第十二話 王城に居る仇敵

 中立国デトタフデア、領内。

 まだクローゼと仮面が戦っている頃。


「そこの皆さん! 魔族の駆除は私がしますので、怪我人、住人と共に外へ避難して下さい!」

 ミルマは魔族を駆除しながら順調に避難指示を出しつつ進んでいた。

 何度か最初のように誰だ? となることもあったが、今では兵から兵へと伝令されていてミルマが来るまで耐えるような指示がされており、兵士達が無駄に死ぬことも減った。


「数が多い……! 矢の本数持つかな……」

 空を飛んでいるコウモリ型の魔族や、個体数は少ないものの翼の生えたデーモンを打ち落としつつトドメは剣という感じで進んできてるが、矢の数は無限ではない。


「王城に近づくにつれゴブリンが多くなった気がする」

 ミルマは魔族を素早く狩り続けている間も相手の特徴をしっかり見ていた。

 確かに王城に近づくにつれゴブリンが多くなってきていた。

 それも一般的な弱い個体ではなく、組織的に動く精鋭のようなゴブリンだ。


「一番嫌いなんだよね、ゴブリン型」

 強い個体ではあってもミルマの敵ではなく弓ではなく剣で簡単に狩っていく。

 そこでミルマは大量の魔族に囲まれている一人の女の子を発見する。

 武器は持っているようで、一般住人ではなさそうだ。


「そこの子、手伝いますね!」

 目の前の女の子に気を取られ警戒されていない背後から数匹の魔族を剣で薙ぎ払い始末する。

 すると魔族が一斉にミルマの方を向く。

 そこに居た女の子が反応する。


「あ、私は大丈夫です! 少しでも多くの魔族を引き付けて怪我人や住人を逃がさなきゃこの国は終わってしまうんです!」


 言いながらミルマの方を向いた魔族を手に持っている槍でなぎ倒していく。

「あわ、強い! これは失礼しました!」


 慌てるミルマ、一目で彼女が一般兵のレベルではないことに気が付いたようだ。

 しかし最前線に一人というのは危険だ。

 目の前の魔族が全て死んだことを二人は確認してお互いの方を見る。


「私は中立国デトタフデア、守備隊隊長のアンテと言います!」

 少し背が低めで幼げな印象がある女の子は周囲を警戒しつつも丁寧に挨拶をする。

 どうやら守備兵の中で最も上の方だったらしい。

 それを聞いて同じく周囲を警戒しつつもミルマも挨拶をする。

「私は所属はないけど、魔族をこの世から一匹残らず駆除する為に動いてるミルマと言うものです!」

「仲間が一人門にいて、ここに来る間の魔族は一掃してきましたのでご安心を!」


 アンテと名乗った女の子は驚きつつも先ほどの戦闘で感じ取ったのか、その言葉が嘘ではないことを確信し、話を続ける。

「なんと! 兵から流れてきていた魔族を一人で簡単に倒してきている女の子が居ると言っていたのはミルマさんのことでしたか!」

「ありがとうございます、お蔭さまで少しづつ無事領外へと兵の案内の下脱出出来ていると先程最後の伝令を頂きました!」


 ミルマはそれを聞いて安心する。

 が、視線はすぐに王城の方へと向く。

「中立国の王城……あそこはまだ?」


 アンテはそれを聞いて悲しそうな表情を見せた後、口を開く。

「国王様一人が残って戦っています、国王様は城の隠し通路に部下や住人を退避させ自身を囮に時間を稼ぐ、住居区の退避は任せたと私に……」


 ミルマは国王は時間の問題で、もう諦めているのだと悟った。

 それでもミルマは彼女に言う。

「私は魔族が居る限り戦い続けます、王城にまだ沢山の魔族が居るのなら、私が」


 その言葉を聞いたアンテは目に涙を浮かべながらミルマを制止する。

「ミルマさんがとんでもなく強いのは分かっているです、でも無理なんです……」

「王城を……王城を攻めているのは……」

 アンテは視線を上げミルマの目を見て少し強めの口調で言う。

「魔族の王、ゴールなんです!」


「!!」

 ミルマは驚く、ここに自分の村を襲撃したゴブリンが居ることに。

 驚きは怒りに変わり、でもアンテには優しい口調で言う。

「なら、尚更私が行かなきゃ、あのね、そのゴールってゴブリン……魔族は私の故郷を両親を殺した奴なの」

「私はその復讐の為に戦っていて、魔族を全滅させることと仇をとることが生きている意味なの、だからごめんね」


 アンテの頭を軽くポンポンと叩き、視線を王城に移す。

「忠告ありがとう、あなたは領外の兵と合流して指揮を取ってね」


 子供の様な扱いに怒るわけでもなくアンテはミルマの手を掴む。

 その手は震えていた。

「国王様は国で一番の実力者です、その国王様が自身の死は決まっているかのように私たちに指令を下したです」

「それでもいくですね……?」


 アンテは一拍おいて言う。

「なら、私もいくです!」


 ミルマは予想外の言葉に驚く。

 てっきり行くのを止めるものだと構えていたからだ。

 心のどこかで国王を救いたいという気持ちがあるのかもしれない。

「それだけ危ないって言っておいて自分も行くだなんて、面白い子だね」


 ミルマは何故か笑顔だ。

「止めても行くんだよね?」

 すぐに答えは返ってくる。

「そこはお互い様です!」

 これから未知の強敵と戦いにいくとは思えない雰囲気で、二人は王城へと向かっていった……。

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