第10話 紅色の夜③
紅は腕っぷしに自信があった。
手段を選ばなければ、自分よりも上背がある相手にだって負けたことはなかったし、戦闘奴隷になってからの模擬戦でもそこそこ良い成績を残してきた。
いいとこのお坊ちゃんである看守長が、自分の威嚇を前にニヤつき出したのには驚いたが、どうせ虚勢を張っているのだろう。
腕も胴も自分と同じくらいの太さしかないいかにも貧弱そうな相手だ、腹に一発入れてやればすぐに泣きだすに決まっている。
ついでに日頃のスパルタへの鬱憤も晴らしてやろうと、手加減しないことを決めた紅は、看守長が目を逸らした隙をついて一気に詰め寄り、こぶしを打ち出した。
「っ痛」
ドスンと、背中を固いものに打ち付けた衝撃に、紅は思わず声を上げた。すぐにももの辺りに重さを感じ、体を動かせなくなる。
紅の上には看守が馬乗りになっていた。
「くっそ!どきやがれ!」
イラつくほど整った顔が目の前にある。ひっかいてやろうとしたが、両手とも押さえつけられているらしくびくともしない。もう少し近ければ噛みついてやるところだったのに、それを見越してか絶妙な距離にいやがる。
「まるで野良犬だな」
薄ら笑いを浮かべながら看守長が口を開く。
「兄の方はもっとしおらしかったぞ」
「てめぇ・・・!兄貴に何しやがったこのくず野郎!」
軽く押さえつけているように見えるのに、全力でもがいても一切緩まない。温室育ちのお坊ちゃまだと思っていたが、見立てが甘かったようだ。
「放っせ!放せよこの野郎!」
暴れまわっていると次第に息が切れてくる。そのタイミングを見計らったように看守長がまた口を開いた。
「少しは落ち着いたらどうだ」
「うるせぇこのドクズ!面の作りがいいからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「それは誉め言葉として受け取っておこう」
「違えよ!頭沸いてんじゃねぇか!」
意地の悪い笑顔の看守長は、器用にも片手で紅の両腕を拘束しているらしく、空いた手がゆっくりと服の中へ侵入してくる。
「触んじゃねぇ変態!」
手慣れた様子で腹を撫でる手は、少しずつ上へと向かう。
身をよじってかわすこともできないのも腹立たしいが、何よりもむかつくのは看守長のニヤけた面だ。加虐嗜好というはた迷惑な趣味があることは知っていたが、その被害に遭うとは思っていなかった。
看守長の手の動きに合わせて紅の服はゆっくりとまくり上がり、肌があらわになっていく。
「触んなって言ってんだろ!やめろ馬鹿!」
その夜、初めて兄に言えない秘密ができてしまったことを、紅はずいぶん後になってから後悔することになる。
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