僕夏。ーぼくたちのなつやすみ、30日。ー

箱丸

一週間目

1.[手紙]

ミーンミーンミーン

セミの声が遠く響く夏休み。ある意味暇である意味大変。

はぁー。今年、平成最後の夏休みも暇で終わんのかー。

母「テレビばっか見ないで、宿題やったら?」

僕「んー…。分かってるよー」

だめだ。やる気が起きない。なんかもっと、楽しければ…!

母「そうだ、手紙来てるわよ」

僕「どっから?」

母「から」

僕「へぇー。村からなんだ。おばあちゃんから?」

母「違うわよー。友一君から」

僕「あいつから…?」

母から手紙を受け取り、を見る前に送り主を見た。狸田 友一 空南村1-5。うん。確かに友一からだった。

懐かしいな。帰省してみようか。

僕「母さん、ちょっと行くね」

そう言って、自分の部屋でバイト代全てと、着替え。その他諸々をリュックに詰め込んだ。

僕「じゃ、行ってきます」

母「はーい。気を付けてね」

……

手紙も見ずに飛び出してきちゃった。

自宅の馬場市から、電車とバスを乗り継いで3時間。ようやく最後の乗り継ぎ電車。周りは、畑しかなく家はちょこちょことしか無い。

ひまわりは皆背が高く、黄色い花の部分が太陽の光が反射していて眩しい。

ガタンゴトンガタンゴトン…

アナウンス「次は空南。空南でございます」

キィィキィィプシューッ

エアが抜ける音。カーブに差し掛かる。よし、もう少しだ。

カーブから出て、プラットホームに入り、停車した。

プシューッ

電車のスライドドアが開き、僕は降りた。が、他は誰一人降りない。

プラットホームは雑草しか生えておらず、灰色の地面に緑が少々、見えるだけだった。

長年、誰にも整備されていないせいか、点字ブロックは所々剥がれ落ちている。

5年前と変わっていない…。いや、ウソ。多少は変わった。

駅はとても薄暗く、廃墟当然。改札機は動いていない。ただの置物。

たった1つだけ動く改札機で外に出た。

ミーンミーンミーンミンミンミーン

5年前に振り返った景色とほぼ一緒。ようやく帰ってきたんだ、空南村に。

ブロロロロー

僕「ん?」

右から丁度、ニッサン・サニートラックが目の前で空南村に行く道へ、直角ドリフトを決めて入って行った。が直ぐに止まった。

ガチャッと運転席側のドアが開く。サスペンションが軋みながら、中のは降りた。その人物は毛だらけで…

僕「あ…」

???「あ…」

僕「浩仁さん?」

浩仁「源田か?」

聞きなれた大人の声。浩仁さんだ。

僕「浩仁さんっ!」

浩仁「源田ぁ!よし乗れっ!」

バタン

浩仁「なっつかしいなぁ。おい!元気か!?」

知らない人だったら人拐いですよ?

僕「元気ですよ。浩仁さんは?」

浩仁「見てのとーりよ。まさか、おめぇが帰ってくるとはな。友一が手紙送ったからか?」

僕「ほぼそうですね。中身は見てませんけど」

キキィィィ!

突然の急ブレーキ。突然すぎてダッシュボードに頭をぶつけた。痛い。

浩仁「読め」

僕「え?」

浩仁「早く読めって!」

急いでリュックから出し、封筒を開けて本文を読んだ。

『よぉ、久し振りだな?元気か?俺はまぁ、元気だ。たまには戻ってきてくれ。皆で待ってるからな』

と少々汚い字で書かれている。字体には感情的にはなっていない。

僕「読みました」

浩仁「じゃ、行っくどォォォ!」

僕「へ…?」

さっきの読めっ!はどこへ?

……

向かう途中、

浩仁「おい!源田が帰るぞ!」

と電話していた。

ながら電話は駄目でしょ。

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