第7話 ネクロマンサー

 シナアちゃんと協力して遺跡の入り口付近にあった石碑を動かしたらその下から地下へと続く階段が出てきた。

 シナアちゃんはかなり表情を曇らせて鼻を塞いでいる。

 私にはシナアちゃんみたいに臭いで判断することはできないが、この階段の下からただならぬ気配を感じる。

 間違いなく強い魔物がいるだろう。


「大丈夫シナアちゃん? この下から臭いがする?」

「くさい。たぶんすごい数のゾンビがいると思う。」


 シナアちゃんにタオルを渡し、鼻と口を覆うように結ぶ。

 あまり効果はないかもしれないが、即席のマスクだ。

 今後は、道具屋でマスクも買わなきゃいけないな。


 シナアちゃんの準備も完了し、満を持して階段を下りていく。

 階段は螺旋状になっていて結構下まで続いているようだ。


 階段を下まで降り切ると、そこには地下墓地が広がっていた。

 ここまで来ると私にも分かるくらいひどい臭いが充満している。


 だが、臭いの主はこの部屋にはいない。

 おそらく地下墓地の中央の部屋に集まっているのではないかと推測して、探索をすることにした。

 ここまで臭いが充満しているとシナアちゃんの鼻も頼りにできない、というか早いところ目的を達成してここから出ないと死んでしまうんじゃないかと心配になるような表情をしている。


 この地下墓地には見渡す限り、かなりの数の墓石があることからゾンビも相当いるだろうな。

 数百体は下らないだろう。


 こんな状況じゃなかったら、もっとじっくりと見て回りたいなと思わせるくらい壁には装飾が施されていたり、石碑などに古代の文字などが記されていたりする。

 歴史を紐解く上で重要な施設であることは素人の私からでも分かる。

 もしここに歴史学者がいれば飛び跳ねて喜ぶだろう。

 いや、ゾンビやミイラの中に歴史的偉人がいる、だから倒さないでとか言われてしまうかもしれないな。

 しばらく会っていない自分の友人のことを思い出しながら、フッと笑みがこぼれてしまった。

 

 もっと緊張感を持たないと、ピシャリと自分の頬を叩き気を引き締める。

 倒すべきターゲットはもうすぐそこだ。


 そして、おそらく地下墓地の中心に当たる部屋に辿り着いた。

 予想通りかなりの数のゾンビがひしめき合っている。

 巨大な空間の中心に台のようなものが据えられていることから、この部屋はかつて祭壇として使われていたのだろう。

 

 台の傍にゾンビやミイラとは違う魔物がいる。

 あいつが今回のターゲットでまず間違いない。

 そして、この数の死霊たちを率いることができるということは強い魔力を秘めているのだろう。


 この数の敵に対して奇襲などの小細工は通用しないだろう。

 強引にでも力で押し切るしかない。

 シナアちゃんと二人で飛び出すタイミングを計っていると、


『待ちわびたぞ、お客人。隠れていないで出てきたらどうだ?宴を始めよう』


 ターゲットである魔物が話しかけてきた!?

 我々の言語を駆使する魔物だと!?


『どうした、人間よ? 我が貴様たちの言語を発するのがそんなにも信じられないか? 我の名はネクロマンサー。さあ、姿を現すがいい人間よ』


 完全に場所がばれているようだ。

 感知系の魔法でも展開していたのだろうか。

 いや、そんなことを考えていても仕方がない。

 こうなれば、やつの眼前に出ていかざるを得ないな。


「勘がいいみたいね、ネクロマンサー殿。私は冒険者のソレイユ。」

『おや、お客人は貴様一人かな。』

「そうだ」

『ふむ……まあよい。よく来たなソレイユとやら。何用でここへ来たのか、用件を聞こうじゃないか。』

「聞かなくても分かってるんじゃない? あんたが呼び起こしてるゾンビやミイラに困ってるのよ。何とかしてくれない?」

『口の利き方が成っていないようだ。もっと殊勝にお願いしたらどうだ?』

「これは失礼。まさか魔物に説教される日が来るなんて。どうせ、お願いしたって引き上げる気はないんでしょう?」

『もちろんだ。』

「なら、実力で排除するまでよ!」


 ズシャ


 携えている剣を引き抜き、近くにいたゾンビを切り伏せる。

 一体また一体と切り伏せていく。

 上の階にいたゾンビよりも体が硬い。

 ネクロマンサーに強化された精鋭ゾンビなのだろう。


 ゾンビもただやられるだけじゃなく、大挙して押しかけてきており、徐々に後退させられる。


『どうした? 苦戦しているな? 上の階で使っていた魔法を使ったらどうだ?』

「進言ありがとう。でもあんたが罠を仕掛けてることくらいは私でも分かるわよ」

『ただの脳筋ではないのだな』

「馬鹿にして!」


 魔物に説教された上に馬鹿にされるなんて!

 イライラしてはダメよソレイユ。

 このままじゃあいつの思う壺だ。


 確かに上の階で使った『ホーリー』の魔法を使えばこの部屋のゾンビたちを消し去ることも可能だろうが、この地下墓地には何らかのトラップが仕掛けられていて、私の魔法発動がキーになっていることは予想がつく。

 これだから魔法使い相手は嫌いなのよ!


 その後も地道にゾンビを切りつけるが、ジリ貧だ。

 倒れたゾンビをネクロマンサーが蘇生する。

 もっと粉々にしないといけないが、本気で剣を振れば地下墓地が崩落してしまうおそれがある。

 私だけならそれでも大丈夫なんだけどシナアちゃんが……。


 そういえばシナアちゃんは大丈夫だろうか?

 私がネクロマンサーの前に出るときに、隠れているように言ったんだけど。







 ご主人様に隠れているように言われたからどこかに隠れなきゃ。

 その一心で地下墓地を歩き回る。

 それにしてもいろんな部屋があってまるで迷路の様だ。


 どこに隠れようかな。

 

 部屋を見て回っても墓石ばかりで隠れられるところがない。

 棺桶に入るのは嫌だし……。


 そうしてしばらくウロチョロすると仰々しい大扉の部屋についた。

 この中なら隠れられそうだ。


 しかし、扉は閉ざされており開く気配がない。

 入れるところがないか見回してみると、大扉の上の方に小窓のようなものが見えた。

 扉の装飾を足掛かりにすれば登れるかも。

 思った通り簡単に上ることに成功し、小窓から中に入る。


 部屋の中心には宝箱が置かれている。

 宝箱以外にもキラキラと輝く財宝が置いてあることからここは財宝庫なのだろう。


 宝箱を見つけたら開けたくなってしまうものだ。


 パカッ


 宝箱の中には一振りの短剣が収められていた。

 興味本位でその短剣を掴んでみると、ビックリするほど手に馴染んだ。

 そして頭に情報が流れ込んでくる。


 この短剣の名前はアンサラー。

 どのような呪縛をも断ち切ることができる能力を持つ。


 凄いものを手に入れてしまったようだ。

 呪縛を断ち切る力……。







 おそるべき力を秘めた一振りを片手にシナアはソレイユのもとへと駆けていくのだった。

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