第十五話 出会い
数年前、王国マルスプミラ外壁。
一人の少女が同い年くらいの女の子を抱えて歩いていた。
抱えられている緑色の髪をした少女は酷く衰弱しており、意識もなく今にも死んでしまいそうだ。
その女の子を抱えている背中に剣を背負った黒髪の少女は周囲を警戒し、何やら外壁に耳を近づけている。
「近くに気配や声はしないわね」
黒髪の少女はそれを確認すると外壁の下の方に手を向ける。
するとその手から小さな青色の光が発生し、壁を少しずつ溶かしていく。
音を出すこともなくあっという間に外壁の下部分を少しだけ溶かし、態勢を低くすれば人が通れるくらいの穴が開く。
黒髪の少女はその穴を通り、王都へと侵入する。
潜り抜けた後、黒髪の少女はもう一度周囲を確認してからその穴に手を向けると溶かした部分が一度光る。
「とりあえずはこれでいいわね。運悪く誰かがあそこに手を触れない限りは大丈夫でしょう」
その壁は誰から見ても元通りであり、まさか壁が無いとは思わないだろう。
黒髪の少女は歩き出す、知っている土地ではないのか、辺りを見渡しながらお目当ての店を探す。
「宿屋……どこかしら」
黒髪の少女は宿屋を探し歩く、背中に緑髪の女の子を背負ったまま。
広い王都を行ったり来たりしている間にようやく宿屋を見つける。
「さすが王都ね、宿屋も広そうだわ」
黒髪の少女は宿屋の受付に向かい、二人分のお金を払い部屋へと案内される。
案内役が去っていったのを確認し、扉の鍵を掛ける。
そしてベッドへ横にならせた緑髪の少女の方へ行き、そっと手をかざす。
すると再び青い光が発生する。
その光は寝かせた少女のおでこの辺りに触れると吸収されるように消えていく。
「ごめんなさい、私のせいで貴女はもっと辛い人生を送ることになるかもしれない。それでも……」
黒髪の少女は天井を見上げ言う。
「あの時の言葉……」
「復讐」
「それが貴女の願いなら、私はそれを叶える為に全力を尽くすわ」
「もしも全てを忘れているなら……」
「なんて、そんなのは自分勝手ね」
少女は優しく、どこか呆れたような声で言う。
口調とは裏腹に少女の目は何かを決意した強い眼差しだった。
王都マルスプミラ、宿屋の一室。
「んん?ここは……」
眠っていた少女が目を覚ます。
横のベッドに座っていた黒髪の少女が答える。
「お目覚めね、おはよう」
「お、おはようございます?」
先程まで寝ていた緑色の髪をした少女は驚きながら咄嗟にそう答えた。
黒髪の少女は微笑みながら問う。
「体の方は大丈夫?どこか痛かったりしないかしら?」
体を起こし手を動かしたりしてみる。
力も入るしどこも問題ないようだ。
「大丈夫です、あの……あなたは? あ、先に名乗るべきですよね!」
先程まで寝ていた少女は慌てている。
その様子を見て微笑んでいる黒髪の少女。
「私はミルマって言います」
黒髪の少女は微笑んでいた表情を元に戻し、名を告げる。
「ミルマちゃんね、私はクローゼ。名前は思い出せるようだけど……」
クローゼは言いづらそうに話す。
それを察してか、ミルマが先に話す。
「記憶は、大丈夫です。大型のゴブリン率いる魔族……村は襲われ、村の人、私のお父さん、お母さんも目の前で殺されました。私は非力ながら抵抗して……ゴブリンに吹き飛ばされて、それで……」
ミルマの言葉が止まる。
「私だけ生き残って……る? あ」
そこで何かに気付く。
「ごめんなさい、もしかしてクローゼさんが助けてくれたんですか?」
少し悲しげな表情をしたクローゼがミルマに向かって答える。
「ええ、ロフィア……だったかしら、近くを通ったらミルマちゃんが倒れているのを見つけてね。勝手に助けてごめんなさい」
その様子を見てミルマが慌ててそうじゃないと声をあげる。
「違うんです、むしろ助けて下さってありがとうございます! これで私は……」
ミルマは視線を部屋の天井へと向け言う。
「村を襲った魔族に復讐が出来る」
クローゼの表情は決して明るいものではなかった。
それでもなんとか普通の表情を作り出しミルマの方へと視線を移す。
「そう……でも魔族といってもかなりの数がいるし、どれが村を襲った魔族かなんてわからないわよ?」
ミルマはクローゼの方へ向き直り笑顔で言った。
「大丈夫です、一匹残らず殺せば村を襲った魔族も必ず殺せるので。それに……。村を襲ったのは大半がゴブリン型の魔族って覚えていますし!」
クローゼは問う。
「方法は? その為の力は?」
ミルマは少し考えた後、部屋の端に置いてある剣を見つける。
「力……あ、もしかしてクローゼさんは剣術が得意だったりしますか?」
「そうね、剣……と言うよりは何でも使えるわ。槍でも斧でも弓でも銃でも……」
ミルマの表情が明るくなる。
「私に武器の扱いを教えてください! 強くなって復讐を果たす為なら私はなんだってします、だから……」
それを聞いたクローゼは少し怒ったように言う。
「いいわよ、でも一つ条件があるわ。なんだってします、なんて二度と言わないで。自分を大事に、最後の一匹を殺すその日まで、必ず生きるって約束して」
口調は先程までとは違い冷たいものだったが、その言葉にはどこか優しさを感じた。
ミルマは真っすぐに見返し返事をする。
「分かりました、約束します。復讐を果たす為に、果たす日まで、生きてやり遂げると……だからクローゼさん」
「もう一つ、お願い」
ミルマの言葉を遮るクローゼ。
「呼び捨てでいいわ、というよりしてくれる?」
突然のことに驚くミルマだったが、再び明るい表情でこう返した。
「了解です、師匠!」
クローゼは呆れ顔で。
「ちゃんと話聞いてたかしら? もう教えてあげないわ」
慌てるミルマ。
「わわ、ごめんなさい。クローゼ……さん」
ため息をつくクローゼ。
「まあいいわ、まずは基礎からね。五分後には特訓を開始するわ、すぐに準備して表へ出なさい」
「えっ、五分後!?」
「そう、五分。遅れたらこの話はなかったことに」
そう言いながら部屋から出ようとする。
「待って! 待ってよ! クローゼ!」
部屋を出る瞬間、後ろから呼ばれた声、クローゼはどこか嬉しそうに。
「ちゃんと降りてくるのよ、ミルマ」
この時、二人が初めて名前を呼び捨てで呼び合った瞬間であった。
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