アイちゃんが語る維新学園顛末記
夏炉冬扇
1. 黒船来校
はじめまして!
わたし、私立維新学園高等部一年の
これでも生徒会で書記をやってるんですよぉ。
会長……あ、
でも、そんな皮肉なんて、わたしは気にしてません!
だって、わたしがこの学園で最も尊敬する先輩ですし、そんな人の側で働けるなんて、わたしの誇りですから。
ええ! 気にしませんとも!
でもでも、最近困った事がありました。
事の発端はわたし達の学園に海外から留学生がやって来たところから始まります。
学園では『学生同士の恋愛を禁ずる』という時代錯誤……もとい、厳しい校則があるんですね。
ところがこの留学生……ステイツくんは一目で会長の事が気に入ってしまったようで、それを知った生徒会副会長の
「会長。よろしいのではありませんか? ステイツさんは頭も良く、明るくて非常に好感が持てます。フレンドリーな方ですし、我が校でもあっという間に馴染んでしまいましたからね」
「気持ちはありがたいのだけど……我が校には学生間の恋愛を禁ずるという校則があるからな。生徒会長たる私が校則を破ってしまっては示しがつかん」
まあ、そりゃそうですよね。
わたしも傍らで聞いていて、とても彦根副会長の勧めには賛同できなかったですもん。
でも、彦根副会長はそんな常識を肯定しようとはしませんでした。
「そもそも恋愛禁止などという校則は行き過ぎだと私は考えております。ともすれば人権の侵害とも言うべきもので、これまでも多くの学生たちから疑問の声があがっているくらいです」
「それは……私も承知してる……」
「ならば、会長自ら学生たちの自由のために悪しき慣例を否定し、改革なさるべきではありませんか?」
彦根副会長の言い分もわからないではないんですけどねぇ……。
正直なところ、わたしも学生間の恋愛禁止なんて校則はおかしいって思いますもん。
でも、だからと言って……と異論はありましたが、わたしが意見する間もなく……。
「そうだな……。それに日本へ来たばかりの彼の想いを無下にするのも失礼というものかもしれん」
か、会長ぉぉぉぉ‼︎
いつもは冷静で感情に任せて行動するような人じゃないのに……。
やっぱり「好き」と言われしまうと色恋沙汰に免疫のない会長でも心が揺らいでしまうのでしょうか?
こうも簡単に彦根副会長に言いくるめられてしまうとは……。
ともあれ、この時はまだ、その会長の決断が学園を揺るがす大きな騒動に発展するなどという事は、わたしも想像してませんでした。
人の口に戸は立てられないとでも言うんですかね……。噂なんてものは直ぐに広まるもので、いの一番に……それも過敏なまでに反応したのは三年生の女子生徒である
「会長ンしたこつは校則違反じゃらせんか⁉︎ こげんこつ放置すっとは、だぃも校則守りゃせんくなりもんそ?」
よりによって薩摩さんは会長の校則違反に対して、
「薩摩さん……冷静に……」
学長は少し困った様子で苦笑いを浮かべていました。
この薩摩さんという女子生徒……。見た目は大らかそうで、いつも優しげな笑みを携えてる人なんですけど、一度火がつくと容易に鎮火しないタイプなんですよね。
それに……薩摩訛りが酷くて、言ってる事が分からないって場合もしばしば。
京学長が苦笑いを浮かべているのも、一つにはそれが理由なんだと思います。
「こン度の一件、彦根サァが二人ン仲ば取り持ったこつじゃっで聞き及んじょりもす! じゃっどん、なぃもお咎め無かちこつは、どげんこつじゃで思ぉちょっとです!」
「薩摩さんの仰る事は分かっています。私も今回の件について黙認するつもりはありません。江戸さんには私が直々に事情を聴く予定です。ただ、彦根さんが仲を取り持ったという事に関しては確たる証拠もありませんし、もう少し詳しく調べたうえで対処する必要があるでしょうね」
京学長の言い分はもっともです。
噂だけで処分するわけには行かないですし……。
まあ、その噂が事実だって事は、間近で聞いていたわたしが知ってるんですけどね。
要するに会長と副会長に処分が下るのは時間の問題だったという事です。
ともかくも、京学長に諭されて、この時は薩摩さんも黙って引き下がる以外になかったようでした。
顔を顰めて、いかにも納得してないといった様子でしたが……。
ところがところが!
京学長が調査に乗り出す前に凶事は起こったのです!
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