第70話門を抜けた先は、三途の川?
チェリオ市から徒歩20分の位置にある湖のほとり。
門を開き終え、佳大の帰還を待っていたジャック達は、帰ってきた佳大を見て目を瞠った。
濃厚な血の臭い、そして体力の消耗。佳大の履いていたパンツは、左足だけ大胆に切り取られている。
クリスを両手に抱えて空から現れた佳大に、ナイが真っ先に近づいた。
拳大の石を等間隔に埋め、その内側に門が創造されている。
これを通り抜ける場合は、門の創造に消費した量と同じ量の魔力を必要とする。
支払うのは、石のサークルの中に転がされた、簀巻きの青年。
「おやおや、どうなさいました?左足が随分とお洒落になっていますが」
「遅かったな」
「そう?」
佳大はクリスをそっと横たえると黒雲から着替えを取り出し、下を履き替える。
その作業と並行して、浩之と出会ってから此処に至るまでの経緯を語って聞かせた。
「よく連れ帰る気になったな」
「うん……友達だからな!喧嘩だって一度や二度するでしょ」
「足を喰われるのは喧嘩の度を超えてるだろ……起きたらどうするんだ?」
「今まで通りだけど。クリスはちょっと辛いかもしれないけど」
佳大は右足の脛当を外し、ジャックに渡す。
「これ、魔術で変えちゃってくれ。片方だけ着けてても仕方ないし」
「あぁ、器物変性(ファンブリング)。……戦士の薬か、悪くない」
脛当は銀の小瓶に変化した。
ジャックは中身を確かめると、満足そうに口元を綻ばせる。
「戦士の薬?」
「死や敵に対する恐怖感を、一時的に取り除く薬だ。錯乱した者に与えれば、精神に安定を取り戻すそうだ」
ジャックから小瓶を受け取り、黒雲にしまうとクリスを再び抱えた。彼はまだ目を覚まさない。
「それでは皆さん、準備はよろしいですか?」
ナイが呼びかけると、彼らは紅衣の神父の側に寄る。
佳大一行は門を通過。5名が姿を消し、後には大量の魔力を抜き取られた簀巻きの青年が残された。
手足を縛られ、猿轡を噛まされた彼は気を失っており、近くを通りがかった者がいないなら、飢え死にするかもしれないだろう。
門を通過する佳大から見ると、万華鏡が動くように景色が変化したように見えた。
景色の変化が止むと、佳大達は困惑の只中に放り込まれる。岩ばかりの地面は節くれ、頭上には光源の不明瞭な紫の空が広がる。
5名のすぐ前には、黒い葉をつけた背の高い木が壁のように並んでいる。枝は垂直に伸びており、火柱のようだ。
「なんだここ…」
「前に何かいるぞ。遠くの方と、近くの方」
佳大は自信なさそうに言う。
「動物か?」
「いや、違うと思う――何か来る!」
黒いポプラの森を突っ切って、巨大なものが佳大達の前に現れた。
三つの首を持つ、耳障りな声で鳴く巨大な犬。佳大はケルベロスを連想する。
体高が佳大の2倍近くあるケルベロスを見るや否や、クリスを右手に出現させた黒雲に放り捨てた。
後退するパーティーをよそに、佳大は完全な鬼に変化。その身長はケルベロスと同程度になる。
噛みついてきた犬の頭のうち、左右の2つを掴む。
指を喰い込ませたまま、腕を動かし、ケルベロスの身体を引き裂いた。
左右の肉が音を立ててちぎれた瞬間、真ん中の首が飛び掛かり、柿色の鬼の肩に食らいつく。
しかし、その皮膚は強靭で、牙は皮膚をたわませるだけだ。煩わしそうに真ん中の首を掴み、無造作に放り捨てる。
「こいつは、……ケルベロスか?」
「あぁ、冥界の番犬だ…」
佳大は変身を解く事なく、体格を等身大に縮めた。
他にあての無かった一行は、黒いポプラの森の中に足を踏み入れた。
左右に立ち並ぶ木以外に、行く手を阻むものはない。森を抜けると平野に出た。
数十mほどの高水敷の向こうの川べりは人々がごった返しており、白髪の老人が一艘の船を、オール一本で力強く漕いでいる。
水平線の向こうに小さく、向こう岸が広がっている。佳大が見た中で、これほど大きな川は記憶にない。
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