第六十六話「真の黒幕」
マジェスタは宗一郎の体を放りなげ、自身は神宗の座っていた椅子にすわった。
「そこはお前のイスじゃない!」
ステファンはさけんだ。
豊姫が怯えながらマジェスタを指さした。
「こ、この人です。エミーラを連れていったのは。エミーラはこの人の顔をみた途端ふるえだして……怯えるあの子を手下を使ってつれていったのです」
マジェスタは椅子の上で足をくんだ。
「ははっ、プリンセス。私はあなたの兄上にきちんと交渉したうえで許可をえたのです。もし異論があるなら、どうぞ兄上に訴えてください」
そういって、変わり果てた姿の宗一郎を指さした。
「エミーラはどこだ!」
「大丈夫ですよ。いまごろ船の客室でぐっすりと眠っているだろう。明日の朝に出向だよ。君も一緒に来ないかい?」
「エミーラを取りかえして、自分たちの力でバルアチアにいくよ」
明らかな挑発をステファンははねのけた。
「はっはっは、成長したね、ウォール・ジュニア。あのときは右も左もわからぬ、青二才だったのに」
そういってマジェスタは落ちていた不老の薬を持ちあげた。
「やっぱりこの薬は未完成だった」
そしてステファンをみて、ふふっとわらった。
「お前のパパのせいだぞ。あの発明を私たちに寄こしておれば、この薬は完成していた」
「パパは無事なのか!」
「ああ、無事さ。ママたちもね。でもいくら二人を脅してもあの発明品をもう一度作ろうとはしなくて困っていてね。そうそう、あの船はどうした? お前たちが乗って逃げた船だよ」
「知るか!」
かみつくようにこたえるステファンには気にもせず、マジェスタは隣にいるマックスに目をやった。
「君もバルアチア人、たしか船内で……そうそう、三人の子どもが船から逃げたと報告を受けた。そうか、君か」
しかしマジェスタはマックスの義足をみて、ため息をついた。
「やっぱり沈んだのか……。それにしても、よく生きていたな、まさか忍者になり、こうして会えるとは、不思議な縁だ」
ステファンはマジェスタが和ノ国の言葉を話していることに気づいた。
「マ、マジェ、ス、タさん」
蒼矢が、皮だけの顔で、マジェスタのほうにゆっくり這いつくばってきた。
「ど、どう、し、て?」
「私の部下がこれは『試作品』と言ったはずですが?」
「し、しさ、く、ひん?」
蒼矢の目がぎょろっとひらいた。
マジェスタはそんな蒼矢になぜか目をほそめた。
「幻斎さん、私は以前から書面でやりとりしていますが、自分の想像から脱することには疎いですね。そうはおもいませんか?」
蒼矢の目がさらにぎょろっとむきだした。
「あ、あなたは、ま、さ、か」
そして、ぐたっと意識をうしなった。
マジェスタはゆっくり立ちあがり、ステファンをみすえた。
「娘さんだけでもお父さんを動かせるかと思っていましたが、兄妹そろったほうが成功しそうだ。一緒に来てもらいますよ、ウォール・ジュニア」
それは「力づく」という意味がこもっていた。
ステファンの前に、龍鈴をもつ三人が歩みでた。後ろでは迅や雷太郎、マックスも戦闘準備をしている。
「おい、お前、俺たち相手に勝てるとおもっているのか? 今のうちにやめておけよ」
猿飛が一歩前にでた。
「かまわないよ。君たちは自然の力を使えるって幻斎さんからきいているよ」
「ああ、そうだよ。味わってみな!」
そういって猿飛がとびでた。猿飛の周りに風がまきはじめた。
「くわぉぉぉらーーー」
猿飛は渾身の力で風をまとった拳をマジェスタにくりだした。
バシッ
なんとマジェスタは片手でうけとめた。そして、無駄のない動きで猿飛を投げとばした。
「二十五点というところかな。わたしも昔、武術をしていてね。まだ君にはまけんよ」
すぐにマジェスタの両脇から流と椿が攻撃してきた。
「
マジェスタは余裕な顔をしている。
流の素早い突きがマジェスタの顔面をねらい、椿の水をまとった蹴りがマジェスタの足をねらった。
「いいコンビネーションだ」
しかし、マジェスタは流の突きを手で受け流し、そのまま椿の蹴りを避けるように飛びあがった。
そしてその足がそのまま流の顔面をとらえた。
ドーン
流は吹きとばされた。
間髪入れず、マジェスタは逆の足をつかい、椿に足払いをした。
「うわぁっ」
椿が床にたおされた。
この一連の動作をマジェスタは一瞬でやってのけた。
「まあ六十点というところか。自然の力をつかっていいんだよ」
さっきの若返った蒼矢よりも格段に強い、そのことをその場にいた全員がさとった。
少年忍者たちも立ちあがった。
長老は今度はとめなかった。いや、とめなかったのではなく、なぜか長老は顔を青くして小刻みにふるえている。
それをみたステファンがさけんだ。
「迅、雷太郎、長老たちを外に!」
「わかった!」
二人は長老を連れていこうとしたが、なぜか動かず、視点も合っていなかった。
「長老、どうしたんですか!?」
仕方なく長老はそのままにし、豊姫と藤虎のそばに行くと、マジェスタが声をかけてきた。
「君たち、この人たちも連れていっておやりなさい。それまで待っているからね」
マジェスタは、倒れている将軍や宗一郎たちを指さした。雷太郎たちは戦えない者たちを連れて下の階におりた。
「けっ、余裕じゃないか。クズみたいなことしておきながら、こんなときだけ紳士ぶるんじゃねぇよ!」
猿飛は風の力を追い風にしてマジェスタに飛びかかった。
しかし、するりとよけられ、逆に腹に強烈な膝蹴りをくらった。
「うぐっ」
猿飛はその場にうずくまり気をうしなった。
猿飛が一撃でやられたことにまわりが驚いていると、マジェスタは倒れている猿飛を見おろしていった。
「口は達者だが、技は三十点くらいだね。君はその自然の力、使いこなせていないよね、さあ、どうしてやろうかな」
マジェスタはなにかをかんがえている。
「やめろ!」
流が印を切り、炎の矢をはなった。
するどい炎がマジェスタの体をねらった。
シュゥゥ
なんとマジェスタは炎の矢を手でとめた。
「な、なに?」
そこへ後ろから水の蛇があらわれ、マジェスタにまきついた。
「ほう、水圧を使って相手を縛るとはかんがえたな」
蛇がぐいぐいとマジェスタを締めあげていく。
「だが、もう少し工夫がほしいな」
そういってマジェスタは両腕をひらくと、蛇は無残な水しぶきにかわった。
「つぎはこっちだぜ」
マックスがカラクリ銃をうった。
バンバンバン
火薬がマジェスタの周りで破裂する。
しかし、マジェスタが瞬時に横に移動していた。
「君も面白いね。君たちはもう少し修行をすればもっと伸びる可能性がある。でもこの男はだめだな。資格がない」
マジェスタは倒れている猿飛の腕をとった。そこには風の龍鈴がまかれている。
「やめろ!」
流と椿が同時に印をきった。
「ちょっと待ってよね」
マジェスタは少しいらだったようにむねからナイフを取り出し二人に投げつけた。
「うわっ」
考えられないスピードでナイフが二人をおそう。二人とも避けるのがやっとだった。
「さてと、君はちょっと降格かな」
マジェスタは猿飛の腕を持ちあげた。
そしてためらいもなく腕から風の龍鈴をはずした。
猿飛から体が一瞬光ってビクッと動いたが、すぐにおさまった。
「資格無き者に大きな力を与えるべきではないな」
マジェスタは、龍鈴を放り投げた。龍鈴は長老の前におちた。しかし、怯えたままの長老は目の前に落ちた龍鈴をひろえなかった。
「さあ、お遊びはもういいだろう。バルアチアに行こうか、ウォール・ジュニア」
マジェスタは笑顔で手をだしてゆっくりせまってくる。
ステファンは、自分の力ではこの男の足元にも及ばないことを十分わかっていた。
(しかし、このまま連れていかれるわけには)
そのとき外からビューっと風がふいてきた。
(風……)
その風はステファンの脳裏にいろいろなことをよぎらせた。
「さあ、どうした、両親にも妹にもあえる。何が不満なんだい?」
マジェスタの不敵な笑みを浮かべながら近づいてくる。
(パパ、ママ、エミーラ!)
ステファンはぐっと拳に力を入れ、腹をくくった。
そしてゆっくり前をむいた。
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