7 発電所

「それで…。インフラってまとめて言っちゃいましたけど、この島の電気や資源はどうなっているんですか。いずれ教えていただけるというお話でしたよね」

 彩音は問いかけを続けた。疑問に思えることはすべて潮見から訊き出したくなっていた。


「電気は自給です。あそこは発電所と称していますが、ベースを地下休火山の地熱とし、火力、水力、風力、太陽光、潮汐力と、あらゆるリソースを複合させた設備です。智峰では、必要な電気を発電するという発想ではなく、供給できる電気量に合わせて生活するようにしています」


「リソースに合わせた社会設計になっているということですか?」

「そうです。お気付きですか? すべての建物に太陽光発電システムがあり、ささやかなものであっても水の流れや潮汐が起こる場所には小型発電装置が設けられています」


「身の丈に合った設備……」

「お、それはいい表現ですね、彩音さん。そうなんです。智峰では何事も一極集中型ではなく、分散型、自給自足型ですね。発電所が担うのは主に公共施設の電力と、大規模な消費へのサブ的な役目。したがって、重要な施設ではありますが、発電所がダウンしたところで智峰島の機能そのものにはあまり影響はありません。ガスやオイルは必要な程度に輸入しますが、車もすべて電気自動車ですし、特定の資源への依存性はないですね」


「分散型……。でも、一極集中している機能がありますよね」

「鋭い。そうです、ラビットです。ラビットは唯一無二、ラビットのすべてをバックアップするようなものはありません。だからこそ、ラビットを取り巻くセキュリティ対策には、厚みを持たせているわけですが……」


「ずっと疑問でしたけど、ラビットの冷却はどうしているんですか? 少なくとも私が朝凪館で見たインターフェイス設備は、従来のコンピュータの設計でした。あれだけでも相当の冷却設備が必要なはずです。それが智峰の生命線になるなら、なおさら。そういえば、海水で水冷と言ってましたけど、真水はどうなんでしょう。離島では水源は貴重だと思いますが、水源は?」


「基本的には、湧水が水源です」


「どこから湧いているんですか? 湧水って、普通は、大きな山があって、そこの森とか林から地下水へ、みたいな……」


「もちろん、お山です。智峰山」

「それって、お社のある……? 朝凪館をそのまま登っていく、というか、この島の頂上のことですよね。何百メートルもない……」

「高さは二百五十メートルです」


「ほら。そんなに、保水出来るような山でしょうか? いや、事実を疑っているわけじゃないんですけど。あっ、それに、河童ですよね、水の神様。山のてっぺんのお社に水の神様って……。離島だから、水源の重要さはよく分かります。でも、おかしくありませんか。湧水は普通、山のてっぺんじゃないですよね。天からの恵みの雨でも象徴して……?」


「いえ。水源がお社にあるからですよ。雨は副次的なもので。永久機関が雨水や海水のくみ上げろ過を続けていて、お社から湧き出しているのです。その水が浄水設備に集められます」


 またしても、潮見が奇妙なことを言い出した。

 落ち着いてきていた心が、またざわざわと不信に乱され始めた、と彩音は感じた。


「永久……機関? あの、動力なしで永遠に稼働するっていう……夢のメカニズム。でも力学的に否定されたはずでは?」


「しかし、現実にあるのですよ。これも、ラビットが考案したものですが。……信じられない、という顔ですね」

 潮見は微笑した。

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