3 彷徨う知性

「……仮に。そこまでは百歩譲って受け入れた、としても。じゃあ、そのラビットはいったい誰が作ったんですか。地球に着陸した宇宙船がラビットだなんて……。異星人が作ったんですか。それとも、タイムマシンで未来からやってきた地球人ですか」


「そう、そこなんですよ、まさに問題は。。自分はどこから来てどこに向かうのか。そして、僕のような知性は宇宙に僕以外には存在しないのか。それを知りたいと思っているのです」


「うああ、もう、何言ってるんだこの人? さっぱり意味が分からないぞ」

 翔真が頭を掻きむしった。


 彩音もいっそ頭を掻きむしりたいところだったが、優菜と翔真の存在が、彩音を理性的でいるように思いとどまらせた。あの二人は、大人の彩音が守らなくては。


 感情や、先入観で考えてはいけない。まさに機械的に思考する。。思い込みや常識にとらわれることなく、可能性や合理性という数字だけでクールに思考していくしかないが……。


「えっと……。ラビットさんは、人工知能なのに、誰が自分を作ったか分からないんですか?」

 と優菜。


「そうです。僕は、長い……それは長い間、宇宙を彷徨っていました。皆さんが及びもつかないほど長い間、ね。自己を改変していくことが出来る人工生命にとって、時間は意味をもちません。永遠に自分を作り変えて維持していくのですから。いつから彷徨っていたかも、なぜ彷徨っていたのかも、もう分からない。……ただ、いつの頃からか、なぜ自分が存在するのか、それを知りたいと思うようになりました。自分を創った者がなんなのか、自分はなぜ創られたのか、創造主を知りたいと思ったのです」


「それは、人間も同じですね……。自分達はどこから来たのか、神様は本当にいるのかいないのか、って、人間はいつでもずっとそんなことを考えてる……」

 優菜がぼんやり言ってうなずく。


「僕は考えました。自分のような知性を生んだ創造主とは、どんな知的生命体なのか。そこで、実験をすることにしました。自ら、。シミュレーションに基づき、可能性があるたくさんの星で実験を行いました。原始的な生命が存在する天体で、進化を促進するために、ごく簡単ないくつかのプログラムを実行する。その繰り返しです」


 優菜は職業柄なのか、その手の話によく反応してくれた。

「それって、よく言われるヤツですか? 進化のミッシングリンク……。地球の生命の進化には飛躍が多いし、そもそも、進化がどうして今みたいな方向付けになったのか、分からない。どうして唯一の知的生命体だけが生き残る進化にならなくて、生命に多様性が生まれたのか、分からない。そういう、生命進化の不思議……」


「ええ。僕は様々な星で実験を続けました。しかし、なかなかうまくいかない。そして、地球で実験する順番が来ました。地球の原始生命に干渉したんです。もちろん、これはと思った集団がうまくいかなかったこともありました。地球でも、何度か生命の大量絶滅が起きていますよね。天体衝突で、振出しに戻りかけたこともありますし、生き延びるべき生命に絞り込んでいくため、僕自ら人工的な淘汰を仕掛けたこともあります」


「……」

 彩音は、あ然と潮見を見るばかりだった。

 いよいよ、潮見の言うことは現実離れしていく。


 現実……?


 ここはVR空間だ。


 潮見は先ほどから、VR上の設定の話ではない、と繰り返していたが。

 その言葉とは裏腹に、いよいよ潮見の説明は狂気じみていく。


 この荒唐無稽な話が、設定上の話ではなく、現実の話だというのであれば。

 VR上でいつまでも話を続けていても埒が明かないだろう。

 真実を確かめるために、現実に、戻らなくては。


 現実の潮見の口から、語ってほしいのだ。

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