第二十七話 廃村ロフィア
「――ちゃん! また遊びに来てくれたんだね!」
「うん! 今日はお父様も一緒なんだ」
「君が娘の言っていた人間の友達かな。仲良くしてくれてありがとう」
「ううん! こちらこそ!」
「何かお礼をしなきゃな」
「お父様……?」
「ご、ゴブリンの群れが襲ってきたぞ!」
「え……? ちょ、なんで!? 止めて! お父様!」
「言っただろう、お礼をしなきゃって」
「――ちゃん? 嘘だよね? こんなの」
「ッ!? 私もよくわからないよ! ねえお父様! 何をしてるの! 友達になりにいくって、だから村の様子を見てきて欲しいって、そう言ったよね!?」
「母さんの事を思い出せ。先に裏切ったのは人間だろ?」
「それは他の国、街での事でしょ! この村は関係ない!」
「やめて! 逃げて! お父さん! お母さん!」
「逃げても無駄だ。俺がこの手で殺してやるさ。全ての、人間をな」
「――ちゃん!? 何をするの!? 離してよ!! 助けなきゃ!!」
「ここに居たら殺されちゃう!!」
「嫌だ!! 離してッ!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
アクティニディア、国境付近
ミルマがクローゼに問いかける。
「ねえクローゼ、急いでる理由も聞いちゃダメ?」
少し先を歩いていたクローゼが振り向き答える。
「マルスプミラの国王はゴールの居場所を知ってるわ。アリュール達が帰ってきたら二人で向かうことは不可能になるわ」
どうしてそんなことが分かるのか、勿論ミルマは疑問に思ったがあえてそこは聞かなかった。
「そっか。じゃあ、急がないとね!」
「? 何も……聞かないのね」
「終わったら、でいいよ! 私は何があってもクローゼの味方だからね!」
「ありがとう。私もよ、ミルマ」
二人は再び山を登り、今度は降る。
山を降り少し進んだ所で先に見えたのは大量の墓。
その光景を見てミルマが声をあげる。
「大量のお墓……」
「来るわ、構えて」
墓から大量の霊体のようなものが現れる。
ミルマが弓を構え、矢を放つ。
だがその矢は対象を貫通し遠くの木に刺さる。
「え、当たらないよ! もしかして本当に実体がない?」
(魔法ね、でも困ったわ。これじゃミルマの攻撃は当たらない)
「ミルマ、一旦目を瞑りなさい」
「この状況で!? ううん、だからこそなんだね。りょうかい!」
ミルマが目を閉じたのを確認してクローゼは瞳を青く光らせ、ミルマの持っている剣と弓に青い光を注ぐ。
「はい、いいわよ」
「よおし! バンバン撃ち落とすよ!」
ミルマはもう一度矢を放つ。
その矢は貫通することなく霊体を貫き、その場に倒れ消える。
「わ、凄い! 楽しいかも!」
「た、楽しい……?」
困惑気味のクローゼ。
だが、きっちりと剣で敵を払いその数を確実に減らしていく。
ミルマも矢を確実に当てていき、湧いて出てきた霊体達は簡単に消えていった。
「ふう、終わったね」
「ミルマ、矢を使い過ぎよ。もう数発しか残ってないじゃない」
「ごめんごめん。でも、ゴールは剣で仕留めるから大丈夫!」
「飛行型が出てきたらどうするのよ?」
「う、うーん。撃ち過ぎました、はい。反省しております」
呆れまざりの表情のクローゼは周りを見渡し表情を険しくする。
(この先は私達にとって始まりの場所であり、終わりの場所)
「使ってしまったものは仕方ないわ。進みましょう」
「うん!」
二人は墓地を抜け、薄暗い雰囲気の方角へと向かう。
短い森を通過し、ついにその場所へ辿り着く。
「! ここって……」
「……」
ミルマが驚きの表情を浮かべる。
隣には無表情のクローゼ。
視界に入ったその景色、それは……。
「ロフィア……」
かつてミルマが住んでいた村、ロフィアだった。
フィルメルス城、会議室
部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
扉を開け三人の人物が部屋へと入る。
出発前には居なかった人物を見てフィルメルスの表情が緩む。
「無事、取り戻せたようですわね」
その人物、グロウは床に膝を付き頭を下げる。
「話は伺っております。この度は我が国、そして私の救出の為に協力して頂き……」
好みではない堅苦しい挨拶が続くと察したフィルメルスは不機嫌そうに話を切る。
「頭をあげて下さいな。他の国ではどうかしりませんが、ここはわたくしの国。そういう堅苦しいのはやめてくださいませ」
驚くグロウと見慣れた光景に苦笑いのアリュール、そしてオーディスもやっぱりか、と言った表情だ。
「では、無礼ながらお急ぎお聞きしたいことが」
「? なんですの」
「ここに魔族の王、ゴールを倒そうとしている人物が居るとお聞きしたのですが」
「ミルマさんとクローゼさんですわね。二人なら少し前に出発しましたわ」
「な!?」
廃村ロフィア
「ここ、私の……。お父さん、お母さん」
感情が溢れ出るミルマ。
村は荒らされ、人が住んでいたとは思えない状態。
家であった建物は良くて半壊、半数は全壊している。
ミルマ達から見て正面、一番大きな建物であっただろう場所に仇敵は居た。
「ゴール……」
二人が来た事に気付いたゴールが立ち上がる。
「来たか……。久しぶりだな。中立国で会った時以来か。クローゼは山で会った時ぶりだな」
「……」
霊体の魔族を退けて以来口を開かず無表情のクローゼはゴールに名前を呼ばれても何も反応しなかった。
ミルマが先に言葉を返す。
「趣味悪いね。人が一番苦しい場所で待ってるなんてさ」
「苦しい場所、か」
「あなたの過去に何があったかは分からないよ。でもね、私はあの日の事を絶対に許さない」
「許す許さないなんて言葉はなんの意味もないんだよ。許さないって言ってもそれを実行する力がなければ無意味だ」
ミルマの手に力が籠る。
それでも表情は変わらず、中立国の時のように怒りに呑み込まれていない。
「そうだね。でも今はあの日、あの時、叫ぶ事しか出来なかった私とは違う」
そこでミルマは何か違和感を感じた。
「あの日? あの時……?」
黙っているクローゼが視線だけをミルマに向ける。
「……」
「私はあの時、誰かに掴まれて……」
それを聞いたゴールは笑い出す。
「お前、何も覚えちゃいないのか。いや、違うな。都合の悪い部分だけ忘れさせられているのか」
「何、どういうこと? 都合が悪い?」
今まで黙っていたクローゼが口を開く。
「ミルマ、あんな奴の言葉に耳を貸す必要はないわ。感情が不安定じゃ普段通りの力は出せなくなるわよ」
「う、うん。分かってる……けど」
「分かったわ。この戦いが終わったら私が教えてあげる。だから今は戦いに集中して」
「クローゼが? ……りょ、了解!」
一瞬疑問を抱いたミルマだったが、すぐに気持ちを切り替え悩みを捨てる。
周囲を見渡しクローゼがゴールに問いかける。
「気配がないけど、残りの魔族は?」
「もういないさ。お前等が全部殺した。今、目に見えてる限りだよ」
それを聞いたミルマは真剣な表情で言う。
「じゃあ、あなたを倒せば魔族は居なくなるんだね。これで復讐も終わる」
ゴールが意味深な表情でミルマとクローゼを見る。
剣に手を掛けるミルマを見て、クローゼは一歩下がった。
ミルマは不思議そうにクローゼを見る。
「クローゼ?」
クローゼはどこか悲しさの混ざった笑顔でミルマに言う。
「私のお手伝いはここまで、決着は自分の手でつけるべきよ」
予想していなかった展開にミルマは若干動揺する。
その反応を予想してたのかクローゼはミルマに優しい口調で声を掛けた。
「ミルマなら大丈夫。なんたって私の自慢の弟子よ? 絶対負けないわ」
「クローゼ……」
「私も戦ってうっかりトドメを刺しちゃっても困るでしょ?」
その様子をただ見ていたゴールが一言だけ口を挟む。
「俺は一人でも二人でも構わないぜ?」
ミルマはクローゼを、ゴールを一度見た後に村を見渡し、自分の家があった場所を見て決心する。
「私は……」
→『一人で戦う』
『二人で戦う』
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