第一話 復讐のはじまり
「ねえ、ねえってば!」
黒い髪をした少女が言う。
「あ……。もう朝? ごめんね、寝坊しちゃった、おはよう」
もう一人の少女が言う。
「もうっ、今日は大事な日でしょ……」
黒髪の少女はテーブルの上に食器を置きながら言う。
「そうだね、やっと私は止まっていた自分の時間を進めることが出来る、あの日誓った私の夢に、ようやく一歩踏み出せる」
強い決意の目をした少女を黒髪の少女は少し微笑みながら、でも悲しそうにも見える複雑な表情をして見ていた。
「あれ? いい匂い!」
少女は言う。
黒髪の少女はどこか得意げな表情で言う。
「今日はここで食べる最後のご飯だから、今まで作ってるのを見ながら私なりに作ってみたのよ」
料理を並び終えた黒髪の少女にもう一人の少女が言う。
「わぁ! いい匂い、美味しそう! ううん、絶対美味しいに決まってる!」
まだ食べてもいないのに少女は瞳を輝かせながら料理を見てそう言う。それに対して黒髪の少女は、苦笑いをしながら。
「いつもの手伝いと見よう見真似で作ったから先にそんな断言されたらプレッシャーが凄いわね……。まあ喜んでくれてるのならそれは嬉しいけど」
軽く身支度を整えた少女は、嬉しそうに席に座り、再びテーブルを見渡す。大して黒髪の少女は、ゆっくりと彼女の前に座る。
「でもどうして急に朝ご飯を作ってくれようと思ったの?」
「ここで暮らし始めてから出発前にどこかでいつも作ってくれてるお礼にこっそり料理を作って驚かせようと思ってたのよ」
少女は言う。
「お礼だなんて! 剣や弓の扱いを教えてくれて毎日特訓に付き合ってくれて、私の方がお世話になってて、そのお陰で今日ついに外の世界に出れる。感謝しかないよ……」
少女は一拍置いて
「でも、本当に嬉しい。ありがとう!」
黒髪の少女は少し照れくさそうに
「も、もうっ! 冷めちゃうわよ! 早く食べて! お昼前には出発するからね!」
少女は嬉しそうに言う。
「うん! それでは…… あ! さっき最後って言ってたけどこれは最後じゃないよ!絶対に戻ってきて、また二人でご飯食べるんだから!」
黒髪の少女は一瞬驚いた表情をし、その後すぐに笑顔で。
「そうね、絶対に……」
「気を取り直して、それでは……」
「いただきます」
出発前、ここでの最後の朝食が始まった。
朝食を終えた二人は王都マルスプミラの端にある自宅を出て、城門へと向かっていた。
マルスプミラ王国の領土では現在城壁の外では魔族がうろついている。
王都以外の領土内の町や村の大半は魔族に襲われ大半、または全て魔族に支配されていると考えられている。
現在人間側、魔族側の動きがなく実質停戦状態のようになっている為、また、現国王が魔族側に動きが見られない以上相手を刺激するような行為を禁止している為だ。
そんな中、彼女達は三つある城門の内の一つへと移動中である。
勿論城門は全て閉鎖されており、見張りの兵士もいる為現在外に出ることは出来ないようになっている。
「ねえクローゼ、でも本当に城門をくぐり抜けられるの?」
クローゼと呼ばれた黒髪の少女は答える。
「大丈夫、というより城門をくぐれる方法もなく何年もかけてこんな計画しないわ」
「そうだよね、さっすが頼りになるね!」
「でもどうして計画を立て始めた頃からその方法だけは教えてくれなかったの?」
「簡単に抜けられると知ったら一人こっそり抜け出してお城に近い魔族でも襲いそうで怖かったからよ、ミルマちゃんが」
ミルマと呼ばれた少女はすこし不機嫌そうに言う。
「そんなことしないよ! もう、時々私のこと子ども扱いするよね、クローゼは」
ミルマが一拍置いて語る。
「私の夢は城壁周辺の魔族の殲滅なんて小さいことじゃないの知ってるでしょ。私は住んでいた村、村の人々、そして両親を目の前で殺した魔族共を一匹残らず殺すことなんだから」
ミルマの故郷は魔族が襲ってきた際に壊滅させられ、ミルマを除く全ての住人が殺されたのである。
その後目が覚めた時には王都の宿屋のベッドの上で、その部屋にはクローゼが居て、倒れていたから助けた、と言われ村は壊滅状態で他に生き残りは居なかった……と言われ自分だけが生き残ってしまったことを知り、いつか王都を出て復讐を果たすことを決め、偶然にも武術が得意なクローゼに無理やり弟子入りし、今に至る。
「最後にもう一度だけ確認しておくわね。城門を出ることは王国に対する反逆行為であって、外に出たが最後、もう戻れないし、魔族を殺そうものなら倒しきるその日まで永遠に狙われ続けることになる。確実な食糧や水の確保も出来るかわからない、本当にそれでもやるのよね?」
ミルマは即答する。
「勿論、それが私の生きる理由だから」
「そう……ならもう止めるようなことはしない、必ず生きて帰りましょ」
クローゼが立ち止まる。
「ここよ、実はここの城壁、壊れてるの」
城門から少し離れた人気のない場所、丸太が積まれた場所を指す。
「え?城壁が?」
ミルマは積まれた丸太を音を立てないよう一つずつどかしていく。
すると地面を這いずるように行けば通れる程度の穴が空いていた。
「わ!凄い、こんなこと良く知ってたね」
「ミルマを抱えながら王都に逃げ込んだ時外から見たらここの城壁が壊れているのを偶然発見したのよ、丸太は私が置いたんだけどね」
「なるほど、そんな状況下なのに冷静かつ視野が広くて凄いね、やっぱりクローゼとなら私の夢叶えられそう」
「そのフラグみたいなのやめて、さあ見つからないうちに行くわよ」
城壁の穴を潜り、ついに二人は襲撃以降誰一人出たことのない外の世界へと出る――
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