第29話 結界士と、結界破壊魔法の対抗戦 -感動

『風よ、彼方より(と)く集いて風の渦を成し、我らが敵打ちらん。ウィンド・ストーム』

 唱えられた魔法が、次々と障害となっている色の付いた結界を打ち破っていく。


 本来は透明であり、そこに結界があることを想定させないものだが、この魔法のために設定されていた。その色つき結界も気象魔法士ウェザード(俺)の発案だ。


 結界士にとって、誰の結界が破られたのかによって敵や魔物の襲来を判断するときの材料に出来ると、シュッキン・ポゥが驚いた目をしていたのが記憶に新しい。

 今回は、最後の一枚にある仕掛けを施してある。みんなが驚くのが楽しみなヤツだな。


『風よ、彼方より集いてあの時に風の渦を成し自分たちの我らが敵に放った魔法打ちかからんとよく似たウィンド・ストーム詠唱』をほんの少し手直ししただけの魔法。応用、もしくはセンスというもの、か?


 俺たちは気象魔法士ウェザード(彼)の使う魔法と違って、あまりにも素直な魔法しか使っていなかったんだと、思い知らされた。


 彼の考えたこの魔法は、一人の魔法士を核にして同じイメージを持つ五人ずつが纏まり、ガトリング手回し砲のように魔法の発動をずらしながら、発射していくもの。

 しかもそのトリガーを握るのは核の一人だけ、四〇人が五人ずつに分かれ、八本の砲身を形作る。簡単で明確で且つ、実に強力な魔法だ。


 一から八までの砲身用魔法士群が逐次、魔法を供給充填し、発射することが出来る。

 一は撃ったらすぐに魔法を充填に掛かり、八が撃つ頃には、ほぼ全力にすることが出来た。それは遠い敵なら、一本でも迎撃可能という事だった。

 ただ、そのトリガーを任される魔法士には、ある種の技術スキルが必要とのことで、それだけは気象魔法士ウェザード(彼)は明かしてくれなかった。


「あの強固な結界を破っていくとは、さすがにガルバドスン魔法学院の伝説保持者ですね。」

 見学にきていた周辺各国の関係者たちが集う場所で、感嘆の声を上げる王族。

 それに頷いている人物は、今更のように蒼くなっていた。

『こ、こんな力が我が国に向かったら……』と、思わないでもないがそれでも結界は最後の一枚で結構こらえている。あの術式は公開してほしいな、とも思っていた。


『あんな力があったのなら辞職願を受理するのではなかった……』という悔恨の念があちこちから立ち上っている。もっとも受理したのは自国の王や宰相であるから、仕方のないことではある。

 もしも自分たちがその力を見抜けていたら、あるいは自分たちの傘下に収めることが出来たのではないかとも思ってしまうのだろう。


 だが、彼ら若き魔法士とて自分たちが放つ魔法の強力なことに、戸惑いを隠せなかったのである。わずか五文字の変更でここまで劇的に変わるなんて、一体誰が信じるというのか?

 だから、彼らは知りたくなった。深く深く、自分たちよりも幼いのに、魔法に対しての薫陶くんとうの深さに驚きつつも、学び直したくなったのだ。

 彼と一緒に。


 彼=気象魔法士の図式を聞かされてから、一人の少女は即座に、自分の身の振り方を決めてしまった。気象魔法士ウェザードの彼が何を言おうとも、耳に入れようともしない。


「イクヨ、もう一度よく考えてごらんよ? 君はもう国に仕えている。それを、…………………分かったよ、もう……」

 翻意を促そうとして少女の瞳を見た瞬間に諦めて受け入れることにした。それくらいの情熱が燃えさかっていた。


「みんなが所属している国に対して、どんな働きかけをするのが一番いいんだろうか?」

 そう、挙げ句の果てにシュッキン・ポゥを筆頭に、シャイナー、ヒリュキはもちろんのこと、ルナと四〇人の盗賊、じゃなかった四〇人の同族。確実に特別クラス入り決定だな。


馬鹿な貴族どもこいつらの使い道は決定したようだし、魔法学院の方には「工事」で済むんじゃ無いか?」

 そう結論を出したのは、魔王。皇帝も王子も宰相も同様に頷いている。


「それにこの近隣の国々で一番欲しいものは、お前が既に握っているだろう?」

 どっちに転んでも気象魔法士ウェザード(俺)の負担が大きいな。あ、こいつらにも言質げんちだけは取っておかなくては、万が一のこともあるからな。

「お前たちもこの賭けに乗るんだから、力だけは貸せよ?」

「分かってるさ、お前だけで済むことでもあるまい?」


「留守はお任せください」

 そう言った者がいた。タク・トゥルだ、何を言っているのだ、彼は?


「は? 留守って何のことだ?」


「既に結界は解けております。盗賊どもや、公爵や伯爵などの高位の貴族どもにいいようにさせる気は、わたくしには毛頭ありません。この城で出来る限りのことをして、あなた様のお帰りをお待ちいたしております。」

 事ここに至って、彼は最初から俺に付いてくるつもりだったことを認識した。何故、そこまでの思い入れを彼は成したというのか?

 その問いにはタク・トゥル自らが話してくれた。


「最初は本当にエテルナにひと目だけでもという思いからヒリュキ様の思いとあなた様のお力で、もしかしたらという思いとともに参りました。ですが、あなた様は一緒にいるわたくしを受け入れてくださった。そして、本当にルナとパットにもう一度会えた、その感動は言葉にはなりません。シャレー・ド・レシャード殿が、怪我を治してすぐに光り輝く扉に吸い込まれたという現象からのち、消息が不明になっているため、ルナの、復縁もままなりませんし、ルナの気持ち次第です、ここから先は………。何より、今は側に付いていてやりたい。既にコロナ王より、許しは得ています。」


「わ、分かった。」

 そう頷く以外に俺に何が出来ただろう。

「一つ、ルナが望むときは魔法学院への道を開いてくだされ。あれも、今では性急すぎたことを悔いているかも知れません。パトリシアはヒリュキ様と一緒でしょうし……。」


「では、たまに抜け出してくるから、ディノとともに城の外壁の修理を頼む。あの時、助けた者たちで残っている者も多い、仕事を与えてやってくれ。ひとまずは、国民希望者の名前と住む場所、何が出来るかの覚え書きがほしいかな?」

 親父の国であったところだけど、復興ではなく、建国になった。出来過ぎの宰相が就任した、最初の宰相だ。しかし、何故、こうなった?


 対価をくれとは言ったが、そんなところからここまでの大ごとになるなんて、思いもしなかったよ。既に、過大な責任が発生している。


 パ……キィン

その時、手に持っていた魔銀ミスリルが音を発した。


「ああ今、最後の結界が破られるのか……。さてさて、作動するかな?」


「「「「おおおおおおおおおおお……………、…………わぁぁぁぁあああああ!」」」」

 結界の最後に仕掛けたそれは。うまく、作動したようだ。


 パレットリア新国の城を結界の核としては、いなかった。が、最後の結界を破壊したとき、その魔法の効果である風を利用し、城の結界とシュッキン・ポゥの最後の結界の中に溜めていた大量の水を吹き飛ばさせた。


 さて、何が起きたかな? 

















 新しい国の前途を証明するかのような幻想的な光景二重の虹と、近隣の国に対しては恵みの雨ともなったであろう水の散布。今回は、強引な力業ちからわざではあったけど、大量の水を用意できることを内外に示すには丁度いいデモンストレーションになったかな?


 二年後には、魔法学院での工事が始まる。必要な人員も確保したし、後はそれまでに「工事」しなければならないところが増えた。あの馬鹿どもだけでは足りなかったようだ。

 親父が嬉々として受注しまくっていたからな。

 一緒に魔法学院での「工事」をするためにも。


「お前ら、当てにしてんだ、魔法力ちからぁ貸せよ!」

「「「「「「「「「「イエッサー!」」」」」」」」」」






















「………、という訳だけど。ユージュ、お前はどうする?」

 しばらくぶりに、ユージュの部屋に行くと、ふて寝してました。まだ一歳なだけに無理は禁物なのだが、ヒリュキの方は連れ回していた思いがあるだけに心苦しいものがあった。


「もちろん、一緒に行きますが、あの話は本当なんですか?」

「話? 本当? 何のことだ?」

「旧タクラム・ガン国の委譲のことですよ。ヒリュキ親父が話してくれましたから。」

 あちゃあ、話してしまったのか? 


「ああ、貰った。工事完了しないと、な。対価としてのものだから、手も付けられねぇ。まぁ、ディノが手伝ってくれるから、だいぶ早くなるとは思うが完了次第、領地として整備していかなければならないがね」

 魔王の国、タクラム・チューの国、スクーワトルアの国と指折り数えて、気が遠くなる。 それに、魔法学院の件もあったなぁ。あと二年しかないから、これでは怠けることも出来ねぇなぁ。




























 二年後、魔法学院に「工事」に行った人員は、次の通り。


 工事責任者にセトラ

 柱や壁の内部構造確認にヒリュキ。

 振動によるヒビなどの確認にパトリシア。

 結界によるサイレント効果にシュッキン・ポゥ。

 魔力タンクに魔王、シャイナー。

 工事用掘削に風、土、などの魔法士統括にルナ。

 風主任ユージュ。特例で試験資格を得たが、俺たちを除いた中では最高位をマーク。

 雨班長コヨミ。普通校ノーマルからの編入。

 連絡班班長プ・リウス。初等部。

 連絡班次長プ・リメラ。初等部。

 以下、各班所属の人員が四〇名。それぞれに目的を持ちながらの「工事」を開始した。

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