気がつくと、

「ここは……?」


神父は、気がつくと、全く見覚えがない場所に寝転がっていた。

「私は確か、教会の懺悔室でいつものように彼女の悩みを聞いていたはず、なのになぜ、このような場所に?」

神父は、あたりを見回すが、どこをどう見ても全く見覚えのない場所だ。

『彼女』の姿も見えない。


時間はそんなにたってはいないようで、日はまだ高いが、明らかにさっきまで自分がいた教会ではないし、そもそも自分の記憶にこのような景色はない。


突然置かれたおかしな状況に、混乱する頭をなんとか働かせ、神父は考える。


彼の名は、ジェームズ。


ジェームズは、とある教会で神父をしていた。

ジェームズの仕事は毎日教会を訪ねてくる礼拝者達を迎え、悩みを聞き、教えを与える。

悩んでいたことが晴れ、お礼を言って帰って行く子らを見ること、

それが、彼の楽しみであり、生き甲斐であった。



本人からの希望があれば、誰でも教会の懺悔室を使え、直にあって相談に乗ることができた。

教会の懺悔室を通して、様々な人の悩みを聞くのだ。


「彼女は無事だろうか……」


『彼女』は、ここ一年ほど前から、この教会の懺悔室をよく利用するようになってる、10代後半から20代前半くらいの若い女で、

いまだ互いの名も知らないが、もはや名乗る必要もないくらい、互いの心に抱えたものを見せ合ってきた。


今日も、さっきまでその懺悔室で、いつものように彼女と話をしていたところだったはず。


だったのだが、


「ここはどこだ?」


あたりに人影はなく、しかし、何やら、キャンプでもしていたかのような、暖をとる用途で置かれているであろう真新しい焚き火が、ついさっき火がついたかのように大量の燃料を残したまま、煌々と燃え盛っている。


そして、どうやらここは何かの建物の跡地のようで、屋根はないし、ところどころ崩れてはいるが、四方は赤いレンガの壁で囲まれていて、窓枠も見受けられる。


それ以外は何か、自分が今いる場所を知る手掛かりになりそうな物はなさそうで、ここにいるだけでは何の問題も解決しなさそうだ。


ただ、


一つだけ気になることが、

その壁にぴったりくっつけて置かれている、最早どういう用途に使うのかすらわからない両開きのロッカーが一つ、異様な雰囲気を放ちながらこちらを見ていることだ。


ただ、このロッカーから、何かを追求しようとしたところで、何も理解できそうにないので、特に触る必要も感じないし、放っておくことにした。


今わかっていることは、


ついさっきまで、教会にいたのに、いつのまにかこんな、廃墟のような場所に放り出されたこと。

何がどうなっているのやら、全く理解できない状況だということだ


「どうなっているんだ?」

自分はひょっとして何か面倒に巻き込まれたのか?

だとしたら彼女は無事だろうか、


など、色々考えるが、何にしてもまずは情報がいる。


周辺を散策したほうがいいだろう。


そう考えた神父は、

とりあえずちょうどいいくらいに崩れて乗り越えられる窓枠を乗り越えて、外へ出る。


すると。


「ここは、何かの工場の跡地か?」


まず目に入ってきたのは正面にそびえる大きな建物。


一目でここが工場だとわかる。巨大な煙突が特徴的な、神父がいた教会が丸々収まりそうなくらい大きな、四角い箱状の建物だ。


建物の周りには草木が生い茂り、この場所がもう使われていない、跡地であることがわかる。


「やはり、ここは私は全く知らない場所のようだ……」

自分の記憶にはこんな場所はない。


どこの何という工場なのかは見当もつかないが、

これで自分がいる場所についての、ある程度の情報を得られた。


次は人を探そう。


自分が置かれている状況を把握したい。


そう考えたジェームズは、あの焚き火を起こした主は、間違いなく自分よりここの情報を持っていると判断し、その人物を見つけ、情報を聞き出すことにする。


「しかし、よくわからない状況だ」


自分の記憶にない場所へ、自分の意思で何の理由もなく突然に訪れたとは考えられない。


なら、誰かが、教会にいたジェームズを、なんらかの手段を用いてこんな場所へ連れてきたということになる。


だが、ジェームズは自身にはそんなことをされる心当たりは全くない。


なら、誰が、何のために自分をこのような場所へ連れてきたのか、目的を知る必要がある。


そして、さっきの焚き火、あれは間違いなく近くに人がいる証拠だ。


さらに、目の前には誰かしら人がいそうな建物。


どうやら行き先も決まったようだ。


ジェームズは、いきなり訪れた謎の事態に、


言葉にできないような不安を抱えながら、目の前にそびえる不気味な建物に向けて歩き始めた。

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