僕の彼女は1人でいい

楽原 幽

第1話 僕の青春の始まり

2035年

 彼女法が作られた。

 この法律により、12歳以上18歳未満の男性は彼女を3人まで持つことを許された。


 付き合うには男性女性両方の親、当人の署名と印鑑が押された[付き合い届け]を出すことが義務づけられ、同時に、18歳未満の彼女がいる男性が18歳以上になるときには彼女のなかから結婚相手を選び結婚することも義務づけられた。


 だが、彼女のなかにも位があり、男性にとっての優先順位によりナンバー1彼女、ナンバー2彼女、ナンバー3彼女と名付けられていて、ほとんどの場合ナンバー1彼女が結婚相手に選ばれる。 

 もちろん、彼女が1人しかいない男性の彼女はナンバー1彼女で、2人の場合はナンバー3彼女は存在しない。



 そして彼女法が作られてから3年がたった今、中学校、高校では彼女の人数を基準にして身分社会が形成されていた。


 中高生で付き合ってる人って限られてるし、この法律が作られて余計彼女がいる男性って少なくなったんじゃないの?……と思う人が多いだろう。


 結論を言おう、そんなことはない。

 この法律が作られむしろ彼女持ちの男性は増えた。なぜかって? それは少子化問に悩んでいたこともあり、世間が彼氏、彼女もちの子供を優遇したからだ。


 そう、先ほど述べた通り男性は彼女の人数によって、女性は[付き合っている男性にとっての彼女の優先順位]+[付き合っている男性の彼女の数]によって優遇度は決まっていた。


 世間ではこれをKPカップルポイントと呼び、男性は彼女が3人だと6KP、2人だと4KPのように彼女の数の2倍がポイントになる。

 女性は[付き合っている男性にとっての彼女の優先順位]によってYP(優先ポイント)が決まり、[付き合っている男性の彼女の数]によって

DP(男性ポイント)が決まる。

 YPはナンバー1彼女は3ポイント、ナンバー2彼女は2ポイント、ナンバー3彼女は1ポイントになる。

 DPは付き合っている男性の彼女の数が3人だと

3ポイント、2人だと2ポイント、1人だと1ポイントになる。

 そしてこうして決まったYP+DPが女性のKPになる。


 気付いた人もいるだろう。そう、この世界はイケメン達世界の勝ち組にとっては住みやすいものだろう。だって彼女がいるだけで優遇されるのだから。 


 だがそういう強者とは反対の弱者もいるはずだ。そう僕のようなコミュ障とブサイク、ボッチを兼ね備えた最強の弱者にとってはただただ生きづらいだけの世界だ。


 こんな世界なんて消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、と思っていた矢先……

2038年4月10日僕に彼女が出来た。


 ◇


 ◆2038年4月9日


 午後10時

 僕、松山乗丸は黙々と計画を練っていた。

 明日に迫る大イベントに向けてだ。

 そう、そのイベントとは……入学式。僕の高校生活のすべてが決まるイベントだ。


 人とははじめの印象がすべてだ。そう思わない人もいると思うが、少なくとも僕はそう思う。だから小学校、中学校とボッチで、今もKP0の僕はこの入学式に全てをかけている。


 この入学式で「松山君は優しいなー」という印象を植え付け、そのままクラスの人気者になり、絶対に高校生活中に彼女を作って見せるんだ。


 まさに完璧な計画だ。


「ぐふふふ、ぐふふふ」


「お兄キモい、そんなにモテたかったらまず笑いかたと顔を治したら!」


 ドアの隙間からゴミを見るような目で覗いてきたのは僕の妹、松山小春。

 目付きは鋭く僕に当たりが強いが、誰からみても美人で、もちろん学校では明るく、誰からも好かれるタイプで、YP3、DP1のKP

4、さすが僕の妹だ。


「笑いかたは自分でも分かってる、でも顔はしょうがないだろ!」


「まあお兄に彼女が出来るなんてありえないね、もし出来たら何でも言うこと聞いてあげるよ」


「言ったな、絶対彼女作ってやるよ」


「頑張って~」


 小春は舌をだし、半目で僕をバカにしながら去っていた。


「見てろよー、僕は絶対彼女を作ってやるからなー」


 僕は決意を込め、大声で叫んだ。


 だが、その数秒後ドンドンドン、誰かが階段を上ってくる音がした。 

 僕の頬を冷や汗が伝った。

 バーン


「うるさい」


 ドアを開けながら父が怒りの込もった声で言う。


「ごめんなさい、もう寝ます」


「はっはっは、なーに怯えちゃってんの、俺が本気で怒ると思った?」


 憎たらしく笑いながら僕をバカにする。


 忘れてたー、父ってこういう人だったんだった。何せつい1年前まではもっと威厳のある厳しい父だったからだ。


 そう、あの事件が起きるまでは。


 あーもうその事は思い出すな僕、そう自分に言い聞かせ、父の方を見返すと、そこには憎たらしい笑顔が。


「うるせー、もう出てけーー」


半分冗談、半分怒りを込めながら父を部屋から追い出す。


「明日ちゃんと起きろよー、俺自分じゃ起きれないから起こしてね~」


 その数秒後、父が階段を降りていく音がした。


 僕は父の不甲斐なさに呆れながら目覚まし時計の設定を入念にチェックしたあと、


「明日がんばるぞ」


 心のなかでそう呟き布団に入った。



「あー寝れねー」


 4月10日の午前1時、深夜であるこの時間に僕は明日への期待と不安で悶えていた。

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