第五話 エルモール砦
エルモール砦、マルスプミラにとって重要な拠点である。
王都とは違って己が力を示し成り上がった者達が多く集まる強力な砦であった。
ミルマ達はその砦のすぐ近くへとやってきた。
「エルモールが落とされるなんて、ここには大量の、または魔族の中でもかなりの実力者がきたのでしょうね」
木影からエルモール砦を見ながらクローゼが言う。
「ゴブリン、オーク、はんぎょ……じゃなかった、あれサハギンって言うみたいだね」
「あんなの足の生えた魚でいいのよ」
そういっている間にも砦に近付く二人。
見張りのオークが十体程見えてきたところで二人は一旦止まる。
「さすが砦ね、見張りがオーク、しかもあれ普通のオークより強い個体ね」
今まで倒したオークと違い、斧が二つ、身体も若干大き目だ。
「いいねいいね!これなら砦の中も期待できそう!」
いつも通りミルマが目を輝かせ、砦の方向を見る。
「元々話し合いに来てる訳じゃないし、そろそろ始めましょうか」
クローゼがそう言うと、見張りに向けてミルマが矢を放つ。
オークが気付く……が、一匹目は声をあげることすら出来ないまま地面に倒れ込む。
二匹目はそれを見て素早く動き出すも、その矢は完全には回避しきれず腕に刺さる。
「やるね!」
ミルマは逆に嬉しそうだ。
「マルスプミラ……どうあっても対話の話し合いを、等と言いながら刃を向けて来るとはな」
巨体のオークが腕を組みながら言う。
「女達、今謝っておとなしく投降するならば命の保証はしてやろう」
巨体のオークがそう言うと。
「んん?聞こえませんでした、申し訳ないですけどもう一度言ってもらえませんか?」
オークは一瞬不思議そうな表情をし、再び口を開こうとしたその時であった。
「その戦ったら私達が負けることが確定しているかのような言い方、不愉快」
周りの見張りや砦から出てきたオークと戦っていたクローゼが巨体のオークの真後ろにいたのだ。
「貴様!いつの間に!」
ため息をつき、ミルマは喋る。
「武装が強くなっても、見た目がデカくなっても言うことは似たようなセリフでつまらないね、やっぱり生きる価値なんてないよ」
後ろにいるクローゼが口を開く。
「私からも聞いてあげるわ、今謝っておとなしく投降するなら……剣で首を飛ばされるか、弓でぐちゃぐちゃにされるか選ばせてあげてもいいわよ?」
オークが激怒する。
「ふざけ」
言い終える前に首は宙を舞い、身体には複数の矢が刺さっていた。
「魔族ってみんなこんな感じなのかな」
ミルマが周りの魔族が全滅していることを確認しつつ言う。
すると砦の上から声が聞こえてきた。
「低俗な魔族相手に余裕で勝っているからって調子に乗らないでもらいたいものですねぇ……」
「何が目的かは知りませんが、これ以上荒らされるとキングにわたしが怒られちゃうので、ここで死んでもらいますよ?」
スケルトン、骨の体にマントを羽織った魔族が剣を掲げると同時に、砦の門から四体の魔族が現れる。
エルモール砦には門は二つしかなく、そこ以外は高い壁に覆われており脱出不可能な場所だ。
「デーモン、ね砦の外は確認したはずだけど、どこから湧いたのか……」
クローゼは考え込む。
ミルマは睨み付けつつ、スケルトンに向かって声をあげる。
「そこから見ているつもり?自信があるなら降りてきなさいな」
スケルトンは砦の頂上から言う。
「そのデーモンを倒せたら降りますよ、まあ、倒せたらですがね、はははは」
「そ、ならいいわ、さようなら」
スケルトンに向かって弓を構える。
が、射線を塞ぐようにミルマの前にデーモンが立つ。
「そう、邪魔をするの、なら貴方から殺してあげる」
弓を立ち塞がったデーモンの方へ向け、見据える。
「ミルマ!後ろ!」
珍しく少し大きな声で叫ぶクローゼ。
四体の内のもう一体が凄い速さでミルマに向かって突進していたのである。
「うん」
しかし、突進してきたデーモンの顔を振り向くことなく蹴り、その反動で弓を右手に持ち、左手で腰に掛けている剣を抜きデーモンの顔に突き刺す。
デーモンが声にならない程の悲鳴の声をあげる。
それでもミルマは後ろのデーモンを警戒しつつ剣で何度も何度も顔を突き刺す。
既にデーモンの顔は血で真っ赤であり、目も見えない状況だが、それでも止めることなく刺し続ける。
「速さと力のある攻撃をありがとう、お陰様で非力な私でも貴方の顔を貫くことができたよ」
弓、剣、共に高いレベルで扱えるミルマは強い衝撃の反動を生かし硬い肉体を持つデーモンの顔を簡単に貫通させたのである。
「もう喋らなくなっちゃった、ばいばい」
スケルトンや残る三体のデーモンが一瞬動きを止め固まる。
「で、デーモンをこんな非力な女が簡単に……!」
余裕を見せてた様子は一瞬で吹き飛び、焦りが見えるスケルトンは自ら下に降り、攻撃体制に入る。
だがスケルトンが地面に着くことはなかった。
「相手に余裕がなくなったことを悟られるのは指揮官として失格レベルね」
落下中のスケルトンを剣でバラバラに切り裂くクローゼ。
指揮を取っていたスケルトンがいなくなったことにより、生き残っている三体のデーモンは一斉にクローゼに襲い掛かる。
三体の攻撃を最低限の動きでかわし、即座に反撃を与える。
「デーモンは魔族の中でも力は高い方だけれども、力だけで勝てるほど弱くないのよ、ごめんなさいね」
一瞬でデーモン三体が倒れ死亡する。
「脳と筋があってこそだよね!」
ミルマを睨むクローゼ、しかしそれは一瞬のことですぐに視線は別の場所へと移る。
「お前等!武器を捨てて今すぐ投降せよ!さもなくばこの人間を殺す!」
砦から数匹のゴブリンやオークが人質を取って出てきたのである。
「あら、力で勝てないからってなんて汚い作戦なのかしら」
小声でミルマが話す。
「でもどうするのクローゼ、魔族は殺せても作戦通り人質が殺されちゃったらなんだが悔しいよね」
クローゼは小さく微笑み。
「任せて、アイツ等の言う通りにしてやるわ」
「え?」
人質が叫ぶ。
「た、助けてくれ、まだ砦には人質が!」
「黙れ人間!さあ、どうする小娘共」
クローゼが両手を上げ、人質の首に斧を突き立てているオークの方を見て言う。
「お望み通り武器を捨ててあげるわ」
直後持っていた剣をクローゼはオークに向かって投げる、全力で。
続けて二本の短剣を横に居た二体のゴブリンに投げ、魔族が驚いている様子を見せている間に瞬時に距離を詰めオークの頭に突き刺さった剣を抜き、残った魔族の方に向かおうとしてその動きが止まる。
「私も居るよ~!」
残る魔族は既にミルマが矢を放ち殺していたのである。
これで三度目、解放された砦の兵士達はミルマとクローゼにお礼を言い、今晩の寝床や夕食、携帯食料等をもらいエルモール砦は無事解放された。
翌朝、砦を出発し、中立国の方向へと歩くミルマ達の前に人影が現れる。
「!?ミルマ、私の後ろに!」
常に辺りを警戒しているクローゼが気付かず目の前に現れた人物。
「えっ、クローゼが気配を察知出来ず接近を許す相手……?」
白いマントを羽織った女性が口を開く。
「初めまして、私はマルスプミラ王国の七つの剣の一人、アリュールと申します」
目の前の女性は丁寧な口調でそう話す。
「初めまして、でも王都に引きこもっているはずの国王直属の精鋭部隊の一人が何故こんなところにいるのかしら?」
クローゼは周囲を今まで以上に警戒しながら尋ねる。
「そう警戒しないでくださいますか、私は国王からの命令で貴方達を探していただけですので……」
今まで黙っていたミルマが口を開く。
「王国も魔族を殺すことを決意したのですか?」
「私には何も伝えられてないので分かりません、申し訳ありません」
続けて言う。
「国王が貴方達を王都、いえ王城にて面会を求めております、道はこちらで確保しますのでついてきて下さいますか?」
少し考える素振りを見せたクローゼがもう一人、自分の後ろにいる人物に気付く。
「丁寧な言葉で喋っておきながら最初から拒否させる気なんてないように見えるけど」
後ろにいた鎧を纏った騎士が喋る。
「君達にはおとなしくついてくる以外に道はない、我々の部隊が砦を出た時から君達を包囲しているからな」
「それに、国王の言葉に逆らうという事は立派な反逆罪だ」
ミルマが鎧の騎士の方を向き少し苛立ちが見える表情で言う。
「断ると言ったら強制的に連行出来る事が確定しているようなその言い方、気に食わないんですけど」
「その通りだ、国王はいうことを聞かない場合は多少痛めつけて良いと許可が出ているからな」
クローゼが小さく笑う。
「今まで魔族との共存と言いつつ王都の門を閉ざして怯えていた人間の言葉とは思えないわね」
最初に現れた女性が口を挟む。
「それくらいにして下さいませんでしょうか、きっと私達の目的は同じ方向に向いているはずです、無意味な争いをする必要等ありませんでしょう」
鎧の騎士が大剣を手に持つ。
「いや、今の言葉は我々マルスプミラに対する侮辱行為にあたるな、少し立場を分からせねば国王にどんな行動を取るか分からぬ」
それを見てクローゼも剣を手に取る、が、それをミルマが止める。
「私で十分」
笑顔でクローゼに言う。
「魔族を殲滅するのを邪魔するっていうならたとえ人間でも容赦はしないから」
ミルマの方に向き直り鎧の騎士は言う。
「ふん、そんな弓が通るとでも?」
「言うと思った、もしかして貴方魔族?出てくるセリフが魔族と同程度ですね」
「まるで子供だな」
「そっくりそのままお返ししますね」
ミルマは弓ではなく剣を持ち、二人が向き合う。
「七つの剣が一人、ウルス、参る!」
ウルスと名乗った男が先に地面を蹴り、ミルマに斬りかかる――
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