたぞ?」
弾は入ってなかったが、と小さく付け加えて、同意を求める。
「ああ、あれは俺が拾った。だが、あんな小さいのじゃダメだ。もっとデカイのがこのフィールドのどこかにある」
「……落ちてるのか?」
「いや、小さいのは落ちてるが、デカイのは基本的にロッカーに入ってるんだ。不自然な配置にあるロッカーにな、」
アドルフは説明ついでにキョロキョロとあたり。見回す。
おそらく、説明にあったロッカーを探しているのだろう。
ないことを確認し、悔しそうに舌打ちすると、再び走ることに専念する。
ジェームズは、実物を見た覚えがあった。
この場所へ来てすぐの場所にあったあの不自然なロッカー。
あれに違いない。
おそらく、このフィールドのどこかに、あんなロッカーがいくつか設置されていて、そこでやつを倒す武器を調達するのだろう。
「さて、話はこれくらいだ。そろそろ着くぞ」
言って、気合いを入れるアドルフ。
そこで、
さっきの地下室とはまた違った、動物園の動物を閉じ込める檻のようなものに、同じく甲殻系の足みたいな生き物に中で襲われている男を肉眼で捉えた。
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