第9話 ゴブリンの群れ

 ロゼの地雷魔法により一匹のゴブリンを撃退することに成功した三人。

 しかし、その夜はそれ以上何も起こることはなかった。

 そのため、朝を迎え村人たちが活動し始めたころ、シルトたちは改めて作戦を立てることにした。


「結局夜のうちに何かが起こるってことはなかったな」

「そうね、ただ今夜以降に群れで攻めてくることは充分考えられるわ」

「村長さんとも話しをした方がいいね。村に被害が出てしまったら元も子もないから」


 リヒトの提案通り村長と話しをすることにした。

 ゴブリンの群れに関する情報が聞けるかもしれないからだ。

 三人が村長の家に着くと村長は快く家に上げてくれた。


「冒険者様、昨夜は爆発音のような音がしておりましたが、ゴブリンを撃退してくれたんですかな?」

「仕掛けておいた罠にゴブリンが一匹掛かったので、一匹は倒すことができましたがこれで最後というのは早計過ぎるかと思いまして、お話しを伺おうと思い足を運びました。」

「村長さん。騎士がこの村を守っていたときはどれくらいゴブリンが攻めてきてましたか?」


 シルトたちが来る前、この村は王国騎士により警護されていたのだが、今は別件で村を離れてしまっている。

 その頃のゴブリンたちの動向から何か新しい情報が得られないかと考えたのだ。


「そうですな~騎士様は日に数匹ゴブリンが出てくれば多い方だと言っておりました」

「なるほど、と言うことはやはり複数のゴブリンが群れを作っていると考えるのが妥当なんだけど……」

「群れ全体で襲ってこないのが不自然、だよな。」


 ゴブリンは知能が高い魔物であるため斥候を出して偵察させることもあるらしいが、騎士がこの村を守っていたころを含めると、もう一週間以上少数だけが送り込まれていることになる。

 これは自らの戦力を下げているだけであり、明らかに不自然な行動なのは間違いない。

 やはり何か目的があるのだろうか。

 そう推測するのが妥当であった。


「ですが、やはり冒険者様に依頼して良かった。私たちでは例えゴブリン一匹でも倒せないでしょうからな。依頼の護衛は後3日程ですのでどうかよろしくお願いします。」


 村長はシルトたちに頭を下げる。

 今回シルトたちが引き受けた依頼は4日間村を護衛するというものである。

 村長の話しから察するに4日経てば騎士が村に戻ってくるということだろう。

 要は騎士がいない間の繋ぎということだ。

 村長からはこれ以上新しい話しが聞けなさそうなので三人は村長の家を後にすることにした。

 村長の家を出た三人は村の警護をしながら村の中を見て回ることにした。

 昨日は罠の設置などで村の施設などはほとんど見て回ることが出来なかったからだ。

 この村はそこまでの広さはないものの、いくつかの商店が立ち並ぶ活気ある村である。

 その理由というのも、アンファングの街と王都を結ぶ街道に立地しているため、それなりに交通があり、人が立ち寄ることも多いからである。


「アンファングの街からすれば小さいけど、この村も結構活気があるいいところだよな!」

「まあ私たちにはアンファングの街が広すぎるのよ。辺境の地で育ったんだから」


 三人は雑談を交わしながら村の散策を行い、食事を取ったりお店を覗いたりして時間を過ごした。

 そんなにのんびりしていて良いのかと思うかもしれないが、魔物は夜間に活発になる傾向がある。

 それは魔物たちの住む領域である魔界が闇に覆われた土地だからではないかという仮説が立てられているが解明はされていない。

 それに、ゴブリンは知能が高いのでわざわざ人が多い時間を狙うことは少ないというデータも出ているらしい。

 不意打ちや闇討ちを得意とする魔物なのだ。

 何とも姑息というか狡賢い魔物なのだろうか。

 そのため日中は気を引き締めすぎるのも逆に良くない。

 気を抜けという訳ではないが休めるときは休むというのも大切なことだ。


 結局、日中にゴブリンは姿を現すことはなかった。

 日が沈み始めたころ三人は宿に戻り、夜の護衛について話し合いを行った。

 全員が徹夜で護衛するのは明日以降に響くため、交代で休憩することにした。

 一人で見回るのは限界があるため、二人で見回りを行い一人が休憩を取るということで話しが纏まったようだ。

 じゃんけんの結果、最初はロゼが休憩を取ることに決まり、シルトとリヒトは夜の帳が下り始めた村へと出ていった。


「今日はゴブリンどうなんだろう? 群れで襲ってくるのかな?」

「何とも言えねえな~ゴブリンの考えることは分かんないしな」

「そうだよね……」

「あんまり考え過ぎるなよ、リヒト。今のところはゴブリンの群れが近くで動いてる形跡はない。群れで動けば早めに感知することもできるからさ、対策通りに行動すれば大丈夫だよ!」


 ゴブリンのことについて話しをしながらシルトとリヒトは村を見て回る。

 今のところは村に異常はなくゴブリンが出てくる気配もない。


 そのままゴブリンに遭遇することなく見回りの交代時間になった。

 次の休憩はリヒトの番だ。

 一旦宿屋に戻るとシルトはロゼと共に夜の村へと向かった。


「私が休憩している間にゴブリンは出なかったみたいね」

「平和な村そのものだったぜ! このまま何もなければいいんだけどな」

「そうね、私たちの考え過ぎっていうだけで群れなんて存在しなければいいんだけど」


 本当に実在するのかも分からないゴブリンの群れに不安を抱きつつも、二人は警戒を続ける。

 この時間にもなると外を歩く村人もおらず、昼の活気が嘘のように静まり返っている。

 そうしてただただ静かな村を警戒し続けて、交代の時間を迎えた。

 その後ロゼとリヒトが村を見回るもゴブリンは現れず、結局この日は一匹もゴブリンが現れなかった。


 朝を迎え村が徐々に活気に包まれ始める。

 シルトたち三人は昨日の報告をするために村長宅を訪れた。


「ではゴブリンは一匹も出なかったということですか。良かった良かった。魔物が出ないというのが一番いいですからな」


 三人の報告を聞き、ゴブリンが現れなかったことを知ると、村長は安堵の声を上げる。


「このまま何もないまま平穏な日々に戻ればよいのですが……何はともあれ、残り二日よろしくお願いします。」


 村長への報告を終え、昨日と同じように村で時間を過ごした三人。

 夜になると交代で見回りを行うが、この日もゴブリンが現れることはなかった。


 やはりゴブリンの群れなどいないのだろうか、罠に掛かったゴブリンが最後の一匹なのだろうか、という考えが浮かび始める。


 朝になり恒例となった村長への報告を済ませる。


「今日で依頼も終わりだな! やっぱり考え過ぎだったみたいだな」

「……本当にそうなのかしら。」

「悩み過ぎても良くないよ、ロゼ姉。」

「ロゼが仕掛けた地雷にビビッて逃げちまったんじゃないか?」

「そんなわけないでしょ。」

「まあ、何にせよ今日一日頑張るだけだ!」


 気を引き締め三人は最後の一日を過ごす。

 この日も日中は何の問題もなく夜を迎えた。


 最後の一日ということと、ロゼの希望もあり三人で見回りをすることにした。


「ロゼ、心配しすぎじゃねーの? 周囲に群れの気配は無かったぜ」

「今日くらい徹夜でも耐えられるでしょ。警戒し過ぎるくらいでいいのよ。」


 三人は警戒を続けるが、全くゴブリンの気配はない。

 そうして月も天高く昇り、次の朝を迎えるために傾き始める頃。

 村を妙な気配が包み始める。


「何か感じるわ。これは……魔力?」


 三人の中で最も魔法に長けるロゼが魔力を感知した。

 そしてしばらくして、


「俺にも分かるぞ!? なんだこの魔力!」

「僕にも分かるよ。とても不気味な魔力だ」


 シルトやリヒトにも感知できるほど濃い魔力が満ち溢れ始めた。

 そして、


 シュゥゥゥン


 何かが通り抜けるような音がしたかと思えば、村は数十匹、いや数百匹はいるゴブリンの大軍勢に囲まれることとなった。

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